中国のBYDがセダンタイプの電気自動車(EV)「シール」(SEAL)を日本で発売する。納車開始は2024年7月末ごろの予定だ。BYDが日本に投入するEVはSUV「ATTO 3」、コンパクトカー「ドルフィン」に続く3車種目。シールはどんなクルマなのか、さっそく試乗してきた。
そもそもBYDとは?
そもそも「BYD」と聞いてピンとくる人は、それなりにクルマに詳しいといっていいだろう。なぜなら、BYDは1995年に中国の深センでバッテリーメーカーとして創業し、自動車業界には2003年になってから参入した新しい自動車メーカーだからだ。最近では長澤まさみさんが出演するテレビCMの効果もあり、少しずつ知名度が上がってきてはいるものの、日本の輸入車市場では、まだまだ知る人ぞ知る自動車メーカーといった存在だ。
そうはいっても、BYDはすでに日本市場に2車種のEVを投入済み。いずれのモデルも性能が高く、コストパフォーマンスにも優れているとあって高い評価を得ている。そんなBYDが日本に導入する3つめのモデルがセダンEVの「シール」だ。
シールには後輪駆動の「RWD」と4輪駆動のハイパフォーマンスモデル「AWD」がある。今回はAWDに試乗し、このクルマの完成度と魅力を探ってみた。
高級車に引けを取らない? デザインを見る
シールの外観は非常に洗練されている。まるで欧州のプレミアムセダンのようなカッコよさすら感じるほどだ。それもそのはず、デザインしたのはアルファロメオやアウディなどでカーデザイナーを務めたウォルフガング・ヨーゼフ・エッガー氏なのだという。
シールはBYDのデザインコンセプトのひとつである「海洋シリーズ」に属する車種だ。海洋生物が持つ神秘的な美しさや機能性がデザインのモチーフになっている。シール(SEAL)というのは「アザラシ」を意味する英単語。ダイナミズムをボディで表現し、アッパーセグメントモデルにふさわしいエレガンスさを内外装に落とし込んでいる。
フロント先端からボンネット全体にかけて抑揚を利かせた滑らかな面で構成されたシルエットは、鋭いながらもすっきりとした印象がある。サイドからリアにかけては水が流れるようなボディラインになっている。リアも無駄な装飾がなく、高級感があり、凛とした印象に仕上がっている。
ボディサイズは全長4,800mm、全幅1,875mm、全高1,460mm。実車を前にするとそれなりの存在感があるのだが、乗り込むとさほど大きなクルマだとは感じない。おそらく、サイズが同程度のセダンよりも視界が広く、車両感覚をつかみやすいことが影響しているのだろう。
極めて個人的な意見だが、せっかくフロントフェイスはカッコいいのにリアが好きじゃない、あるいは前後のデザインバランスが悪いというクルマが多い中で、久しぶりに前後の顔つきのバランスが取れた完成度の高いセダンを見た気がした。
インテリアはシンプルながら高級感があり、居心地がいい。何より際立っているのはシートの質感の良さだ。腰かけたときの柔らかさとほどよいホールド感は絶妙で、長時間の運転でも疲れにくいだろう。この価格帯(後述)にしては、かなりの出来栄えだ。
カーブでも積極的にアクセルを踏みたくなる
走り始めると、動力がタイヤに伝わって徐々にタイヤが回りだす感触がしっかりと感じ取れた。EV特有の機械的な動きではない。ただ、アクセルを踏み込んでみると、明らかに内燃機関(エンジン)を積むクルマとは違う、強力な瞬発力が顔をのぞかせる。高速道路への合流や追い越しなど、加速が必要なシーンでも力不足を感じることはない。それどころか、スーパーカー並みといっても言い過ぎではないくらいだ。
さらに強調したいのが、ハンドルを切ったときの車体の安定感だ。特にワインディングでは、車体もドライバー自身も横に振られることがない。昔のフランス車でよくいわれた「猫足」のように、しっかりと路面をグリップしてくれる滑らかさは癖になる。
カーブでアクセルを踏み込んでも気持ちよく走れる。正直、ここまで思い通りに走れるとは思っていなかった。車内の静粛性はかなり高く、車外の雑音などはまったくといっていいほど聞こえてこない。シールは運転に没頭できるEVだ。
セダンながらシールの使い勝手は良好だ。フロントにある荷室は容量50Lとそれなりの広さだが、小さめのボストンバッグくらいなら入れられそう。リアのトランクにいたっては400Lもの大容量を確保しているので、大きめのキャリーケースでも2~3個は余裕で積めるだろうし、長尺の荷物も問題ないはずだ。
路面の振動は意外に拾う?
気になった点も挙げておこう。ひとつは、路面の振動を拾いやすいところだ。高速道路上で、路面のつなぎ目を越える際にはそれなりの振動を感じた。速度にもよるだろうが、体が上下に揺さぶられるのは気になった。
そしてもうひとつは、すべてのグレードで天井が2層構造の「パノラミックガラスルーフ」になっていること。開放感があるし、紫外線カット率は99%、可視光線透過率は4.2%、日射透過率は16%と運転に支障がない設計になっているのはいいのだが、できればシェードが欲しかった。日本の夏は年を追うごとに熱くなっているというのが実感だ。炎天下をガラスルーフのクルマで走っていれば、車内の温度上昇は避けられないのではという心配がある。
シールのバッテリー容量はRWDもAWDも82.56kWh。モーター出力は230kW(AWDは390kW)、航続距離は640km(AWDは575km)なので、EVとしての性能は十分だ。気温15度、充電器の最大出力90kWという環境で急速充電する場合は、30分ほどで40kWh以上の充電が可能とのこと。バッテリー温度管理システムを最適化することで、安定した高い充電性能を実現したそうだ。
BYDのこれまでのモデルは、ボディフロアの下にバッテリーとそのトップカバーが取り付けられていた。シールでは、ボディフロアとバッテリーのトップカバーが一体化している。これにより、正面衝突に対する車体の変形量を50%、側面衝突に対する変形量を45%抑制し、安全性能を向上させることができたとBYDは説明する。
値段に驚愕! 補助金でさらに安くなる?
肝心の価格だが、本稿の執筆時点でRWDが528万円、AWDが605万円となっている。ここに「CEV補助金」の35万円(予定)が加わり、自治体からの補助金も取得できれば、値段はもっと安くなる。
さらに驚きなのが、シールの「導入記念キャンペーン特別価格」だ。日本国内1,000台限定とはなるが、両グレードとも33万円の値引きを実施し、RWDを495万円、AWDを572万円で販売するという。加えて、6月25日~8月31日の間にエントリーすると、ETCやドライブレコーダー、メンテンスプログラム「eパスポート」、充電器工事費最大10万円のサポートなど盛りだくさんの「初期購入特典」が付いてくる。
シールのデザインはかなり洗練されているし、インテリアの質感も高い。走行性能も十分で満足できる。ここまで完成度が高いにも関わらず、他社の同セグメントのEVセダンと比べて安価に購入できる。補助金やキャンペーンを活用すればさらに安くなるとなれば、もはや選択しない理由はないかもしれない。これまでEVを敬遠していたという人も、一度は乗ってみてほしい。乗ればきっと、EVセダンの印象が大きく変わるはずだ。