質の良い仕事にコーヒーは欠かせない……が、その効果効能はカフェインや癒やし効果以外にもあるらしい。
電通デジタルは6月7日、オフィスの8階に「HACHI CAFE」という名のカフェをオープンした。社員向けサービスの一環だが、そこには社員に対する労いやモチベーションの向上以外にも"大きな目的"があるのだという。
今回はその目的と効果を探るべく、ハチカフェの仕掛け人、同社総務部 総務グループ グループマネージャー 米満麻里絵さんに話をお聞きした。
▼"枠を越えた交流"を広げれば、会社の総合力も高まる
ーーまずは米満さんの簡単な自己紹介をお願いします。
普段は総務部のグループマネージャーとして、ワークプレイスの管理、ワークスタイルの開発、会社の基盤を回すための仕事に加え、社員のエンゲージメントを向上させるためのコミュニケーション施策なども並行して担当している感じですね。電通デジタルに入社して、もうすぐ1年が経ちます。
ーー今回「ハチカフェ」を立ち上げた経緯について教えてください。
電通デジタルは今年で創業8年目ですが、コロナ禍を含めたこの8年で1,900人もの社員が入社したこともあり、社員同士のコミュニケーションが課題となっていました。プロジェクト単位、チーム単位ではすごく一体感があるのですが、電通デジタルが目指したいのは"領域を飛び越えた総合力"だったのです。
せっかくこんなに専門性が高いプロフェッショナルがたくさんいるんだから、もっと枠を越えた交流があったほうが個々の強みを活かせるし、電通デジタルが大事にしている多様性も活かせるはず。そういった考えから「ハチカフェ」構想が生まれました。
▼バリスタが社員を繋ぐ!?「カフェ」という方法を選択した理由
ーーなぜ「カフェ」という方法を選ばれたのでしょう?
理由はいくつかあります。ひとつは、社内でコーヒーがすでに受け入れられるのがわかっていたとこと。もともとコーヒーマシンを設置していたのですが、コーヒーだけでなく、カフェラテや抹茶ラテなども無料で飲めるので、よく大行列になっていたんです。
実はこのコーヒーマシンも、社員同士のコミュニケーションの場になることを期待して設置したものだったのですが、列に並んでいる間はみんなスマホを見ていたので、その目的は果たせませんでした(笑)。マシンを置くだけではなく、会話のきっかけを生む「人」を配置することが必要なのでは、と考えました。
ーー難しいところですが、それが普通といえば普通のような気もしますね……。他にはどんな理由があったんですか?
電通デジタルにはコーヒーサークルがあって、月1で無料のコーヒーを振る舞うイベントを実施しているんです。ハンドドリップのコーヒーを淹れるのって、1杯につき3分くらいかかるのですが、コミュニケーションの苦手な人にはその待ち時間が長く感じるらしいんです。だけど逆に、話しかける役割を業務としてバリスタが担えば、その時間で社員同士を繋ぎ、コミュニケーションを活性化できるんじゃないかと考えました。
ーー逆転の発想ですね。
また、それまではコーヒーを注いだあと、みんなすぐ自席に帰っていたのですが、カフェを作れば"空間"も提供できることになるので、その場でコミュニケーションが取りやすくなるんじゃないかと思いました。ある意味、会社公認の休憩所みたいなものですから、みんなが自然とその場に留まることで、何かコミュニケーションにいい影響が生まれればいいな、と。これはあくまで願望ですけどね。
ーー「社内にカフェを作る」というのはなかなか大胆な発想ですが、周りのリアクションはいかがだったのでしょう?
「すごくいいじゃん」というリアクションがあった一方で、実際に経営陣から予算をもらおうという段階では、「本当にコミュニケーションが生まれるのか」「バリスタが社員を繋ぐという意味がわからない」といったご指摘もいただきました。
ーーそれをどのように説得されたんですか?
現在ハチカフェは、オフィスカフェ導入支援サービスを展開する企業「Garden」サポートのもと運営しているのですが、経営陣にはGardenが手がけた他社の導入事例を紹介したり、実際に私たちがGardenのサービスを導入している企業へ取材に出向き、その様子を短い動画にして観てもらったりしました。その結果、試しにやってみようとなったんです。
▼「ハチカフェ」導入から2週間で得た成果と今後の目標
ーーハチカフェではどんなメニューを提供しているのでしょう?
コーヒー、ラテ系、紅茶、ジュース……いろいろあります。クッキーやケーキのようなフードもありますし、今後は月替りでシーズナルドリンクなども提供していく予定です。価格帯は表立って公表していないのですが、一部を会社が負担する形で、社員にとってお財布が痛くない程度の買い求めやすい価格に設定しています(笑)。
ーーカップのデザインも可愛いですね。
ブランドマネジメントのチームが結集して作ってくれました。青は電通デジタルのコーポレートカラーで、「8」はカフェが8階のオフィスにあることにちなんでいます。
「8」の字を手書きにしているのは、コーヒーがハンドドリップであることなどの手づくり感を表現しました。「8」の字の中の空白部分をよく見ていただくと、漫画の吹き出しのような形になっていることがわかるかと思いますが、これはハチカフェが社員同士が会話する場でありたいという願いが込められています。
ーーハチカフェの評判はいかがでしょう?
大変好評で、オープン初日は半日で350人の大行列ができました。空間としても賑やかになったと思います。ここはもともと雑談のためのスペースだったので、電源などもあえて設けていないのですが、それもあってPC作業をする人が少なく、かといって雑談する人もそれほどおらず、ガランとしていることが多かったんですよ。でも、今は常に人で賑わっていますし、「カフェをオープンしただけでこんなに変わるんだ」とビックリしています。
ーー何か、人が集まるような工夫などもしているのでしょうか?
社内用のコミュニケーションツールで「ハチカフェチャンネル」を開設し、その日のオススメのドリンクや人気メニューをランキング形式で紹介したりするなど、積極的に情報発信に努めています。
カフェには交換日記も置いていて、コーヒーができあがるまでの間、その時々の「お題」に回答していただいたりもしていますし、今後はおごった分だけスタンプが貯まるスタンプカードを導入して、社員間のコミュニケーションを活性化できればいいな、なんて考えています。
ーー実際、社員間のコミュニケーションも生まれているんですか?
まだオープンから2週間(取材時点)ですが、徐々にコミュニケーションも生まれています。社員同士が、ハチカフェを誘い文句にして、「コーヒー飲みにいこうよ」「ちょっと休憩しようよ」と誘いやすくなったと思います。無料のコーヒーマシンだと、こうはいきませんでした。
私自身も、例えば面識のない社員から「カフェの企画をしてくれた人ですよね? 超飲んでます! ありがとうございます!」って話しかけてもらったことがありましたし、現場の若い社員さんたちとコミュニケーションをとる機会も多くなったと実感しています。
ーー素晴らしいですね! それでは最後に、ハチカフェの今後の展望について教えてください。
いろいろありますが、例えば普段はオンラインミーティングが中心でも、キックオフミーティングのような対面の方が効果が最大化する場合などに、「ハチカフェのコーヒーを飲みながらミーティングしようよ」と上手く活用してもらえるような存在になりたいですね。
もちろん、まだ利用していない社員にも利用してほしいですし、先輩が後輩を、後輩が先輩を誘いやすい仕組みも作っていきたいと思っています。リピーターの皆さんには、もっとコーヒーの受け取り待ちの3分程度の時間にコミュニケーションが取りやすくなるような施策を仕掛けていきたいですね。
やりたいことはたくさんあります。現時点ですでに60個くらいアイデアが溜まっていますから(笑)。とにかく今年中にまずは土壌を固めて、コミュニケーションユーザーをさらに増やすこと。「ハチカフェがあるから、○○しよう」と誘い文句になって新しい繋がりが生まれている状況にしたいと思っています。
コーヒーが美味しいだけではなく、社員同士のコミュニケーションツールとして活躍するハチカフェ。単なるコーヒー提供にとどまらず、課題解決を見据えたプロジェクトとして遂行する様子はまさに電通デジタルならでは。今後の展開も楽しみだ。