桂場が愛する団子は、桂場にとってなくてはならない必須アイテムといえそうだが、松山も「僕はいろいろと小道具を使うのが好きで、小道具によっていろんな表現ができるとも思っています」とユニークなアプローチ方法について語る。

「僕は小道具を使って現場で遊んでいるのですが、これはきっと誰も気づかないだろうと思っていたのに、SNSを見て『細かいところまで見てくれている方がいるんだな』とよく驚きます。それってすごいことだなとも思いますが、画面に映るすべてが表現につながることが逆に怖いなとも感じました。だから、身体全体を使って、指先まで何を表現するべきなのかということをすごく考えさせられます」

そういった松山の遊び心によって桂場の多面的な魅力が際立っているが、松山自身は「脚本や演出、共演者の方々の受けなどによって、桂場というキャラクターをより面白くしていただいたし、そこが大きかったと思います」と感謝する。

「桂場は仏頂面が基本形なので、そこをどう崩して表現していくのかが重要でした。常に出ていて、自分の心情を説明するような人でもないし、出てくるたびに煽り続けるタイプです。例えば『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』といったことを最初から言っていますが、その煽りが背中を押すことにもつながっていて、桂場はそういう風にしか表現できないんだろうなと思いました」

ともすれば、ステレオタイプの頑固キャラになりがちだが、桂場はそうではない。

「単に意地悪な感じだと、役の幅が狭くなり、記号でしかなくなってしまいます。いわば、そういう記号をどうやって今まで見たことのない記号にできるのかが大切で。どの役でもそうですが、そこを常に探っています。仏頂面の桂場は、顔の表情で表現できない代わりに、手や仕草で表現できることがたくさんあります」

実際に、団子を食べようとした瞬間、寅子に話しかけられて手を止めるという仕草が何度も笑いを誘ってきたが、あのくだりは脚本には書かれていなかったそうだ。

「せっかく目の前に団子があるから、これを利用しない手はないなと。話しかけられても、それを無視して食べればいいのに食べないという桂場の人間性が、なんとなく見ている方にも伝わるかなと。一旦、団子を置けばいいのに桂場は置かない(笑)。その仕草で、団子とトラちゃんの話のどちらを優先するのかを迷っているという表現になります。今回はそういうところをいろいろと試せてすごく勉強になりました。また、それをやらせていただけた現場の皆さんにも感謝しかないです」