かつてテレビ各局で放送されていた2時間サスペンスを、画質まで“80年代っぽい映像”に再現して新たに制作した『友近サスペンス劇場 外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』(YouTube『フィルムエストTV』)。パロディという枠を飛び越え、“2時間サスペンスあるある”を詰めに詰め込んだ約90分という長尺での高すぎる再現度が話題を集め、10月9日時点で再生回数は320万回を超えている。

当時の2時間サスペンスには到底及ばない少ない予算と制作スタッフの人数ながらも、高い再現クオリティの作品が実現した背景には、友近をはじめ携わる人たちの「熱量」があった。企画・主演の友近と西井紘輝監督に話を聞いた――。

  • 『友近サスペンス劇場 外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』企画・主演の友近(左)と西井紘輝監督

    『友近サスペンス劇場 外湯巡りミステリー・道後ストリップ嬢連続殺人』企画・主演の友近(左)と西井紘輝監督

「予算が、予算が」に鬱陶しくなっていた

これまでも自身のYouTubeチャンネルで、2時間サスペンスをオマージュしたコント『友近ワイド劇場』を公開してきた友近。「あの時代の2時間サスペンスを誰か撮ってくれないだろうか」という思いを抱いていた中で、“80~90年代っぽい映像”を制作するフィルムエストTVの西井監督の存在を知り、「西井さんなら夢をかなえてくれるかもしれない」と企画を持ち込んだ。

数分尺のパロディコントではなく、本業のキャストを集めて実際に愛媛でロケを行い、90分という長尺で制作された今作。それなりの制作費がかかることが想像できるが、西井監督は「お金どうこうというのは全く頭の中になくて、とにかく“やりたい!”という気持ちが先走ったんです」と振り返る。

そこには、「コンテンツを作るとなると、絶対に“予算が、予算が”という話になって企画倒れに終わる。僕自身、それがちょっと鬱陶しい気持ちになっていたんです」という思いも。そこで西井監督を突き動かしたのが、友近の熱意だった。

かたや友近も、西井監督に対して「私の勝手な思い込みですけど、この人に任せたらいいものができる自信がありました。このチームには完全に信頼できると思ったんです」と、運命の出会いを感じていた。

  • VHSの再生画質まで再現 (C)フィルムエストTV

「今、全部熱量のある仕事でやれている」

熱量がある現場からは良い作品が生まれる――そんなエンタメのセオリーを、西井監督は改めて感じたという。

「何より普通のドラマよりもスタッフの数が半分以下という苦しい体制だったのですが、本当に誰一人手を抜かず全力でやってくれたからできましたし、全員が“熱意で何とかしなきゃ”という思いでやってくれていたのも感じました。それは、友近さんと一緒に作らせていただいているからこそ、全員が目指す方向性をイメージしやすかったのも大きいと思います」(西井監督)

熱量を持って参加したのは、キャストやスタッフ陣だけではない。地元・愛媛で友近を支える「友近後援会」の存在なくして、この作品は成立しなかった。

「(動画内の)『やすまるだし』のコマーシャルに出ている女性が私の学生時代の友人なんですが、彼女のお父さんが“友ちゃんが芸能人になってテレビに出たら、おっちゃんが人集めて後援会作ったるわ!”と言ってくれて、それから20年くらい、いろんな地元の人が参加してくれているんです。その会合で、今回の企画の話をして“ご協力してくださる方は手を挙げてくださったらうれしいです”とお願いしたら、撮影場所やエキストラの協力からスポンサー集めまでしてくれて! だから、愛媛でしかこの作品はできなかったと思います」(友近)

「私は全部こういう熱量のある仕事で、今やれているんです」という友近。「毎日現場に行くのにワクワクする仕事をやりたいと思ってこの世界に入ったのですが、それがこの5~6年で実現できてるかなという感じです。今回の現場だけじゃなくて、水谷千重子の現場も西尾一男の現場も、みんなに見てもらう“発表会”という感じですね」と充実の表情を見せる。

それは、自分の熱意が周囲に伝わることで実現できているようで、友近が「“もうやるんだ!”っていう時の友近の目は違う、とよく言われます(笑)」と明かすと、西井監督は「今回もまさにそうでした(笑)」と、うなずいた。