藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑戦する第72期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、藤井王座連勝で迎えた第3局が9月30日(月)に京都府京都市の「ウェスティン都ホテル京都」で行われました。対局の結果、劣勢の終盤戦で渾身の勝負手を炸裂させた藤井王座が156手で勝利。3勝0敗として王座初防衛に成功しました。
角換わりから永瀬九段リード
第1局では△3三金型早繰り銀、第2局では王道の腰掛け銀を用いて連勝とした藤井王座。三たび角換わりに進展した本局では後手番で右玉に組み替える作戦を採用しました。先手の仕掛けを封じながらのらりくらり指す方針で、盤上は最先端の研究勝負とは一線を画した雰囲気に。じりじりとした間合いの計り合いが続きます。
先に動きを見せたのは意外にもその藤井王座でした。桂をぶつけたのは盤上右方からの逆襲を目指した積極策ながら、実戦はここからの永瀬九段の対応が秀逸でした。4筋方面は軽く受け流して左辺の端攻めに手段を求めたのが右玉攻略に向けた第一歩。やり取りが一段落した局面は藤井玉が孤立しており、寄せられるのは時間の問題となっています。
待ち構えていた鬼門
形勢は先手勝勢で、永瀬九段としては着実に詰めろを続けられれば勝ちという状況。ともに一分将棋の秒読みが迫るなかそれでも永瀬九段は条件通りの攻め手を続けますが、最後の最後に大きな鬼門が待ち構えていました。藤井王座が盤上六段目に打った香での王手がそれ。あえて上段から打つことで自玉が狭くならないよう配慮しています。
王手に対し永瀬九段がとっさに選んだ歩の合駒は極めて自然に見える一手。しかし本局に限ってはこれが敗着となりました。9筋に歩が立たなくなったことにより、間一髪のところで藤井玉への詰めろが外れているのです。からくりに気づいた永瀬九段が肩を落とす様子は、藤井王座が八冠同時制覇を達成した昨年の王座戦第4局を思わせました。
藤井王座が初防衛
人間離れした勝負術で速度の逆転に成功した藤井王座は冷静に永瀬玉に必至をかけます。終局時刻は21時0分、最後は藤井玉への詰みなしを認めた永瀬九段が投了。局後のSNS上は「異次元の罠の仕掛け方」「名局賞というより魔局賞」「観ていて声が出てしまった」と感心とも諦観ともつかないため息にあふれました。
勝った藤井王座はこれで3勝0敗として王座初防衛に成功。局後のインタビューで藤井王座は「対局していて充実感のあったシリーズだった。(10月に始まる)竜王戦でもいい将棋を指したい」、永瀬九段は「自玉の詰む詰まないを読むのが遅かった。ゼロから頑張りたい」と感想を口にしました。
水留啓(将棋情報局)