一般社団法人鉄道模型コンテストが主催する「第16回全国高等学校鉄道模型コンテスト」全国大会が、8月2~4日に新宿住友ビル三角広場にて開催された。

  • 「全国高等学校鉄道模型コンテスト」が今年も開催。レールマウンテンバイクのあるこの作品が最優秀賞に輝いた

このコンテストは、モジュール部門、1畳レイアウト部門、HO車輌部門の3種類に分かれており、今年も170校を超える数の学校が出展。3日間にわたって多くの一般来場者の注目を集めた。審査結果の発表は最終日(8月4日)の16時に行われた。一般個人で出展可能な「KATO T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」も同時に開催され、こちらもにぎわっていた。

170校を超える学校が出展、モジュール部門最優秀賞は

まずは「鉄道模型コンテスト」モジュール部門から紹介。この部門では、直線線路または曲線線路に対応したモジュールレイアウトを制作する。直線モジュールは長辺900mm・短辺300mm、曲線モジュールは一辺600mmのモジュールボードを使用する。ただし、ボードも含む全体の高さは450mm以下に抑えなければならない。その他にも、ストラクチャーの固定や電飾の方法・電源など、さまざまな規定をクリアする必要がある。会場では、それらの作品をブロックごとに1周つなげ、展示用の車両を走行させていた。

例年、モジュール部門の最優秀賞として文部科学大臣賞が設けられていたが、今回から、最優秀賞を上位として文部科学大臣賞と分割された。今年の最優秀賞は、白梅学園清修中高一貫部が受賞し、文部科学大臣賞と同時受賞を飾った。同校は、訪れてみたい町として生徒が選んだ、岐阜県の名所を再現。飛騨高山の「古い町並」や宮川朝市、旧神岡鉄道線を活用したレールマウンテンバイク「Gattan Go!!」などを制作した。

このモジュールは、「垣間見る」をテーマに、あえて一般来場者の目に触れるカーブ外周に高い山を設けた。上から俯瞰する以外に、外側からトンネルをのぞいてみると、レールマウンテンバイクを楽しむ人や、手をつないで歩く人の姿が見られる。なお、作中の旧神岡鉄道線では、まくらぎ交換をしているボランティアも配置され、山岳路線らしく勾配も設けられている。

  • 白梅学園清修中高一貫部の作品が最優秀賞に。「おおがきたらい舟」と高山市の町を表現

  • 旧神岡鉄道線を活用したレールマウンテンバイクの情景

  • レールマウンテンバイクで鉄橋を渡り始める緊張の瞬間

大垣市の水門川をイメージした川を境に、高山市の「古い町並」と、宮川朝市の開かれる地区で町を二分している。景観保持のため、「古い町並」には電柱が1本もないところも再現。宮川朝市のテントに並ぶのれん・幟が作り分けられ、売っている農産物も自作。川沿いの柳並木には、アスパラガスの葉を使用したという。水門川にもこだわりが見られ、青・緑の絵の具で着色した後にパステルでぼかし、プラ板を被せてから「大波小波」(KATO)で波を付けた。滝の表現に綿を使用することで、水しぶきも表現した。

モジュールの各所にさまざまなストーリーが散りばめられてるところもポイント。今回は、「古い町並」の旅館で旅行客を見送る女将、客を呼び込む店主、水門川でたらい舟を楽しむ自分たちなど、いろいろなミニドラマがある。丁寧に作り込んだ岐阜県の名所を隠しつつ、俯瞰やトンネルから見る景色が魅力的な作品となっていた。

  • 高山市内の「古い町並」をイメージしたエリア

  • 「おおがきたらい舟」を楽しめる水門川で街区を分割

  • 宮川朝市(写真上)を取り入れた町並みにもさまざまなストーリーがある

優秀賞は2校あり、慶應義塾志木高等学校と明法中学・高等学校が選ばれた。慶應義塾志木高等学校は、横浜駅南側のJR根岸線・東急東横線(廃止区間)と京急本線が交差する付近の街並みを再現した。綿密な現地調査の上、既製品を使わずにフルスクラッチで建造物を再現。画像・実測の両方を利用して寸法を割り出し、3DCADなどで精密に制作したという。

モジュール中央にある京急本線の鉄橋と、石崎川の再現も見事なもの。鉄橋は、骨組みを3Dプリンターで作成しつつも、ミリ単位でプラ棒を組み合わせ、ウェザリングした金網を載せた。川は濁った色を再現し、ペットボトルの破片に針で塗装することで、漂流物も表現した。

他にも、花屋に並ぶ花を七味唐辛子で再現し、一般には立ち入れない私有地の木々にドライフラワーを使用するなど、いたるところに努力の成果が表れている。根岸線・東横線の高架下も、ディープな雰囲気が表現されている。横浜市に住む筆者から見ても、非常に再現度の高い作品だった。

  • JR根岸線、東急東横線の廃止区間と京急本線が交差する界隈をリアルに再現

明法中学・高等学校は、高架化工事が行われている西武線の東村山駅を制作。こちらも実地取材をもとに、大部分の構造物を紙やヒノキ角棒で自作している。工事中の高架の上に載っているクレーンも、竹ひご・紙・金属線で手作りしたもの。高さの制限を超えないようにしつつも、迫力ある場面を俯瞰できるようになっている。ただし、一般に立ち入れない場所も多いため、地上で見られる範囲や、各種SNSも活用したという。

地上ホームの作り込みも細かく、剥き出しのH鋼・軌道の覆工・仮設車止めなどを自作品で密度濃く再現。発車案内は平日17時半頃の実際のダイヤにもとづく案内になっており、各種広告のデータも作り分けられている。1番ホームにはキットから組み立てた車両が停車中で、ドアを開けて内装も簡易的に表現。取材しにくい上に、情景も次々に移り変わる高架化工事だが、見応えのあるジオラマ作品にしっかり落とし込まれていた。

  • 明法中学・高等学校が制作した東村山駅。工事中の今しか見られない場面を、ジオラマに細かく作り込んだ

最優秀賞を受賞した白梅学園は、副賞としてドイツ・シュトゥットガルトで11月に開催される「ヨーロピアン Nスケール コンベンション」へ招待される。鉄道模型コンテスト代表理事で関水金属・カトー代表取締役社長の加藤浩氏は、その目録を生徒に渡す際、「全国の高校を代表してドイツに行って、しっかりと、英語で、プレゼンしてください」と激励の言葉を送った。

列車が走る1畳レイアウト部門、今年はダブル受賞に

次は、1畳レイアウト部門の優秀作品を紹介する。この部門では、900~1,820mm・600~910mmの寸法でレイアウトを制作する。作品全体の高さは700mm以下に指定されているが、他のモジュールレイアウトと接続しないので、線路配置やメーカーなどは各校自由に選べる。

1畳レイアウト部門の最優秀賞も、今年は白梅学園清修中高一貫部が受賞。同校はモジュール部門と合わせてダブル受賞、3冠達成(モジュール部門の最優秀賞・文部科学大臣賞、1畳レイアウト部門の最優秀賞)となった。1畳レイアウト部門の作品は、スタジオジブリ制作映画『となりのトトロ』をモチーフにしたレイアウトを制作。映画を参考にしつつ、制作メンバーは「ジブリパーク」(愛知県)や、舞台のモデルのひとつである狭山丘陵および「クロスケの家」にも取材に行ったという。

  • 『となりのトトロ』イメージのレイアウトを制作した白梅学園が、1畳レイアウト部門でも最優秀賞に

取材で得た知見を参考に、映画の象徴的なシーンを再現。5月の季節で、雨上がりの道路を再現すべく、中央の道と奥の森に続く道で地面の質感に違いを付けている。低木の表現にドライフラワー、遠景の緑にはスポンジを使い分けているが、原作の背景にならって、低木と山をつなげて表現した。『となりのトトロ』といえば「サツキ」と「メイ」が活躍することもあり、同校の1畳レイアウトでは珍しく人形も配置されている。

これらのシーナリーの表現にも目を見張るものがあるが、メンバーが先輩から継承した技術も生かされている。作品中央で行われている田植えに注目すると、植えられている苗に歯ブラシが使用されている。その田んぼに水を引く水路のパイプは、ストローを短く切って再現。近くを流れる川は、レジンの上に「大波小波」で波を付けているが、川以外にも、池と田んぼで異なる水の表現に作り分けられている。総じて映画の世界を再現しつつも、自然豊かな情景としての完成度も高い、ノスタルジックな作品となっていた。

  • ノスタルジックな自然風景としても完成度の高い作風

  • メイとおばあちゃんがサツキのいる学校に来たシーン

  • 歯ブラシで田んぼの稲を表現した、田植え中の情景も

優秀賞は、三陸鉄道のレイアウトを制作した岩倉高等学校が受賞。昨年の夏合宿で訪れた東北のローカル鉄道のうち、1畳レイアウトの題材に最適だとして三陸鉄道を選んだという。ちなみに、モジュール部門では秋田内陸縦貫鉄道、HO車輌部門では弘南鉄道ED333・キ100を制作した。

車庫のある宮古駅を抜けると、トンネルを越えた先で太平洋沿いの高架区間にさしかかり、またトンネルを抜けて堀内(ほりない)駅に停車。さらにトンネルをくぐって宮古駅に戻る、トンネルで3分割された情景が特徴となっている。トンネルが多い分、山が高く、海との距離も近い。格子状に組んだ段ボールに新聞紙を敷き詰め、スタイロフォームを重ねて山を制作したという。

海沿いの区間は田野畑駅付近の高架区間を参考にし、高架のコンクリート柵や三陸鉄道カラーの水門機器室などはプラ板で自作。堀内駅は実物にちなみ、ドラマ『あまちゃん』に登場していた「袖が浜」の駅名標も設置している。三陸鉄道沿線の特徴ともいえるリアス海岸について、スタイロフォームをノコギリで縦に削り、ところどころ紙粘土を盛ることで、波で削れた岩肌を表現した。

  • 優秀賞は岩倉高等学校の三陸鉄道レイアウト。山とトンネルで情景を3分割

JR・三鉄両社の宮古駅や町中の建物などもすべて自作しており、毎年の伝統として照明も組み込まれている。市街地・海・山がそろった情景に三鉄の要素を多数落とし込み、宮古駅に車庫も併設している。コンテストが終わった後も、いろいろな車両を走行させて存分に楽しむことができるだろう。

HOスケールの車両を手作りで制作、165系と東急検測車両が優秀賞に

次はHO車輌部門を見ていく。80分の1スケールで車両を制作するこの部門では、今回、165系を制作した東京電機大学中学校・高等学校が最優秀賞を受賞した。同校は今年、上越線上野口をテーマに、上野駅(モジュール部門)をはじめ、湯檜曽駅とループ線(1畳レイアウト)を制作している。HO車輌部門では、165系の新カヌK1編成(新潟運転所上沼垂運転区、現・新潟車両センター)を再現した。

車体は紙で作られ、歪まないように曲面を出すことに苦労したという。その上で、車体は厚紙3枚重ね、屋根は2枚重ねの構成で強度を確保しつつ、窓・ドアなどの周りに段差を設けた。前面の造形も、両方の先頭車両が同じ形になるように注意して削り出しを行った。前面貫通扉が開閉する上に、内装も作り込まれている。

屋根上にも見どころが多い。先頭車両の分散型冷房はTOMIXのパーツを使用したが、中間車両の集中型冷房は自作。パンタグラフ周辺を中心とするパイピングには、0.3mmの真鍮線と0.5mmのアルミ線を使い分けている。その上で、実車の写真を参考にウェザリングも施した。3両編成と短いながらも迫力満点。制作した本人も、「かっこいい以外の言葉が出ない」と満足した様子だった。

  • 東京電機大学中学校・高等学校の165系新カヌK1編成

  • 前面の貫通扉も開閉する

  • 立正中学校高等学校の東急電鉄デヤ7200・デヤ7290

HO車輌部門の優秀賞は、東急電鉄デヤ7200・デヤ7290を制作した立正大学付属立正中学校高等学校が受賞。車体は紙素材でできており、「ダイヤモンドカット」と呼ばれる前面も再現。側面下部のコルゲートも1本1本手作業で、実車通りの本数を貼り付け、その上で内装も作り込まれている。外観の配色が多いため、複雑な塗装だったと予想されるが、しっかり塗り分けられていた。

検測車両ということで、屋根上の機器・配管も複雑になっているが、プラ板やランナーの端材を活用し、それらを再現。基本的な配管としては、真鍮線を曲げて取り付け、その際に余った真鍮線を車体の手すりに利用しており、素材を無駄なく活用していた。会場では消灯状態だったが、ライトユニットや動力も組み込まれているため、線路に載せて通電させれば自走できるという。消灯状態でも十分な存在感を放っており、次は走行シーンも見てみたくなる、こだわりの詰まった作品だった。