8月5日、「9割本」だらけの広告が新宿駅をジャックし話題になった。その広告はなんと「ザ・プレミアム・モルツ〈ジャパニーズエール〉香るエール」の広告だった。

最近刊行が増えている「9割本」に注目したこの企画だが、「9割」という言葉がタイトルにある書籍は、本の要約サービスflierで配信中の3,600冊の中にも多数ある。そこで今回はビジネスパーソンが“今読むべき本”を厳選し、要約してそのエッセンスを伝える「flier(フライヤー)」で公開中の「9割本」の要約ランキングTOP10を紹介。ランクインした書籍から読み取れる「9割本」の傾向を探っていく。

「9割本」要約ランキングTOP10

本ランキングは、flierの有料会員を対象に、スマホアプリおよびウェブのアクセス数(紹介書籍の要約閲覧数)を合算し順位付け。集計期間は、2017年6月4日〜2024年7月24日。

1位:人は話し方が9割(著者:永松茂久/出版社:すばる舎/刊行年:2019年)
2位:人は聞き方が9割(著者:永松茂久/出版社:すばる舎/刊行年:2021年)
3位:できる上司は会話が9割(著者:林健太郎/出版社:三笠書房/刊行年:2021年)
4位:誰でもできるのに9割の人が気づいていない、お金の生み出し方(著者:今井孝/出版社:幻冬舎/刊行年:2022年)
5位:ストレスの9割はコントロールできる(著者:鎌田敏/出版社:明日香出版社/刊行年:2020年)
6位:リーダーは話し方が9割(著者:永松茂久/出版社:すばる舎/刊行年:2022年)
7位:仕事は初速が9割(著者:越川慎司/出版社:クロスメディア・パブリッシング/刊行年:2023年)
8位:心配事の9割は起こらない(著者:枡野俊明/出版社:三笠書房/刊行年:2013年)
9位:結局、腸が9割(著者:川本徹/出版社:アスコム/刊行年:2022年)
10位:「伝える前」が9割(著者:浅田すぐる/出版社:KADOKAWA/刊行年:2023年)

1位は「9割本」の代表格『人は話し方が9割

本書は、日本出版販売株式会社が発表するビジネス書ランキングでは、2020年~2023年上半期で1位を獲得していて、現在135万部突破している。永松茂久氏の「人は〇〇が9割」シリーズ全体では170万を突破しており、本ランキングにも3冊がランクインした。

  • 1位は「人は話し方が9割」

「9割本」は、本書を含めて定期的にベストセラーが出ていて、その影響も受けて、ビジネス、健康などあらゆるジャンルで刊行が増えている。今回のランキングでも、本書より刊行が早い書籍は1冊のみで、その他の8冊は本書の刊行以降である。まさに「9割本」の代表格と言える一冊だ。

『人は話し方が9割』編集担当のすばる舎・上江洲安成氏は、本書のタイトルに込めた想いについて「「9割は90%ではなく、ほとんどと言って良いほど大事なこと」という意味だと永松茂久氏はじめ私たちは考えている。永松氏とご一緒する中で、まさに人生においてコミュニケーション(話し方)が大事だと感じ、本書が王道を行く本だということを表現したく「9割」とつけた。」と回答。

上江洲氏のコメントでもあったが、書籍のタイトルで使われている「9割」は「ほとんど」という意味で用いられることが多い。「9割本」要約ランキングにランクインした書籍を見ると、その中でも様々な意味合いが込められていることがわかった。

重要なスキル・事柄を表す「9割」

1位『人は話し方が9割』や、9位『結局、腸が9割』のように、重要なスキルや事柄を強調したいときに「9割」はよく使われているようだ。

  • 9位は、「結局、腸が9割」

「何かを学びたい」「何かを知りたい」というニーズがある中で、そのスキルこそ「9割」だと言い切ってくれる本に飛びつく読者は非常に多い。

特にビジネススキル系で特に多く見られるパターンで、例えば、7位の『仕事は初速が9割』は、本書の著者である越川慎司氏による行動調査で、成果を出し続けている人は、新たな仕事にすぐに着手する人が圧倒的に多いという結果が出たことから付けられたタイトル。

これは「9割本」の中でも一番オーソドックスな表現方法で、本ランキングでは、1位、2位、3位、6位、7位、9位、10位がそれに該当する。

このようなパターンの「9割本」は、最低限このスキルさえ習得できれば、何とかなるという安心感がある。「できるリーダーになりたい」「仕事ができる人になりたい」「健康でいたい」といった様々な願望に対して、タイトルから明確な答えを提示している書籍が多く、そのわかりやすさから、書店で見かけると手に取る人も多いはずだ。

「9割」大丈夫だから気にしない

続いて、メンタル本で多く見られるパターン「ほとんどの不安や悩みは、何とかなる」というメッセージを伝えるための「9割」。

本ランキングでは、5位の『ストレスの9割はコントロールできる』や、8位の『心配事の9割は起こらない』が該当する。

  • 5位は、「ストレスの9割はコントロールできる」

この「9割」が書籍のタイトルに使われている背景には、私たちが多くの悩み・課題を抱えているという事実がある。「ストレス社会」といわれている現代だが、SNSをはじめとした情報化によるストレス、新型コロナウイルスによる日常生活の急激な変化、円安による光熱費や食費、衣料品などの値上げ、そして、職場や家庭での人間関係など、私たちは悩みが尽きない。そんなストレスフルな毎日を送るすべての人に、日々の生活が少しでも楽しく、幸せなものになるようにという願いが込められた書籍ばかりだ。

「9割」が気づいてない

最後に、4位の『誰でもできるのに9割の人が気づいていない、お金の生み出し方』のような、一般的にはあまり知られていないけれど、知っておきたいメソッドを紹介している書籍で用いられる「9割」。

自分には特別な才能やスキルがないから無理だと、目標やスキルアップを諦めてしまってはもったいない。9割の人が知らないことをマスターすれば、自分が1割の人になれるかもしれない。「1割」を目指すために用いられる「9割」という表現もあるようだ。

「9割」は狙うべきポイントをわかりやすく伝える魔法の言葉

「9割」という言葉は、狙うべきポイントやメッセージが、数字でわかりやすく伝わる魔法の言葉だ。大事な「9割」のために頑張ってもよし、「1割」の人間になるために頑張ってもよし。自分の指標を立てるために「9割本」は、役に立ってくれるだろう。

しかし、「9割本」が増えていく中で、「残りの1割は何なのか?」という疑問が生まれる。そして、〇〇が9割大事だと謳う書籍が数多く存在していて、「結局、何が大事なのか?」という矛盾もある。「ザ・プレミアム・モルツ〈ジャパニーズエール〉香るエール」の広告は、その疑問や矛盾を生かした内容になっている。「1割」の解放的な自由も大事にしながら、手にしたい「9割」を頑張っていくことが大切だろう。