女優の杉咲花が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(毎週月曜22:00~)が24日に最終回を迎える。Xでは何度も世界トレンド1位を獲得し、視聴率も回を重ねるごとに右肩上がりとなっている今作で、大きな話題を呼んでいるのが役者たちの芝居だ。「ドキュメンタリーに見える」「ノンフィクションのよう」と自然な演技が視聴者の驚きを与え、「化け物レベルの演技」「最強の役者陣」と絶賛の声が寄せられている。
今回は、カンテレの米田孝プロデューサーから見たキャストの魅力についてインタビュー。“異次元”の役者・杉咲花、“日本一台詞が台詞にならない俳優”若葉竜也のすごみとは。千葉雄大が台詞を噛んだシーンを採用した理由のほか、井浦新、岡山天音、生田絵梨花の魅力、最終回の見どころも聞いた。
杉咲花は、俳優の一歩先にいる
――主人公のミヤビを演じる杉咲さんの魅力に感じるところ教えてください。
杉咲花は、異次元ですね。若葉さんやほかのキャストの皆さんもそうですが、特に杉咲さんは“お芝居をしている”と感じさせない。川内ミヤビという人物が完全にできあがっていて、役作りという言葉では説明できないというか。
――まるで、もうミヤビ本人のような。
そんな感覚です。そして、そこにたどり着くために、信じられないぐらい努力をする人。監修の先生たちが驚くほどの手技ができるようになるまでの練習も、ミヤビの日記を自分で書くという作業も、杉咲さんにとってカメラに映るかどうかは関係なく、ミヤビの感情になるため、ミヤビとして言葉を口にするためのアプローチなんです。ミヤビと同じ行動を取って、ミヤビの感情に自然となっているから、台詞を言っているように見えない。もはや俳優というジャンルの一歩先をいっているようで、僕は“ネオ俳優”と呼んでいます(笑)。努力家である一方で、天才だとも感じるんですけど。脚本について話していると「なるほどな」と思わされる提案をしてくれて。
――どんな提案に「なるほどな」と感じましたか。
印象的だったのは2話の、病院を抜け出したサッカー少年の亮介と、ミヤビが一緒にサッカーをするシーンです。もともと「ミヤビならではの向き合い方ができないか」という杉咲さんの提案から作り上げられていったシーンなのですが、ボールを蹴り合うくだりと、その後、二人で話し合うくだりを、30分ほど長回しで撮影したんです。普通なら、一旦ボールを蹴るシーンでカットをかけて、仕切り直して、座って話すシーンを撮り始めるんですけど。「ボールを蹴り合う数十分のなかで、亮介の心が変わっていって、自分の本音と向き合うことができる」という感情自体をカメラに収めるために、杉咲さんの提案で、一連の流れを長回しで撮りました。亮介役の島村龍乃介くんが、左半側無視という状態を長い時間演じ続けて、苦しみが溜まっていったなかで見せたお芝居は抜群だったし、最初に転んでついた泥が、座っているときに自然と乾いているという時間経過のリアリティも、画に迫力を与えてくれて。杉咲さんが龍乃介くんの芝居を引き出しているのか、ミヤビが亮介くんの本音を引き出しているのか、その境界線が分からなくなるという感覚は、僕にとって初めての体験でした。
若葉竜也は“日本一台詞が台詞にならない俳優”
――ほかにも、米田さんにとって“初めての体験”はありましたか。
若葉竜也じゃないですかね。彼はもうすごい役者で、杉咲さんの魅力とも近いですが、“日本一台詞が台詞にならない俳優”だと思います。「三瓶役として、ベストな俳優だと思ったから」というシンプルな理由で若葉さんをキャスティングした通り、三瓶はすごくハマり役ですが、素の若葉さんが三瓶に近いからキャスティングしたという意味ではないんです。極端な話、別の役だったら、若葉竜也がその役にしか見えなくなる、そんな芝居をする俳優だと思うんです。
特に印象に残っているのは、6話で大迫(井浦新)に「あなたは医者ですか?」と聞くシーン。ミヤビ(杉咲)がてんかん発作を起こして、「こうすれば影が消えます」と、三瓶がとても大切にしている言葉を口にして、大迫が嘘をついていたことが分かって、三瓶は、もう信じられないくらいに怒っている。だから“ブチギレ三瓶”で行こうと話し合って脚本を作ったのですが、若葉さんは、想像を超える表現をしてくれました。三瓶の怒りがどこから来て、今どうなっているのか、明確に落とし込まれているから、あのお芝居が生まれるんだなと。
――三瓶の表情1つで、視聴者にも「今、どんな感情でいるのか」が伝わるお芝居をされていると感じます。
3話の冒頭で、「僕は川内先生の記憶障害を治したい」と伝えるシーンも、「ここでは、何を考えているか分からない三瓶ではなく、人間らしい三瓶を見せてほしい」と一言、言っただけで、驚くようなお芝居をしてくれました。いつも若葉さんは、ただ三瓶であろうとしているんです。「こういう表情を作ろう」としているのではなく、「三瓶の感情になると自然とそうなる」、そんな表現に、すごみを感じています。でも7話で、ミヤビに「三瓶先生を頼っていいですか?」と聞かれて、「うん」とうなずくシーンが、「三瓶先生の、“うん”の破壊力!」と話題になったときは、ここが視聴者に刺さるのか、まだまだ僕の想像力が足りていなかったなと驚きました(笑)。