千葉雄大の噛んだシーンが話題に

――話題となったシーンといえば、5話の星前役の千葉雄大さんが台詞を噛んだ場面を、そのまま使うという判断にも驚きました。

あの芝居が一番良かったから、監督が採用したというだけなんですよね。僕もプレビューを見て「素晴らしいお芝居だな」と感じたので、「これ、噛んでるけど、どうしますか?」という話すらしなかったです。

――お芝居が良かったから使った、ただそれだけだと。

そうです。僕は、人は噛むものだと思っているので。もちろん、何かを説明するパートとか、噛まなくていいところで噛んだテイクを使っても、分かりにくかったりするだけだからそんなことはしません。あのシーンは、千葉さんが星前の感情になっているからこそ言葉に詰まったのであって、感情が乗っていることが伝わるし、ドラマとして何の問題ないと判断しただけなので、「どうですか! 噛んでいるのにそのまま使ってますよ!」という意図は一切ないです(笑)。

――結果としては、「ほかのドラマで見たことがない」と大きな話題になりましたね。

ここまで、千葉さんが星前のキャラクターをしっかり積み上げてきてくれたからこその反響だと思います。千葉さん、そして吉瀬(美智子)さんはいろんな役どころを演じてこられた俳優さんですが、『アンメット』でも本当にいいお芝居をしてくださっていて。星前は、上手くやらないと「明るいリーダー」というドラマの無機質な記号に収まりかねないところを、生きた星前先生らしさを乗せるために、千葉さんが試行錯誤してくれています。吉瀬さんは、特に序盤では柔らかな吉瀬美智子らしさを封印して津幡役に挑んでくれました。原作と同じ津幡の髪型も、吉瀬さん自ら「これどうかな?」って作ってきてくれて。『アンメット』を良くするために、日々、キャストたちが、モチベーション高くいろいろなことをやってくれているんです。

井浦新はどのドラマにも一人欲しい存在

――このまま役者さんのお話をお伺いしていきたいのですが、大迫役の井浦さんの魅力は。

新さんとご一緒するのは3回目で、魅力も存分に分かっているつもり。最初から大迫さんは新さんがいいなと思って、新さんから逆算してキャラクターをかためていきました。柔らかさと、秘密を抱えている二面性がバチッとハマったと思います。新さんのお芝居には“あざとさ”という武器もあって、上手く計算して、視聴者へのサービスを上乗せしてくれることがあるんです。3話のラストで、ミヤビの記憶障害の原因が見当たらないという展開から、大迫の画に切り替わる場面がありました。新さんが「もう、怪しさを出しちゃっていいんじゃないかな」と提案してくれて、本番ではミヤビのMRI画像をじっと見ながらボールペンを動かす仕草を見せてくれて、「新さん、やってるな!」とうれしくなってしまいましたね(笑)。そういう“上手い”シーンを作りながらも、ミヤビに寄り添うナチュラルな姿も見せることで、大迫がテンプレートに収まったキャラにならず、『アンメット』の世界観のなかで地に足のついた、生きた人間になっている。井浦さんは、「どのドラマにも一人、井浦新が欲しい」と思わされる心強い存在です。

岡山天音は“色気”に期待して綾野役に

――綾野を演じる岡山天音さんも、人気キャラクターの一人です。

岡山さんはもう……素晴らしいですね、本当に。杉咲さんと若葉さんも言っていましたが、技巧派。テクニックでやっているという意味ではないのですが、とにかくお上手です。ミヤビと綾野が食堂でご飯を食べている何気ないシーンにも、「この人たち、本当に上手いな」と驚かされていました。綾野は恋愛パートも多いキャラクターなので、テーマは“色気”だと考えていたんです。岡山さんとは、二回目なのですが……。

――ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』(22年)以来なんですね。『恋マジ』でも、岡山さんと飯豊(まりえ)さん演じるカップルが大人気でした。

そうです、おんぶのシーンが懐かしい(笑)。『恋マジ』の反響で、岡山天音が世の女性たちを吸引する力を持っていると感じていたので、綾野にハマるんじゃないかなと思ってお願いしました。まさにピタリとハマりましたし、改めて、ほかの人にはない魅力を持った俳優だなと。

生田絵梨花の努力で麻衣に奥行きが生まれた

――そんな岡山さん演じる綾野と、生田絵梨花さん演じる麻衣のストーリーも魅力的でした。麻衣は、序盤はヒールのようなポジションでしたが、綾野を本気で愛していることが明らかになる7話、8話を経て、すっかり応援されるキャラクターになりましたね。

安心しました(笑)。生田さん、これまでよく我慢してくれたなと思います。本当の思いが明かされたあとの笑顔は、一気に麻衣の魅力が解放されるようで。皆さんが生田絵梨花のああいう表情を見たいということはもちろん分かっていたんですけど、『アンメット』では違うものを見せようよと話して、序盤は何を考えているか分からない麻衣を演じてもらいました。生田さんは質問王。現場では、生田さんが脚本について僕に質問に来るのが恒例行事になっていました。実は麻衣は、今何をどこまで知っていて、今何を考えているのか、情報の整理が一番複雑なキャラクター。生田さんのテクニックがあれば、何を考えているか分からないような、雰囲気を伝えるお芝居はできると思うんですけど、そうせずに、麻衣の感情を何とか手繰り寄せて、「それならこの言い回しがいいんじゃないか」、とすごく丁寧にコミュニケーションを重ねて作り上げてくれました。生田さんの努力で麻衣に奥行きが生まれたし、応援したいキャラクターになったと思っています。

――本当は、このまま全キャストのお話をお伺いしたいところなのですが、残念ながらお時間の都合もあるということで……最後に、最終回の見どころを教えてください。

『アンメット』で取り扱った脳の疾患には後遺症がつきもので、完全に回復することがなかなか難しい。そのなかで患者たちがどんな希望を見つけて、どう後遺症と付き合って長い人生を生きていくか。視聴者の方が患者の“その先”の人生にいかに思いを馳せられるかいうことを、全11話かけて描いてきたつもりです。これまで医者としてたくさんの患者に向き合ってきたミヤビが、三瓶との関係を通して、11話の“その先”の人生をどう生きていくのか、想像できるラストになればと思っています。ここまで見てくださった皆さまのご期待に沿える最終話を作れると信じてやってきました。最後まで見届けていただけたらうれしいです。

  • カンテレの米田孝プロデューサー

■カンテレ米田孝プロデューサー
2004年4月、カンテレ入社。事業部、制作部、営業部を経て、現在はコンテンツ統括本部 制作局 制作部 部次長を務める。代表作にドラマ『僕たちがやりました』(17)、『健康で文化的な最低限度の生活』(18)、『まだ結婚できない男』(19)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(20)、『エ・キ・ス・ト・ラ!!!』(20)、『エージェントファミリー ~我が家の特殊任務~』(21)、『恋なんて、本気でやってどうするの?』(22)など。

■『アンメット ある脳外科医の日記』第11話
ミヤビの検査の結果、再発が認められ、このまま症状が進めば意識障害が出る可能性も高いことが判明する。脳梗塞が完成して命に関わるのも時間の問題という切迫した状況に。三瓶は、すでに数時間しか記憶がもたなくなっているミヤビに、これ以上症状が進行するようなら、手術を任せてほしいと伝えるが、ミヤビの意思は固く、やはり手術はしないという。あきらめきれない三瓶は、限られた時間でノーマンズランドの0.5㎜以下の血管を吻合できるよう練習に没頭。しかし、ミヤビの気持ちを察した津幡(吉瀬美智子)から、「彼女が望んでいることをしてあげて」と言われ、あることを決意する。過去2年間の記憶を失い、今日のことも明日には忘れてしまう……。記憶障害という重い障害を抱えながらも、毎日綴る日記を頼りに明るく前向きに生き、多くの患者に寄り添ってきたミヤビ。彼女の今日はまた、明日に繋がらなくなってしまうのか。命の危機に瀕するミヤビと、彼女を救おうとする三瓶。二人を待ち受ける未来は。