日本語には、古くから月にちなんだ言葉や月を表す表現がたくさんあります。月齢や見え方、季節によって変化する呼び名や、故事・ことわざまで、どれも洒落たものばかり!
本記事では、日本人の繊細で豊かな感性があらわれた、月に関する表現の数々をご紹介します。
月の名前・呼び方 【満ち欠けや形編】
かつての暦は月の満ち欠けによるもので、夜は月明りを頼りにしたり、月を時間の目安にしたりと、月は生活に根付いていました。月の満ち欠けに基づく呼び名には、日本人と月との深い関わりが表現されています。
三日月(みかづき)
新月から3日目に見られる細い弓形の月のことです。その前後の日に見られる、月齢の若い月のことも指します。
眉月(びげつ)
月がまったく見えない新月の状態からほんの少しだけ姿を現した、非常に細い形の月です。眉のように見えることから名付けられました。
片割(かたわ)れ月・片月(へんげつ)
月の半分だけが照らされ、半分または半分以上欠けて見える月のことを指します。
上弦(じょうげん)の月
新月から次の満月へ向かう間の半月で、月の西半分が輝いて見える状態の月です。半月の形が弓と似ているため、弓に張る弦(つる)の字が用いられ、沈む際は弓の 弦 に当たる直線部が上に見えることが名前の由来と言われています。
下弦(かげん)の月
満月の後に見られる半月で、上弦の月とは反対に西側が欠けた形をしています。沈む際には、弓の弦に当たる部分を地平線側(下向き)に向けて沈んでいきます。
弓張(ゆみは)り月
弓を張ったような形に見える月のことです。上弦の月や下弦の月のことも指します。
朔(さく)
太陽と月の黄経が等しくなる現象のことで、新月を意味します。月は太陽と地球の間にいて、暗い面を向けているため、夜空には見えない状態になります。
待宵月(まつよいのつき)
十五夜(満月)の前夜に出る月の呼び名です。翌日の満月を楽しみに待つ気持ちが込められています。小望月(こもちづき)とも言います。
望月(もちづき)
陰暦十五夜に出る月で、満月のことを指します。
十六夜(いざよい)
十五夜の翌日の夜のことや、またその夜の月を指します。十六夜の月は、やや遅れて上ることから、「ためらう」という意味のある「いざよい」の名が付いたといわれています。
立待月(たちまちづき)
陰暦17日目の夜の月のことです。十五夜の翌日である十六夜のさらに次の日で、月がより遅く出るため、じっと立って待っているという意味があります。
居待月(いまちづき)
陰暦18日に空に見える月を指しています。立待月 よりさらに月の出が遅いため、座って待つという意味が込められています。
寝待月(ねまちづき)
陰暦19日の夜に上る月の呼び名です。居待月よりも月が出るのが遅いので、寝て待つという意味があります。
更待月(ふけまちづき)
陰暦20日の月のことです。寝待月よりもさらに遅い時間、夜が更けるまで月が出るのを待つことから、こう呼ばれています。
月の名前・呼び名【季節編】
四季折々の美しさを表現するために、月にも特有の呼び名が付けられています。十五夜は特に有名ですが、それ以外の季節も美しい月の様子を多彩な言葉で表現しています。
朧月(おぼろづき)
春の夜に、霧などでほのかにかすんで見える月を指します。
淡月(たんげつ)
淡く柔らかな光の薄くかすんだ月。春の季語でおぼろ月と似た意味があります。
素月(そげつ)
澄んだ夜空に明るく冴えわたって見える月を指します。月を見るのに良い、陰暦8月の異称でもあります。
寒月(かんげつ)
凍てつくような冬の夜空に光る、冴えわたるような月を表しています。
月の名前・呼び方【気象・天候編】
日本の文化では特に、空模様に影響を受ける月の様子を捉えた呼び名があります。これらの呼び方には月を見るための特別な時の選択を楽しむという、日本人の繊細な感性が色濃く反映されています。
雨月(うげつ)
雨が降り、名月が見られないことを表現しています。
無月(むげつ)
曇や雨によって、月を見ることができない状態を指しています。特に中秋の名月が姿を見せないことを指します。
薄月(うすづき)
薄い雲に覆われて、月がほのかに照ることを言います。
霽月(せいげつ)
雨がやんだ後の月を指し、雨後の月とも言います。比喩として、曇りのないさっぱりした心境を表すこともあります。
月の名前・呼び方【月の見え方・明るさ・様子編】
月は古来より、その見え方や明るさによって様々な名前で呼ばれてきました。日本の文化や詩情を表現する重要な言葉でもあります。
孤月(こげつ)
夜空にぽつんと浮かぶ一片の月、ものさびしさのある月を指す言葉です。
白月(はくげつ)
明るく輝く月のことを指しています。名月とも言います。
青月(せいげつ)
青白く光って見える月のことです。
明月(めいげつ)
曇りなく晴れた夜の澄みわたった満月のことを言います。十五夜の代表的な表現として知られています。
朗月(ろうげつ)
澄み切った空に明るく輝く月を意味する言葉です。
皓月(こうげつ)
白い光を放つように、非常に明るく照り輝く月を証言しています。
月天心(つきてんしん)
天心というのは空の真ん中の意味で、夜空の真上に月が輝く姿を表現しています。
月の名前・呼び方【時間の推移編】
月は時間と共にその姿を変え、人々に様々な印象を与える存在です。特に特定の時間帯に現れる月を指す言葉は、日本の伝統文化や季節感を映し出しています。
夕月(ゆうづき)
夜の訪れを告げる夕方に見える月を示しています。
黄昏月(たそがれづき)
日が沈んでからしばらくした黄昏時に現れる月のことを指します。
残月(ざんげつ)
夜が明け始める頃まで空に残っている月のことです。朝行く月、有明の月、のこんの月とも言います。
月にちなんだことわざ・故事
月はその美しさや神秘性から、数多くのことわざや故事に取り上げられてきました。日本文化には、月を通して人生や自然の理を学ぶ表現が豊富に存在しています。
月と鼈(つきとすっぽん)
二つのものが大きくかけ離れていて、まったく比較にならないことの例えです。月もスッポンもどちらも丸い点は似ていますが、実際は非常に大きな違いがあることからきています。
月夜に提灯(つきよにちょうちん)
明るい月夜に提灯にあかりを灯す意味から、無駄・不必要なことの例えとして用いられます。また、無用な贅沢の例えでもあります。
月夜の蟹(つきよのかに)
敵に見つかりやすい明るい月夜には、蟹は月光を恐れて餌をあさらないので、肉がつかないといわれることから、やせていて身のない蟹。転じて、中身や内容のないことの例えとされます。
日は夜を知らず月は昼を知らず
太陽も月もどちらも明るく天空を照らすが、どちらも昼夜、別の世界のものなので、両方を兼ねることは不可能、どちらかがもう一方を兼ねることはできないということを例えています。
雪月花(せつげつか)
冬の雪、秋の月、春の花は、四季の自然美を代表するものです。四季の自然美の総称として用いられることもあります。
花鳥風月(かちょうふうげつ)
花は春、鳥は夏、風は秋、月は冬といったように、自然の美を象徴する風物のことを言います。また、それを鑑賞するなどの風雅な遊びを指します。
光風霽月(こうふうせいげつ)
雨上がりの澄んだ月の意味から、心が光風のように澄み切ってさわやかなことの形容に用います。
一月三舟(いちげつさんしゅう)
仏教に由来する言葉で、人は立場の違いによって、仏様の教えも異なって受け取るというこ意味です。一つの月も、止まっている舟、北へ行く舟、南へ行く舟、それぞれから見ると、異なって見えることが由来です。
嘯風弄月(しょうふうろうげつ)
「嘯風」は歌を口ずさんだり口笛を吹いたりする意味、「弄月」は月を眺めて鑑賞する意味があることから、自然の風物を愛で、詩歌や絵など風流を楽しむことを言います。
月と文学・詩歌
月はいつの時代も多くの文学作品や詩歌の中で美しく表現されてきました。月にまつわる言葉や表現を通じて、文学の奥深さに触れてみるのも良いでしょう。
百人一首の「有明の月」
百人一首のなかで、月を詠んだ歌は11首もあります。その中でも4首ある「有明の月」は特に印象的な表現です。 有明の月は夜明けの時間になっても残っている月のことで、日の出と共に見えなくなってしまうことから、夜明けまで想い人を待ちわびる心や、恋のはかなさ、つれなさになぞらえられ、多くの歌に詠まれています。
「月が綺麗ですね 」=「I love you」?
「月が綺麗ですね」という言葉は、明治の文豪・夏目漱石が「I love you」を日本語に訳す際、直訳ではなく日本人向けの文学的な表現として訳した言葉とされることが多いですが、実は、漱石が言ったという文献や典拠は残っていないとか。 実際の漱石のエピソードかどうかは別にしても、「月が綺麗ですね」という言葉は、より繊細で深い感情を届けたいという、日本語の情緒や奥ゆかしさを大切にした愛の告白の表現と言えるでしょう。
素敵な月の名前や月に関する言葉の意味を知って、感性を磨こう
月には美しい呼び名が数多くあり、そのひとつひとつに込められた意味を知ることで、さらに感性が磨かれます。また、ことわざや故事、文学などには、月を通して人生や自然の理を学ぶ表現が豊富に存在します。月に関する新たな言葉を取り入れて、日常に彩りを添えてみてはいかがでしょうか。