一般社団法人鉄道模型コンテストが8月4~6日に開催した「第15回全国高等学校鉄道模型コンテスト」全国大会。各校の学生たちが協力してひとつの作品を作り上げ、155校の参加校が新宿住友ビル三角広場に出展した。

  • 「鉄道模型コンテスト2023」会場で「T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」も並行開催

「鉄道模型コンテスト2023」では、学生のコンテストと並行して、個人で参加可能な「T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」も開催。これらはコンテストではなく、純粋に作品を出展し合って楽しむ企画となっており、こちらでもさまざまな作品を見ることができた。2024年6月にオープン予定のKATO新工場敷地内で運行予定のナローゲージ機関車も公開された。

■「T-TRAKジオラマSHOW」コンテストからショーに

最初に「T-TRAKジオラマSHOW」から見ていく。世界的な統一規格のモジュールボード「T-TRAKボード」を使用し、モジュールレイアウトを制作。「T-TRAKボード」の規格は、直線モジュールが幅308mm(または618mm)・奥行き355mm、曲線モジュールが幅・奥行きともに363mmとなっており、付属のボルトで高さ調整もできる。ただし、ボードの底面から数えて、高さの上限は500mm。背景板を設ける場合、その厚みは3mmまでとなっている。ボードの手前から道床端まで38mmの位置に、KATOの複線線路を設置しなければならない。

参加部門は、中学生・高校生・一般部門の3種類。昨年まで、「T-TRAKジオラマコンテスト」として賞を設け、出来栄えを競っていたが、今回から作品を作る楽しさを共有・発信する目的で、「T-TRAKジオラマSHOW」と企画を改めた。

会期中は2つのテーブルそれぞれで出展者の作品が1周つながり、展示用の車両が走行していた。ひとつのモジュールを通過すると、またたく間にまったく違う情景のモジュールが広がり、さまざまな風景の中にNゲージの車両が入り込んでいくところが、モジュールレイアウトの面白いところ。作品によっては、電飾が組み込まれていたり、ファンタジックな作風になっていたりもする。例年出展している参加者のジオラマも見られた。

  • 会場で「T-TRAK」ジオラマがつながり、Nゲージ車両が走行。個性派から常連の作品まで、さまざまな情景がある

「T-TRAK」の作品出展者は会場にも来場しており、今年も一部の人に取材できた。まずは、Nナロー(150分の1スケール・線路幅6.5mm)の線路と立体交差するモジュール。かつて茶屋町駅から下津井駅までを結び、ナローゲージの鉄道として知られた下津井電鉄をイメージした作品となっている。

Nゲージ線路の奥に車庫や駅が広がり、車庫や架線柱は自作のもの。駅舎はグリーンマックスの町役場をカットして使用しているという。ナローゲージの線路はロクハンのZゲージ線路を使用しているが、その配線を考えるのに苦労したと話していた。その苦労が形になった結果、Nナローのレイアウトとしてはこれひとつで完結しており、「T-TRAK」規格の複線線路と立体交差もできる。タイミングが合わず、Nゲージと下津井電鉄の行き違いは見られなかったが、それを想像するのも楽しいジオラマになっていた。

  • ロクハンのZゲージ線路を組み込んだ下津井電鉄風のモジュール

  • 鉄道コレクションの下津井電鉄モハ103・クハ24が駅に停車中

  • Nゲージの線路とNナロー(Zゲージ)の線路が交差する

実際の鉄道や風景をイメージした作品があれば、ファンタジー要素のある作品もある。そのひとつに、ロングセラー絵本『からすのパンやさん』(作・絵/かこさとし 偕成社)をモチーフにしたジオラマがあった。

線路の大部分をトンネルで隠し、その上で、作中に登場する「いずみがもり」を展開。100円ショップの素材や市販品など多数使い分け、さまざまな種類の樹木を密接に配置していた。その森の上には、絵本で登場するからすたちもいる。森の密度を濃くしながら、物語の主役もジオラマの中に登場しており、こどもから大人まで楽しめるジオラマになっていた。

  • 盤上には、さまざまな樹木や鉄塔がそびえ立つ

  • 大部分がトンネル区間で占められている

  • 森の木の上には、絵本で見たことのあるからすたちが

最後に、桜新町駅の移り変わりを表現したジオラマを紹介。この作品は三層構造になっており、上から順に、1969年に廃止された東急玉川線、現在の桜新町駅の地下改札口、そして桜新町駅の地下ホームが作られている。出展者本人が祖父母に聞いたことのある玉川線と、自身の思い入れが深い現在の桜新町駅ホームを、伝聞と経験にもとづき制作した。地上部の建物の奥には、同じく1969年廃止の東急砧(きぬた)線もある。

地上部はアスファルトのざらつきを表現すべく、タミヤ「情景テクスチャーペイント」を塗り、ウェザリングを施した。横断歩道の白線には修正テープを使用したとのこと。路面電車の停留場には、手前の二子玉川園(現・二子玉川)方面には地元の買い物客、奥の渋谷方面には、渋谷の東急百貨店に出かけるおしゃれをした人々をイメージして配置したという。

  • 玉川線時代と現代の桜新町駅をひとまとめに

  • 玉川線をイメージした地上部分

  • 「T-TRAK」規格の複線は地下ホームに通っている

一方の地下ホームも、色みやタイルのサイズ感を試行錯誤しながら印刷紙で作成。照明も組み込まれている。本来、桜新町駅の待避線と通過線の間に壁が設けられているが、「T-TRAK」規格に合わせてか、壁は再現されていなかった。さまざまな車両が地下区間を行き交う様子がわかりやすく、さらに往年の面影を思い浮かべることもできる作品になっていた。

■てのひらサイズの「ミニジオラマサーカス」、初めてのジオラマ制作にも

続いて「ミニジオラマサーカス」で展示されたミニジオラマの作品を見ていく。KATOが発売している「ジオラマくん ミニジオラマキット」や「ミニジオラマベース」「ミニジオラマプラス」のいずれかを使用し、規定に従ってミニジオラマを制作する。「ミニジオラマベース」には、直線線路S124と曲線線路R183の2種類が用意されている。ジオラマベースは自作も認められているが、その場合も公式サイトの規格を守る必要がある。

作品を制作・出展する場合、先に「鉄コンアプリ」で必要事項を登録。その際に選んだ「ミニジオラマサーカス」登録模型店にて、2週間以内に参加費2,200円を支払い、参加を申し込む。部門は小学生・中高生・大人に分かれているが、年齢制限はとくにない。「ミニジオラマサーカス」に申込みできる登録模型店や、詳細な参加方法は同サイトを参照してほしい。

各地の登録模型店を経由して出展されたミニジオラマ作品は、模型店ごとのグループに分けられて1周つながり、その上をチビロコや叡山電鉄900系「きらら」といった小型車両が走行していた。「T-TRAK」以上に小さなジオラマではあるが、目線を下げれば作品それぞれの面白さや世界観の広がりなどを体感できる。前回出展からの続編のような作品や、ジオラマの引き立て役として「鉄道コレクション」が活用されている作品も見られた。

  • 多彩なジオラマの上を小型車両が走る。電飾やストーリー性など、こちらもにぎやか

ミニジオラマに関しても、会場に当日来ていた出展者の何人かに詳しい話を聞くことができた。昨年、肥薩線の秋・冬をイメージした作品を出展した参加者は、今回、渡~西人吉間の桜並木を再現。本人も人吉に縁があることと、肥薩線の復旧を願って制作したという。桜を植えている部分は5mmのスチレンボードでかさ上げし、線路周りとの高さの違いを出している。地面の素材に樹脂粘土も試してみたとのこと。

桜の下を飼い主と犬が散歩している場面もあり、ストーリー性も備えている。制作時は「SL人吉」と一緒に撮影して楽しんでいたとのことだが、会場で偶然にもチビロコが走っていたため、「SL人吉」に近い雰囲気で情景になじんでいた。

  • 肥薩線の桜並木をイメージしたミニジオラマ

  • 桜の下で犬と飼い主が散歩中

  • チビロコが通過。その姿は「SL人吉」を思わせる

「ミニジオラマサーカス」は小学生も参加可能ということもあり、小学生が作った作品も多数見られた。その中から、「恐竜大発見!!」という作品を詳しく見せてもらった。Nゲージの電車から車窓を見たときに、恐竜が現れて驚くことをイメージしたという。陸の部分に恐竜の玩具を配置し、その後ろに木を置いている。草木の色を使い分けているところも見どころとなっていた。

手前の水辺は川の石を使って岸を再現。アクリル絵の具の上から木工用ボンドを塗り重ね、水面を表現していた。この水面が意外と分厚く、ボンドを乾かし、そのたびに根気よく塗り重ねていったことがうかがえる。そうして作られた水面は、会場の照明を反射して光っており、厚みと透明感を両立していたことに筆者も驚いた。作品を完成できたことに、制作した男の子自身もうれしく思っていたようだ。

  • 車窓から恐竜が見えたら…という夢のあるジオラマ

  • 水面の表現にもこだわりが見られる

  • 大人のジオラマ初挑戦も。使用感の薄い専用線と畑が特徴

一方、大人でもミニジオラマ制作に初挑戦したという人がいる。湘南の模型店経由で出展した参加者は、行きつけの模型店で「ミニジオラマサーカス」の紹介を受け、今回初めて参加。自身が仕事で行ったことのある栃木県の専用線をモチーフに、普段使われていない線路を表現した。「ミニジオラマベース」土台の端材を畑の畝に使用しているところもポイント。作品制作のためにジオラマ講座でアドバイスも受けたとのことで、教えてもらった通りに作ることができたと満足していた。

最後に、静岡県富士市から来場した親子の父親は、自身が仕事や地元でよく見るという岳南電車をモチーフにしたジオラマを制作。線路をまたぐ配管や右奥のタンクに、筆塗りや「ウェザリングマスター」を使用し、汚れや錆びを表現したという。

小さな川は、基盤に色を付けた上で、KATOの「リアリスティックウォーター」で仕上げた。工場の近くということもあって、あえて水の色を濁しているとのことだった。「見た目から工場のにおいがわかるように」工場付近の雰囲気をリアルかつ密度濃く再現しており、きれいな情景だけがジオラマのすべてではないということも感じられた。

  • 岳南電車をモチーフに、工場風景の一場面をリアルに表現。水の色や配管の錆びなどに注目

各学校・個人のジオラマ以外に、こどもたちを対象にした「STEAMツアー」(「STEAM」は「Science」「Technology」「Engineering」「Art」「Mathematics」の頭文字を取った造語)も開催。初めて作った小さなジオラマを手に取るこどもたちや、各校の作品に案内する学生ボランティアも見られた。

その他、KATOの新工場(埼玉県鶴ヶ島市で2024年6月にオープン予定)敷地に設置される「関水本線」(一周620m)で走行予定のナローゲージ機関車「Emeslett 0-4-0ST『OSCAR』」の静態展示も行われた。同車は、成田ゆめ牧場(千葉県香取郡下総町)で軽便鉄道の運転・管理を行っている羅須地人鉄道協会により製造が進められ、「鉄道模型コンテスト2023」開催時点で8割程度完成しているという。イベント終了後、同車は成田に戻り、引き続き作業を行う。「関水本線」に関しても、今後の続報が待たれる。

  • KATO新工場の「関水本線」を走る予定のナローゲージ機関車も展示

「T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」のどちらも、個性豊かな作品や技巧を凝らした作品など、今年も非常に見応えのある企画となっていた。初めて参加したという出展者も見られたので、また作品を見られる機会も楽しみにしたい。なお、当記事で掲載できた作品は一部のみ。他の作品を見てみたい場合や、次回はジオラマを作ってみたいと思ったときは、「鉄コンアプリ」または各種公式サイトも参照してみてほしい。