京都府北部の宮津市郊外に所在する京都府立海洋高等学校(以下京都海洋高校)の2年生が、実習船による約1週間の航海実習を実施。大阪湾に寄港して、小中学生への学校説明会や実習船の見学会を9月14日に行った。

また、京都海洋高校の生徒たちは大阪の海運会社を訪問。新造コンテナ船の最新設備や操船シミュレーターを体験した。

■資格・就職に強い、だけじゃない京都海洋高校

京都海洋高校は日本海・栗田(くんだ)湾に面する海洋水産系の専門高校だ。設置学科には「海洋科学科」「海洋工学科」「海洋資源科」の3つの専門学科があり、海洋工学科・航海船舶コースの2年生は、航海士への訓練教育の一環として毎年9月に実習船「みずなぎ」による乗船実習を行う。

日本海を南下しながら関門海峡を越え、瀬戸内海を航海し、大阪港や神戸港に入港するというもので、例年この実習のタイミングで地域の小中学生と保護者を対象とした説明会と実習船の見学会を開催している。

同校では2年次以降それぞれの学科・コースに分かれ、学ぶ専門の内容は大きく異なる。コース制を取らない海洋科学科は専門高校では珍しい進学に特化したクラス。大学などへの進学や公務員試験に向けて、普通科の科目に重点を置いている。

水産海洋系の中で同校は全国トップクラスの進学校で、とくに専門科・指定校枠など利用できる水産海洋系の学部・学科への進学に強く、ワンランク上の進学を目指せるという。一般入試での進学先も幅広く、北海道大学や高知大学、長崎大学などの国公立大学、早稲田大といった有名私大への進学実績もある。

また、海洋工学科と海洋資源科はそれぞれ航海船舶コース/海洋技術コース、栽培環境コース/食品経済コースに分かれ、いずれも専門性の高いカリキュラムが特徴だ。

船に関連する資格以外にも商業系や工業系など幅広い分野の職業資格に挑戦でき、在学中の資格・検定試験の合格率は高く、就職に強みを持つ。年間平均では生徒1人あたり2.5個の資格を取得している計算で、専門高校でもこれほど多くの職業資格を取得させる学校は稀だそうだ。

「航海船舶コース」では船舶の運用と海洋開発に関する知識や技術を学び、航海士になるために必要な国家資格「海技士」を取得・養成するコースで、3年次6月には国際航海(済州島)に取り組むという。

同校の卒業後の進路として就職と進学の比率はほぼ半々とのことで、在校生は1年次のうちに2年次以降の学科コースを選択する。近年はほとんどの学生が希望の学科コースに進めており、人数調整などは行っていないそうだ。

京都北部地域で過疎化が進んでいる影響で、同校では自宅からの通学生が減少傾向にあり、在学生のうち自宅生は半数以下に留まる一方、大阪をはじめ他府県出身の寮生や下宿生の比率が高まっている。

とくに近隣に水産系の専門高校がないエリアからの進学者が年々増加しており、近畿・中部、北陸、関東など全国の中学生から“選ばれる水産系高校”のひとつとなっているようだ。同校では昨年度に校舎の一部を改築して寮の定員を増やすなどして、他府県出身の自宅から通えない学生への対応を進めている。

総務担当者からの学校説明会後、同校の生徒たちは「みずなぎ」の船内や設備、学校生活などを参加者たちに紹介。海洋観測のための装置や入港の際の係留作業などについても説明していた。

■燃費改善効果に優れた最新のコンテナ船設備を見学

実習船の見学会などを終えた高校生たちは昼休憩を挟み、大阪南港の岸壁に停泊する新造貨物船「島風(しまかじ)」のブリッジや機関室などを見学した。

2021年7月に竣工した同船は大阪と沖縄・那覇を結ぶ「丸三海運」の内航コンテナ船で、最新技術を用いた高効率推進器を搭載し、推進性能向上効果を最大化。データの連携・蓄積・分析を通じた海事DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現により、燃料消費量や温室効果ガス排出量を削減に大きな成果を出している。

ブリッジに搭載されている電子海図には、日本気象協会が提供する「POLARIS Navigation(最適航海計画支援サービス)」の気象情報を重畳表示させることで現在地、現在地、目的地、航海途中の気象の把握が可能。計画した航路にAIがそれらのデータをフィードバックして予測した“最適航路”の表示などもできるようだ。

内航船は外航船に比べて航路の選択の幅が狭く、一航海も短いため、最適航路により省エネ効果を得るには、高精度・高解像度な気象海象情報が不可欠。大阪-沖縄間の同一航路、船型、同等出力の船を比較対象船に選定した値で、同船は平均で約12%の燃料消費量を削減につなげているという。

■リアルすぎる操船シミュレーションを体験

続いて、生徒たちは内航ケミカル船・LPG船の大手オペレーターの「田渕海運」に向かった。

創業1917年の同社は、主に海外から輸入される原油やそこから精製された石油化学基礎製品(誘導品)を運搬している。大阪に本社を構え、現在は東京、千葉、愛媛、山口、シンガポールに事業拠点を持ち、自社で5隻の社船を保有。船主会社との契約による傭船の運航事業も展開している。

海上勤務者は現在75名。船員は「全日本海員組合」という労働組合に属し、その規定に従って年齢から算出した標令給に、乗船手当や職務手当が反映されて支給される。18歳の標令給は18万ほどだが、時間外手当なども含めた乗船中の給料はトータルで30万円台後半に達するようだ。社船の乗組員は3か月乗船の1か月休暇というサイクルで、休暇中は標令給に家族手当や職務手当がつくという。

同社では労務改革などを通じて、船員のワークライフバランス向上に向けた取り組みも進めている。2ヶ月乗船/20日休暇など、乗船期間がより短い働き方も今後用意していく方針だという。また、船員の増強や女性船員の積極採用を見据え、予定している新造船では個人の居室それぞれにシャワー・トイレを完備する計画のようだ。

そんな同社では船員不足と高齢化などを背景に「日本海洋科学」と提携し、独自の操船シミュレーターを2020年に導入。所属乗組員やグループ会社の乗組員の教育、船長昇格前研修などに用い、さまざまな状況に対応する操船スキルの向上や陸上勤務者との連携強化などを図っている。

天候や時間帯、陸に見える街並みなど視界の変化を正確に再現するこの操船シミュレーター。潮の流れや波のうねり、貨物の重さによる影響などもリアルに再現することが可能で、トラブルや事故が起きた際の対応の研修もできるという。

関西圏の内航船のオペレーター会社でも、これほど大規模な操船シミュレーターを所有しているのは同社を含めて2社のみ。現在はエンジンシミュレーションも日本海洋科学と共同開発中とのことだが、京都海洋高校の生徒たちは関門海峡の周辺での操船をゲーム感覚で体験し、大いに楽しんでいた。

なお、京都海洋高校では10月6日~12月25日の期間中に中学3年生を対象とした個別相談会や、11月29日には南部、他府県中学校保護者の保護者や教員を対象とした入試説明会も実施するという。実施要項の詳細や最新情報は同校のホームページなどを確認してみてほしい。