3番目に注目されたシーンは20時23分で、注目度81.0%。賢子(梨里花)が母への思いを爆発させるシーンだ。
里帰りしていたまひろのもとへ、中宮・藤原彰子の使者が手紙を運んできた。早く藤壺へ戻ってくるようにとの仰せだ。父・藤原為時は手紙を読み終えると、「はあ…帰ってきたばかりだというのに、もうお召しか。よほど中宮様に気に入られておるのだな」と、ため息をついた。「左大臣様にも、よくしていただいておるのだろう? お前が幸せなら、答えずともよい」感慨深げに為時がつぶやく。「父上。賢子のことでございますが…」「あの子にも、そのうちお前の立場は分かろう」まひろは自分に懐かぬ娘・藤原賢子のことが気にかかる。
「姫様のお帰りにございます」乙丸(矢部太郎)の声が響き、賢子は相変わらずぎこちない様子でまひろの前を通り過ぎていく。「賢子。母上は、土御門殿にお戻りだ」為時が言うと、「一体、何しに帰ってこられたのですか?」賢子の言葉にまひろの顔がこわばった。「内裏や土御門殿での暮らしを自慢するため? いと(信川清順)や乙丸も、変な顔をしてました」「賢子の顔が見たいと思って、帰ってきたのよ」「母上はここより、あちらにおられる方が楽しいのでしょう?」賢子はこれまで抑えてきた感情を吐き出した。「お前の母は働いて、この家を支えてくれておるのだぞ」見かねた為時が助け船を出すが、賢子は止まらない。
「ではなぜ、昨日のようなお話をするのですか? お菓子をたらふく食べたとか」賢子の追及にまひろは言葉が出ない。昨日は内裏での日頃の鬱憤が、酒も手伝ってまひろに多くの失言をもたらしたことを、まひろは自覚している。「母上が嫡妻ではなかったから、私はこんな貧しい家で暮らさなければならないのでしょう?」「黙らぬか」さすがに為時も賢子を制した。「私は宮仕えをしながら、高貴な方々とつながりを持って、賢子の役に立てたいと思っているのよ」「うそつき。母上なんか大嫌い!」走り去る賢子を、乙丸があわてて追いかける。
「すっかり嫌われてしまいました」まひろは懸命に弁解したものの、今の状況で自分の思いが娘に届かないことは、おのれが一番よく分かっていた。「お前がいない間、あの子の友は書物であった。お前によく似ておる」勉強嫌いの賢子しか知らないまひろは、父の言葉に衝撃を受けた。門の外では賢子が、声を上げて泣いていた。
賢子への同情コメントが多数
ここは、賢子の寂しい境遇に共感した視聴者が多かったと考えられる。
賢子が物心ついたころにはすでにまひろは四条宮の女房たちに和歌などを指南していた。幼い賢子は母親に甘える機会がほとんどなかったのだろう。夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)の死後、懸命に賢子を育てるために働いていたまひろと、母に甘えたい盛りの賢子のすれ違いが、ついに今回、決定的となった。
SNSには、「まひろちゃん、賢子ちゃんを悲しませるなよ」「賢子の視線から見るとまひろの部屋の御簾は壁だね」「久しぶりに会えたお母さんが仕事場の自慢ばかりしていたら寂しくなっちゃうよね」「無礼講の場で公卿に言い寄られたなんて聞かされたら、なじりたくもなるよ」などと、賢子に同情する多くのコメントがアップされた。
まひろも久々の里帰りでリラックスしていたとはいえ、夕餉のシーンでの賢子の気持ちを逆なでするような言葉の連発に、まひろ一家と視聴者はヒヤヒヤしたのではないだろうか。かつて賢子は、まひろへの不満がつのり、ボヤ騒ぎを起こしたことがあった。不満を溜め込んで爆発する性格のようだ。まひろも言っていたが、気難しいところがよく似た母子だ。まひろにとっては、為時の「あの子の友は書物であった」という言葉がせめてもの救いだった。2人が和解できる日は来るのだろうか。
史実では紫式部は賢子が熱を出して寝込んだ時に、「若竹の 生い行く末を 祈るかな この世を憂しと いとふものから」という和歌を残している。「この世はつらくて嫌なことが多いけれど、若竹のようにすくすくと成長する我が子の未来を祈らずにはいられません」という、娘の幸せな将来を願った歌だ。母親としての愛情を強く感じる。
成長した賢子を演じる梨里花は、HONESTに所属する14歳。大河ドラマは2021年の『青天を衝け』以来、2度目の出演となる。2歳でデビューして以来、数々のテレビドラマなどに出演し、その演技力が評価されている。これからの活躍にも期待だ。