第96回アカデミー賞で世界を沸かせた『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』を送り出し、日本映画界を常に牽引し続ける東宝が、新たに手掛ける才能支援プロジェクト「GEMSTONE Creative Label」。

フォーマット、メディア、そして実績の有無を問わず、クリエイターが自由に才能を発揮できる場を提供するという目的で、東宝の若手社員が立ち上げたこのプロジェクトから、レーベル初の劇場公開作品となる短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』が 6月28日より2週間限定で公開されている。

今回は、本作品公式アンバサダーの上白石萌歌にインタビュー。自身も東宝が実施する東宝シンデレラにて才能を認められ、スターダムへと上り詰めた経験を踏まえながら、各作品の解説や若きクリエイターへのエール、映画に対する思いを聞いた。

  • 上白石萌歌

    上白石萌歌 撮影:友野雄

短編オムニバス映画『GEMNIBUS vol.1』でアンバサダーを務める上白石萌歌

――『GEMNIBUS vol.1』について最初に聞いたときの印象を教えてください。

クリエイターを目指す人がたくさんいる中で、才能が眠っているだけだともったいないので、才能を新たに芽吹かせる第一歩になるような、すごく素敵な取り組みだなと感じました。

――今回出品された作品についてご紹介をお願いできますか?

『ゴジラ VS メガロ』は、改めてゴジラを最新技術で見ることができる贅沢な作品。何かに追われている町がどんどん滅びていく恐怖が迫ってきて、本当に息をのむような臨場感で終始見入ってしまうような作品でした。

『knot』はサイコスリラーというジャンルの作品ですが、その枠を超えてものすごく深い人間ドラマになっていますし、親子の関係性のもろさや尊さを突きつけてくる作品です。終わり方がすごく印象的なのでぜひ最後まで見てほしいと思います。

『ファーストライン』はこの中で唯一のアニメーション作品です。尺としては10分弱なんですけど、その尺に込められたちな監督の思いをたくさん受け取ることができました。ものすごく練られた映像世界だと思うので、夢を追いかけてるすべての人に届いてほしい作品です。

『フレイル』はすごく攻めた作品なんですが、青春の甘酸っぱさもあればゾンビ映画的な部分もあり、社会問題にも挑戦していて、映画のいろいろな要素が詰まっていると思います。人が生きることや老いること、若さについてなどいろいろなことに思いを巡らせるきっかけになる作品でもあると思います。

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――上白石さんは大学で映像学を学ばれていたそうですが、映画について学んだことで印象に残っていることがあれば教えてください。

学校では映像が生まれる前の写真の起源から学んだんですけど、まず写真が生まれたのも、人が見たものを記録に残したいという気持ちから始まっていて、今度はそれを動かしたいといって映像が生まれて、次はその映像に音がついていって……と、もっと見たい、聞きたい、知りたいという人間の“欲”が今の映画の原点にあるんだと感じました。

――上白石さんの中にもその“欲”はありますか? もし映画製作に携わるとしたらやってみたいことがあれば。

一番興味があるのは美術です。空間を作る仕事にものすごく憧れがあって、登場人物のお部屋をつくったり小道具を用意したりしてみたいんです。

――ご自身が役を演じるときに、そういったセットや小道具からインスピレーションを受けたり役が深まったりすることも多いですか?

そうですね。「この人はこういうお部屋で過ごしているんだ」とか、「ピンクが好きなんだ」「こういうペンで文字を書くんだ」というディテールが分かると、そこから想像を膨らませられるので、美術のお仕事にはすごく興味がありますし尊敬しています。

映画の魅力は、映像と自分だけの世界に浸れるところ

――ドラマや舞台、歌など幅広くお仕事をされていますが、ご自身の中で「映画」というのはどんな位置づけになるんでしょうか。

テレビドラマの大きな違いとして、映画のお客様はお金を払って見に来てくださるというところがあるので、ちゃんと応えられるような作品づくりをしたいというのが一つと、私自身映画が大好きなので、私が救われているように誰かを自分の映画で救えたらいいなという気持ちは常にあります。

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――「映画で救われる」というのは、上白石さんご自身はどんな部分で?

まず映画館自体がすごく好きなんです。映画が始まる前の高揚感も好きだし、同じ作品を観にいろんな人が集ってきてるということもすごく素敵だと思っていて。

作品が始まったら映像の世界の中に没頭できて、すごく無になれる。日常で生きてて無になる瞬間ってあまりないじゃないですか。映画館では作品と自分だけの世界に浸れるので、そこにすごく救われます。

――ちなみに映画館に行ったら必ずこれは買うとか、自分なりのルーティンはありますか?

良かったと思った作品のパンフレットはけっこう買うタイプです。フードを食べたり飲んだりはそんなにせず、じっくり見る感じですね。

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――映画好きには酷な質問かもしれませんが、好きな作品を一つ挙げるなら何を選びますか?

えー、難しい……そうですね……。私はウォン・カーウァイ監督がすごく好きで、全部の作品が大好きなんですが、その中でも『恋する惑星』がものすごく好きです。人の刹那的な瞬間とかときめきがたくさん詰まっていてすごく良くて。私は好きな映画をたくさん観たいタイプなので、たぶん年に10回は『恋する惑星』を観てると思います。

――年に10回! どんなタイミングで見ることが多いですか?

正直、すべてのストーリーを把握してて次にどんなカットかが来るかも全部わかっているので、家事をしながら流し観したり、好きなシーンはわざわざ巻き戻して観たり、自由に楽しむことが多いです。でもリフレッシュしたいな~と思ったときに見ることが多いですね。

現場の空気を良くする秘訣は「帰り際の挨拶」

――今年でキャリアは12年を超えると思うのですが、お芝居の向き合い方で変化してきたと感じることはありますか?

現場での責任感とか、「作品を良くしたい」「この役をもっと良くしたい」という思いは強まってきています。昔は楽しさややりがいを優先してしまっていましたが、今は自分がその役をやる意味、その作品に携わる意味を考える時期になってきているというか。現場ももっと良い環境になるようにということも、最近は思うようになりました。

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――ちなみに現場の雰囲気づくりで意識されていることがあれば、ぜひお聞かせいただけると。

私は自分から人にたくさん話しかけにいったりできるタイプじゃないので、帰りがけの「お疲れ様でした!」は、なるべく楽しげに言うようにしています(笑)。「お疲れ様でした!また明日も頑張りましょうね!」が元気だと、みんな気持ちよく帰れるかなと。挨拶を明るくするというのは心がけています。

――素晴らしいと思います!(笑)「GEMSTONE Creative Label」は実験的で挑戦的な創造をめざすプロジェクトということにちなんで、今後お仕事とプライベートでそれぞれ挑戦してみたいことを教えてください。

お仕事では、いろんな役と出会っていろんな人生を生きたいですね。自分はこういう人だろうという風に抱いていただくイメージがあると思うんですけど、そういうイメージを超えていけるような役に出会って、自分の血を通わせていけたらいいなと思っています。

プライベートでは、泳ぐことが好きなのでダイビングライセンスを取りたいんです。旅行先で海に潜って魚を間近で見たりできるのはいいですよね。できれば今年の夏、沖縄に行ってライセンスが取れたりしたら良いんですけど。

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――無事お休みが取れることを祈っております…! では最後に、アンバサダーとして企画全体の見どころを教えてください。

とても魅力的な才能が今まさに芽吹こうとしている中、この素晴らしい作品をよりたくさんの方に知っていただきたいなというのが一番の思いです。これらの映像作品を劇場の臨場感の中で見られるのはすごく贅沢なことだと思うので、ぜひ映画館の良い画と良い音と良い環境の中で、4つの作品を楽しんでいただけたらいいなと思います。

■上白石萌歌
2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディション グランプリを受賞し、芸能界入り。歌手、俳優として様々な分野で活躍し、2019年には『羊と鋼の森』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。近年の主な出演作に映画『子供はわかってあげない』(21年)、『KAPPEI カッペイ』『アキラとあきら』(22年)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23年)、連続テレビ小説『ちむどんどん』(22年)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』『パリピ孔明』(23年)、舞台『リア王』(24年)など。