単価の高い商品を作りたい

杉山 : 静岡県は東海道新幹線に静岡空港駅を作ってほしいと取り組んでいます。でも僕は、それより大井川鐵道の金谷駅からスイッチバックして静岡空港駅を作ったほうがいいと思うんですが、将来的にいかがでしょうか。

鳥塚 : バスでリンクするとかで十分だと思います。建設費をかけなくても、大鉄グルーブはバスもやってますから。ぶらっと飛行機で降り立って、ぶらっと大井川鐵道に行こうっていう人はいないんです。 みんなきちんと予定を立てて、飛行機の予約も取って、大井川鐵道の予約も取って来ます。あとはもうリンクをどうするかっていうことを考えるだけで、バスでも十分だとは私は思います。

杉山 : ジェット機とSLが並ぶところを見たいなっていう気はありますけど。

鳥塚 : それなら空港の周りに線路を引いたほうがいいですよ。大井川鐵道の中に、かつて日本製鉄の支線で働いてた機関車が保存されてるんです。それを直してトロッコ客車3両くらい連結して、ぐるぐる走らせたほうが面白いですよ。

杉山 : なるほど、あそこは高台で景色も良いから、空港トロッコは楽しそうです。空港を訪れる人にも大井川鐵道を知ってもらえるし。

静岡空港といえば、大井川鐵道とフジドリームエアラインが連携したツアーをやっていて、富士山上空を周遊してからSL列車に乗ろうという企画をやってますね。僕も1回参加させていただいて、すごく面白かったんです。

今後、そのフジドリームエアラインとか、それこそ「推し旅」でがんばっているJR東海とか、遠方からの貸切団体バスですね、東京からだと2人乗務が義務づけられちゃって、かなり減ったと聞いていますが。そうした連携はどのように続けていきますか。

鳥塚 : SLもトーマスもそうなんですけど、観光列車っていうのは客層があるわけです。どの客層を取りに行くかっていうことが必要なんです。デパートと同じでね。婦人服、呉服売り場もあれば、おもちゃ売り場もあるし、地下の食料品売り場もあるわけです。地下の食料品売り場だけが一番儲かるから、それだけでやっていきゃいいやっていうと、これはブランドにならないんですよ。スーパーマーケットになってしまう。

だから、宝石売り場もあって、呉服売り場もあって、おもちゃ売り場もあって、食品売り場もあってっていうような、そういう売り場構成を観光列車でどうやって整えていくかってことが必要なんです。鉄道マニア向けの商品もあれば家族向けの商品もあります。いま足りてないのは、たとえば高額商品はちょっと足りてないじゃないですか。1人2万円いただける商品とか。

静岡県って、我々東京育ちの人間からすると、富士山とお茶とみかんと新幹線という、そういうイメージがあるんです。でも、じつは山の中はすっごい秘境で、こんなところがあるの!? ってびっくりするのが静岡県なんです。だって静岡から長野に抜けらんないんですよ。大井川の奥が。そういうのって黒部峡谷とまったく同じじゃないですか。黒部峡谷が日本海側であんだけ集客できているのに、太平洋側で新幹線が通ってるのに、なんでお客さん来ないの? この考え方が観光業界という世界ですよ。

  • 井川線も秘境ルートとして観光開発の余地がある

杉山 : 言われてみれば、高単価で満足度が高いツアーがないですね。そして秘境の井川線を生かすためにやっぱり全線開通しかないと。

鳥塚 : そうです。だって繋がんないんだもん。鉄道は繋がってなんぼですよ。

山本豊福氏との役割分担は

杉山 : 気になることがありまして、最後の質問です。大井川鐵道といえば、いままで(広報の)山本豊福さんが大井川鐵道の「顔」だったわけですよね。

鳥塚 : 目の前にいますよ。

杉山 : こないだブログのお写真を拝見したら、社長席の前が山本さんの席なんですね。山本さん、プレッシャー感じそうだなと思って(笑)。

鳥塚 : 山本さん、こちらにどうぞ!

  • 大井川鐵道広報の山本豊福氏が登場。電波少年みたいな画面になった(笑)

山本 : こんにちはー!

杉山 : あ、どうもお疲れ様です(笑)。

山本 : お話聞いてましたよ(笑)。

杉山 : お元気そうでなによりです。山本さんは大井川鐵道で広報対応をずっとされてきて、鳥塚さんはものすごく発信力がある。情報発信に2本柱が立ったわけです。今後どのように切り分けていくのかなと思いました。

鳥塚 : やっぱり山本さんのキャラクターを大事にしますよ。大井川鐵道イコール山本さんじゃないですか。ファンも多いし。私はときどき辛辣なことを言うので、私が出るとアンチも来ちゃう(笑)。

杉山 : そんなことないでしょう。でも、鳥塚さんが3社目の鉄道会社社長に決まって、鳥塚の鳥にちなんで「渡り鳥」って言ってる人がいて、ちょっと面白かったなあと(笑)。

鳥塚 : それ、ネットで言われてるんですか。

杉山 : X(Twitter)で見かけました。「再生請負人」よりは親しみやすいなと。それはともかく、山本さんのグループは若手も育ってらっしゃって。プレスリリースも若手の方からいただくことが増えています。山本さんは鉄道応援ツアーなど新しいことも始められて、広報グループは盛り上がっていますね。鳥塚さんはどちらかというと、地域とか、自治体対応になるのでしょうか。

鳥塚 : お金のやり取りとか経営とかっていうのは鉄道会社の役割ですけれど、地域の中では人が主役だと思っています。鉄道そのものをどうするかっていうのは、地域の人が動いてくれないとどうもならんのです。だから、非常に地域の人たちの関心があって、なんとか大井川鐵道に全線復旧してもらいたいっていう意志は強い。だけど、金の問題をどうするかっていうところでみんな詰まっちゃうんですよ。

杉山 : 鳥塚さんは直江津にデゴイチをもってきた。直江津が鉄道の町として誇りを取り戻すためでしたね。大井川鐵道沿線はSLの町として、やっぱり皆さんが誇りを持ってらっしゃると思います。

鳥塚 : そうですよ。そうですよ。だってもう48年もSLを運転しているんですから。

杉山 : だから、大井川鐵道と地域の皆さんの思いは一緒だと思います。あとはその思いをどうやってお金にしていくかっていうところで。それが鳥塚さんの手腕だと期待されていると思います。

鳥塚 : 将来を見据えたビジネスプランができれば、それに対して1億どころか、プランに見合ったお金が出てくる。そういう仕事をやっていかなきゃいけないと思います。