今大会の講評は、審査委員長を務める名取紀之氏(機芸出版社「月刊鉄道模型趣味」編集長)が行った。モジュール部門の優秀作品については、「あえてコーナーモジュールを逆にしたことが斬新。のぞけばのぞくほど事細かに作られている」(白梅学園)、「既製品に甘んじることなく、すべてスクラッチしようという意気込みが共通していた。見れば見るほど作り込まれており、専門誌から見ても素晴らしかった」(慶應志木・明法)と評価した。

全体的な講評として、基本の重要性について3点周知した。1点目は、ストラクチャーや柱などの水平・垂直が維持できているか。2点目は、パブリックスペースで人に作品を見せることを意識しているか。3点目は、走ってこその鉄道模型において、列車の走行に不安要素がないか。それぞれ注意を促した上で、「またこの新宿で会いましょう」と締めくくった。

各校が精魂込めて作り上げた作品の数々

毎年上位に食い込む常連校が、今年も技術力の高さを発揮した「鉄道模型コンテスト」。ただし、審査員によって選ばれた優秀作品以外にも、多くの参加校が各々こだわりを持って鉄道模型に取り組んでいる。ごく一部ではあるが、今回、筆者が見た中から、とくに印象的だった作品を各部門ひとつずつ紹介したい。

  • 急勾配の山道が特徴的な京阪京津線の大谷駅を再現。規格上必要な線路が隠れるところは、新逢坂山トンネル(JR東海道本線)に見立てていた

モジュール部門から選んだ作品は、自由ヶ丘学園高等学校による京阪京津線大谷駅のモジュール。屈指の急勾配を絶妙なバランスで再現し、左右で脚の長さが違うホームのベンチをはじめ、勾配の上にあることを意識して建物など配置した。植生豊かな沿線の緑も、スポンジとドライフラワーの併用で表現している。

1畳レイアウト部門は、自然豊かな情景の作品が多かった中、海城中学高等学校の鶴見線レイアウトはそれらと対照的だった。風光明媚で知られる海芝浦支線ではなく、安善~武蔵白石間と大川支線を題材にし、360度どこから見ても魅力が伝わるように線路・駅・工場を配置した。キットを改造した以外、紙・プラ板でストラクチャーを自作し、石油タンクはホームセンターで入手した塩ビパイプ継手を加工した。ウェザリングも施され、リアリティにあふれるレイアウトとなっていた。

  • 海城中学高等学校の鶴見線レイアウト。大川支線を中心に、工業地帯の情景が密度濃く作り込まれている

  • 桐蔭学園中等教育学校の「SLばんえつ物語」。紙・プラ板で自作したとは思えないほど精巧に仕上がっている

HO車輌部門では、桐蔭学園中等教育学校の「SLばんえつ物語」も印象的だった。現地取材をもとに、機関車・客車ともにプラ板とケント紙で制作。要所でレーザーカッターも使用した。機関車のボイラーには、レシートの芯を利用しているという。機関車・客車の丸みを帯びた部分は木工パテを削り出し、なめらかに仕上げた。塗り分けに難儀しそうな塗装も綺麗に仕上がっており、美しく迫力のあるSL列車がHOで実現した。

一般個人が出展可能な「T-TRAKジオラマSHOW」

学生の作品を競う「鉄道模型コンテスト」と並行して、一般個人が出展可能な「KATO T-TRAKジオラマSHOW」および「ミニジオラマサーカス」出展作品も展示された。

最初に「T-TRAKジオラマSHOW」から紹介しよう。この部門では、幅308mmまたは618mmで奥行き355mmまでの直線モジュール、一辺363mmの曲線モジュールのいずれかでジオラマを制作する。ボード全体の高さを500mm以下にしつつ、線路配置が決まっている中でどのように情景を作り込むかが要点となる。作品の出展は中学生以上から可能だ。

2年前まで、「T-TRAKジオラマコンテスト」として作品のクオリティを競っていたが、競うことから楽しさを共有・発信することに目的を変え、昨年から名称を「T-TRAKジオラマSHOW」に改めた。会期中、会場に持ち込まれた参加者の作品が2ブロックに分かれてつながり、その上を展示用の車両が走行した。

  • 「T-TRAK」規格で制作されたジオラマが1周つながり、多種多様な情景が展開される

会場に来ていた出展者の一部に、自身の作品について取材した。まずは、併用軌道に沿って続く街並みのモジュール。路面電車が走る地方都市をイメージしており、併用軌道と自動車道で色分けされている。「バスコレ走行システム」(トミーテック)を組み込んだバスも道路を自走できるという。

線路の奥に並ぶ建物のうち、一部は内装も作り込まれており、建物・街灯ともに点灯するようになっている。奥に背景板も設置されていたので、実際の寸法以上の広がりを感じられる。光が灯るため、部屋を暗くして、夜景に見立てて楽しむこともできると思われる。総じて、生活感のある街並みを路面電車で楽しめそうな作品に見受けられた。

  • 地方都市の併用軌道をイメージしたモジュール。建物・街灯に電飾が組み込まれており、点灯させることでさらに生活感が増す

これまで制作した作品をつなぎ合わせ、実質的に大型モジュールを実現している人も見られた。2018年に制作した作品が「鉄道模型モジュールLAYOUT AWARD」で入賞したことを機に、毎年1作ずつ作り続け、現時点で8両編成がホームに停車できる長さまでモジュールができているという。

既製品とペーパーキットを組み合わせてホーム・駅前を表現していたが、KATOの高架線路を高速道路に転用し、ホームの終端部を短く切り詰め、土台後方にプラ棒とスチレンボードを使用するといったアレンジも見られた。隣にホームのあるセクションをもうひとつ制作すれば、10両編成が停車できる駅になるとのことだった。

  • 2018年から6年かけて、1人の出展者が作り上げた駅モジュール。今年の作品はアンダーパス(左側にある曲線モジュール)

今回、新しく制作した作品はアンダーパスのある曲線モジュール。外周部にある畑を段ボールで表現し、アンダーパスは手作業で線路下に通すなど、学生と同じように手作業で情景を作り込んだことがわかる作品になっていた。会場では、スマートフォンで鉄道模型を遠隔操作することもあり、「T-TRAK」をつなげて延長したホームに、こどもたちの見ている前で「サンライズエクスプレス」が発着する場面もあった。今度はここに10両編成の列車が堂々ととまる光景も楽しみにしたい。

「ミニジオラマサーカス」思い出の情景やファンタジーなど

最後に「ミニジオラマサーカス」を見ていく。ここでは、「ジオラマくん ミニジオラマキット」「ミニジオラマベース」(直線線路S124または曲線線路R183)や「ミニジオラマプラス」のいずれかを使用して、手のひらサイズのジオラマを制作する。内寸幅162mm・奥行78mm・高さ90mmの運搬用クリアケース(上面は幅・奥行が5mmずつ狭くなる)にきれいに収まるように情景を作り込む必要がある。「T-TRAK」とは異なり、こちらは小学生以上なら出展できる。

今回は、KATO登録模型店を介して出展する他にも、直接会場に作品を持ち込んでの参加や、学校単位で参加する募集も行われていた。いずれも申込み時に「鉄コンアプリ」で必要事項の記入が必須(学校単位参加は別途事務局へ連絡)となっている。会場では、登録模型店ごとに設定されたブロックで作品が1周つながって展示され、学校単位参加はその作品同士で1周つなげて展示された。

  • 全国から新宿に集められた「ミニジオラマ」は、登録模型店ごとのブロックに分けられて1周つながり、小型車両が展示走行した

会場で取材できた出展者の作品も詳しく紹介したい。昨年、肥薩線の桜並木を制作した参加者は今回、八角トンネルをミニジオラマ化した。現在の南熊本駅から砥用(ともち)駅までを結び、1964(昭和39)年3月に廃線となった熊延(ゆうえん)鉄道の遺構として、八角トンネルは現存している。SNSで撮影スポットとして有名となっており、それを見て制作に至ったという。

名前の通り、八角形(地面も含む)の駆体が断続的に並ぶトンネルを「ミニジオラマベース」に付属のスチレンボードで再現。ベースの寸法に合わせ、実際よりも長さを詰めている。ポータルをはめ込む溝を設けて先に地形を作った上で、トンネルポータルを後からはめ込んだ。仕事帰りに1時間、少しずつ作業を進め、計6日で作品を完成させたとのことだった。

  • 旧熊延鉄道の遺構である八角トンネルをミニジオラマで再現。連続するトンネルを列車が通過

小学生部門の中で、ファンタジー要素にあふれた作品を手がけた女の子もいた。普段からストーリーの創作や、ドールハウスを趣味にしており、今回の作品では、「雲の上に村があり、その住人が雨を降らせているとしたら」というイメージをもとに、ストーリーを考案し、スケッチも交えて表現した。今回が初めての作品だという。

空を表現するためにベースを水色に塗り、彼らにとっての大地になる雲を綿で表現。牧場であるため、盤上に羊も住んでおり、羊の頭と胴は紙粘土、角は手芸用ワイヤー、毛は綿で制作した。この毛を使って羊飼いが雲を作り、風車小屋の風車で雲を空に飛ばすストーリーとなっている。羊も顔・角・毛量などに違いを持たせている。ベースの左側に作った川が地上に降る雨のもとになり、手芸用ワイヤーで作った木には雪の実がなるという。

ハンドメイド要素が各所に見られる中、風車は3Dプリンターで制作したことに驚く。羽根を青色で塗装し、小屋の屋根は金色で塗ることで色調のアクセントになっている。風車の3Dモデリングには苦労したとのことだが、「間に合ってよかった」と安心していた。

  • 「雲の上の牧場で、羊の毛から雲が生まれ、川が雨として地上に降り注いだら…」というイメージをミニジオラマで表現

最後に、例年ミニジオラマを出展している小学生を取材したが、今回は両親もジオラマを作ってみたという。その小学生の作品は、幼少期から親しんでいる明大前駅付近のトンネルを取り入れたジオラマ。京王井の頭線が地上を通り、その上を道路が横断するイメージとなる。

これらの構造物は、スタイロフォームを削って作成したもの。コンクリートの法面もスタイロフォームを削って表現しており、格子状の枠で凹凸になっている箇所に苦労がうかがえた。トンネル設置後に列車が通れる高さを確保するのも大変だったという。道路には、園芸用の網を細く切り出して柵を設けた。自身らをイメージして配置した3人の人形は、立体交差の上から列車を眺めて楽しんだ思い出が形になったかのようだった。

  • 京王井の頭線の明大前駅付近のトンネルを題材にしたミニジオラマ

  • 列車を見るために家族で通った思い出がよみがえる

  • 両親も後楽園駅周辺のジオラマ制作に挑戦した

両親が制作したジオラマは、息子の通学圏内である後楽園駅周辺をモチーフにした作品。「電車を見ながら学校に行っているのだろう」というイメージを込めたという。この手前にそびえ立つ文京シビックセンター(文京区役所)は、スチロールカッターでスタイロフォームをパーツ分けし、それらを組み合わせてから絵の具で塗装して制作した。

線路の奥に東京ドームシティもある。中でもジェットコースターに日用品からのアイデアが込められており、園芸用の柵でレールを表現しつつ、ピンで固定した。オレンジ色のゲートは東京メトロ丸ノ内線の後楽園駅をイメージしたものだという。「自分たちがジオラマを作るとは思わなかったけど、楽しかった」と話していた。

「T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」のどちらも、「鉄道模型コンテスト」と並行して今年もにぎわっていた。今年初めて参加した人もいれば、毎年参加している常連の作品もあった。いずれにしても、当記事で掲載できた作品はごくわずか。他の作品も見てみたい場合や、来年の参加を検討している場合は、「鉄コンアプリ」または各種公式サイトも参照してほしい。