左から脚本の米村正二、監督の川越淳。

映画「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」のトークイベントが本日7月19日に東京のシネ・リーブル池袋で開催され、監督の川越淳、脚本の米村正二が登壇した。

6月28日に封切られ、ばいきんまんの活躍やアンパンマンとの共闘で話題を呼んでいる「ばいきんまんとえほんのルルン」。シネ・リーブル池袋では「アンパンマンナイト」と題した夜帯の上映を毎週金曜日に実施予定で、本日のトークイベントはその初回を記念して行われた。子供向けに配慮された小さめの音量・明るめの場内ではなく、通常音量かつ場内暗転での上映を、集まった大人のファンと一緒に楽しんだ川越監督と米村。「本来の狙った音で届けられる」「バトルシーンも盛り上がって観られる」と「アンパンマンナイト」の開催を喜んだ。

今作では絵本の世界に吸い込まれたばいきんまんが、森の妖精・ルルンに“愛と勇気の戦士”として助けを求められることから物語が展開される。あらすじについて米村は「『アンパンマン』の映画には、ゲストキャラクターが出てきてアンパンマンが励ますという大きな流れがあるんですが、その役目を一度ばいきんまんにさせてみたらどうかな、というのが発想の原点」と話す。「劇中のセリフにあったように、ばいきんまんは毎回アンパンマンにやられて、悪い作戦も大体失敗するんですが、それでもめげずにがんばってるっていうことに、改めて気づくことができました」と、ばいきんまんを改めて見つめる機会になったと振り返った。

「おれさまは何度やられても立ち上がるんだ!」とばいきんまんがカッコよく決める場面もあるが、米村は「無理してそういうエピソードを作ったわけじゃなく、ばいきんまんはもともと自分が世界で一番強いと思っている。すいとるゾウに負けて侮辱的なことを言われても、譲れない部分があるし、自分を貫き通そうとする」と、あくまで自然に出てきたものであると述べる。「アンパンマンを呼んでこい!」という印象的な場面についても、「アンパンマンを倒せるのは俺様だけだって思っているので、この俺様を救えるのはアンパンマンしかいないっていうふうに発想がいく」と自然な流れのものだと説明した。

川越監督も「ばいきんまんはやっぱり私利私欲で動く男なので、そこはぶれないようにしなきゃいけない。最初に絵本の世界に行ったときに、“すいとるゾウを倒せばこの世界は俺のもの”と言いますが、このセリフがあるからその後がうまく展開できた」と、普段とは違った活躍を見せる今作でもぶれないキャラクター像を伝える。また、改めてアンパンマンとばいきんまんの関係性について聞かれると、川越監督は「やっぱり光と影。どっちがいなくても存在ができない」と回答。米村も「やっぱり2つが揃ってないと1つの円にならない、っていうようなイメージです」と同意した。

今作では、ばいきんまんがロボットの“ウッドだだんだん”を作る過程も、しっかりと尺を使って描写されている。この点について川越監督は「今までは大体かびるんるんや機械を使って作って、自分はただ指揮をしているだけ。何もないところでばいきんまんが何をできるのかな、っていうのを描きたいなと。僕がDIYが趣味なので、ちょっとやりすぎなくらいやってしまいました」と笑う。尺の長さについては「シナリオ会議のときから問題になるかなっていう話をしてたんですけど、米村さんがルルンとばいきんまんの濃密な関係を描かないといけない、その中で熟成されるものを大事にしたいと。だからあの尺になってしまったのかな」と物語上でも重要な役割を果たしていることを語った。

もう1つ、川越監督ならではのこだわりが表れているのが、すいとるゾウとウッドだだんだんの戦闘シーン。「うまいアニメーターの方が参加してくれてるので、すごくいいシーンになったと思っています」と自信を見せる川越監督に、米村は「倍くらい観たかったですね。特に変形シーン。めっちゃカッコよかったです」と賛辞を贈る。戦闘シーンのこだわりを聞かれた川越監督は「明るい画面の中でクリアに戦いを見せる」「相手がぞうさんですから、どしんどしんと歩く重さを出せたら」「ウッドだだんだんですから、光学兵器が使えない。物理的な武器ばかりを出すので、それが重さになったのかな」といくつかのポイントを明かした。

長く「アンパンマン」シリーズに携わる2人ということで、原作者のやなせたかしとの思い出を語る場面も。川越監督は2014年公開の映画「それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い」のプロットを終えた際に「プロットを早く上げてくれてありがとう」という手紙をもらったそうで、「先生も亡くなることがわかっていたのか、映画の完成が見られないとわかっていてそういうお手紙をくださったと後で知って、涙が出ました」と振り返る。米村も30年以上前、病を患った際にやなせから手紙をもらったエピソードを明かし、「先生はとても褒め上手。『米村くんが帰ってこないとアンパンマンのTVシリーズがもっとよくならないから、早く帰ってくるように』というようなことを書いてくださって。手紙にすごく勇気づけられました」と話した。そして「毎回映画では必ずやっているんですが、やっぱりアンパンマンがおなかがすいた人に顔をあげるシーンは、絶対に覆らない正義というのが先生の根底にあったと思うので、そこはすごく大事にしていきたい」と、やなせから継いだ思いを改めて語った。

映画「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」

公開中

スタッフ

原作:やなせたかし(フレーベル館刊)
監督:川越淳
脚本:米村正二
音楽:いずみたく、近藤浩章

出演

アンパンマン:戸田恵子
ばいきんまん:中尾隆聖
ルルン:上戸彩
すいとるゾウ:岡村隆史(特別出演)
ほか

(c)やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV (c)やなせたかし/アンパンマン製作委員会 2024