コカ・コーラが手掛ける緑茶ブランド「綾鷹」が、この春7年ぶりに大きなリニューアルを行いました。

「まるで淹れたて一杯目のおいしさ」の味わいを目指したという新しい「綾鷹」、今回のリニューアルでどのように変わったのか、また緑茶はどのように作られているのか、京都・宇治の老舗茶舗「上林春松本店(かんばやししゅんしょうほんてん)」の茶師・上林春松氏にお話を伺ってきました。

「綾鷹」が7年ぶりにリニューアル! 変わったポイントは?

今回のリニューアルでは、いまの時代にあわせて「まるで淹れたて一杯目のおいしさ」に仕上げたそう。2007年10月に発売された初代「綾鷹」から味わいを監修している「上林春松本店」の茶師、第十五代 上林春松氏にそのおいしさのこだわりを教えてもらいます。

  • 京都・宇治の老舗茶舗「上林春松本店」第十五代 上林春松氏

今回の「綾鷹」が目指した味は、「淹れたて一杯目のおいしさ」。この味を目指すために、上林氏とコカ・コーラの開発者が徹底的に茶葉や抽出などを一から見直しました。その開発期間はなんと3年。「200以上の試作品開発や幅広い世代への消費者調査を行った末にリニューアルしたのですが、現行の『綾鷹』を越えるのは大変な目標でしたね」と上林さん。

  • 左はリニューアル前の「綾鷹」、右がリニューアル後の「綾鷹」。ボトルデザインも大きく変わっている

お茶の味わいの鍵となるのは、茶葉の特徴を生かして組み合わせるブレンド技術「合組(ごうぐみ)」。「綾鷹」もまた、上林春松本店の伝統と磨き抜かれた茶師の合組の技術にもとづいて、香ばしい香りや苦み・渋み、甘み・旨みのバランスの取れた風味を作られます。

「リニューアルでは消費者の嗜好の変化に合わせ、急須で淹れた一杯目の味わいのおいしさである『本格的なうまみ』『軽やかな後味』に着目しました。でも"軽やか"は良く言えばみずみずしく、一歩間違うと薄い味わいになってしまう。ピンポイントに探ることは難しかったです」と開発時の苦労を振り返るコメントも。

そして新しい「綾鷹」のコンセプト「まるで淹れたて一杯目のおいしさ」についても、説明してもらいました。急須で淹れたお茶でも、一杯目(一煎目)と二杯目(二煎目)では、一杯目は旨味(アミノ酸)の成分が多く抽出され、苦み(カテキン)が少ないため、旨みが強く苦みがなくすっきりとした味わいになります。二煎目は旨味が減り、苦みが増える味わいに。

実際に一煎目と二煎目を飲み比べてみると、同じ急須から淹れたお茶でもその違いは明らか。最初にふくよかな旨みが来た後、後味はすっきりとした味に。新しい「綾鷹」も以前の「綾鷹」と比べて、旨み(アミノ酸量)を40%アップ、苦みがなく後味すっきりした味わいになったそうです。

お茶の味を作る「合組」の技術

「綾鷹」のこだわりのひとつが、茶師の技である「合組」。この「合組」とは一体どんな技術なのでしょうか。上林氏に教えてもらい「合組」を体験した様子をレポートします。

「合組」とは、お茶づくりの最終工程であり、いくつかの個性を持った原料を組み合わせ、品質や味、香り、色を整えおいしい緑茶に仕上げる茶師の技術です。今回リニューアルした「綾鷹」も、何回にも及ぶ合組を経てつくられたそう。

  • 荒茶(写真は碾茶=抹茶の荒茶)

お茶の原料である「荒茶」は、摘み取られた生葉を蒸して水分を揉み出し、さらに茶葉を揉んで形を整え、茶葉に仕上げていく一次加工。生産農家のもとでつくられた「荒茶」を茶師や茶問屋が仕入れ、仕上げの加工を行います。

  • ずらりと並んだ「拝見茶碗」。今回は5種類の茶葉で「合組」をしました

まずはそれぞれの茶葉の魅力を知る「拝見」をします。今回は机の上で行いますが、茶葉の色味が正確にわかるよう、本来は「拝見場(はいけんば)」という直射日光の入らない黒い壁の部屋で行われます。「拝見盆(はいけんぼん)」という黒い皿に茶葉を入れ、茶葉の形や香りをチェックしたのち、「拝見茶碗」でお茶の色を見て、茶葉の魅力を見極めていきます。なお「拝見」という言葉には、生産者への敬意が込められているそう。

まずは拝見盆の茶葉をしっかりと見て、香りを確かめます。握って息を吹きかけ、返ってくる香りをチェック。

次に、「拝見茶碗」になみなみとお湯を入れて抽出します。同じ条件で淹れて比較することが重要だそう。

5種類の茶葉、最初は「違いがわかるかな?」と不安でしたが、実際に香りを確認したりお湯を淹れるとそれぞれ異なる個性があることがわかります。時々急須で淹れたお茶は飲みますが、飲み比べをしたことはなかったので新鮮!

飲んで確認をする際は、飲んだときのザラつきといった食感、そして想像した香りと味が、実際のものとずれていないかを予想することが大事だそう。「味覚は五感の中で一番にぶいんです。体調や季節、周囲の変化によって変わることもありますよね」と上林氏。口に含んで味を行き渡らせるのは、ワインのテイスティングのようです。

こうして5種類の茶葉を確認し、自分の好みの茶葉を見つけたら、その茶葉をベースに組み合わせて行きます。例えば一番好みの茶葉は6割、好みの茶葉の特徴を邪魔しない茶葉を3割、甘さを出したいなら甘みのある茶葉を1割……といったように、出来上がりの香りや味をイメージしながら割合を決めて行きますが、これが難しい!

香りをかいだり飲んだりしているうちに、最初の感想は違うかも……とだんだん混乱してきたところで、上林氏から「直感が当たりやすいですよ」とアドバイスが。最初に「気に入った!」と感じた茶葉を中心に、上林氏のサポートを受けて割合を決定。

こうして茶葉の割合を決めたのち、ブレンドしたら自分が合組を行ったお茶が完成! 急須で淹れて、一杯目を味わいます。なお煎茶を淹れるときは、沸騰させて不純物を取り除き、80度まで冷ましたお湯を使うことがおいしく淹れるコツとのこと。またお茶を注ぐときは"最後の一滴"までしっかりと注ぎ切ります。この一滴に美味しさが詰まっているそう。

今回「爽やかな香りで、しっかり渋みのあるお茶」を目指してみました。実際に飲んでみるとイメージに近い香りと味わいのお茶に。5種類の茶葉でも、組み合わせる種類や割合を変えると出来上がりはガラリと変わりそう。「綾鷹」もこの合組を何度も繰り返して味わいをつくっていますが、日々茶葉と向き合う茶師の技術と経験に培われたものだということがわかります。

上林春松本店の歴史をもっと知るなら

「綾鷹」のおいしさを作り出す上林春松本店をより知るならば、京都・宇治市の「宇治・上林記念館」(宇治市宇治妙楽38)を訪れてみては? JR宇治駅から平等院へ向かう宇治橋通りに面した場所にある宇治・上林記念館では、上林春松家に伝わる歴史資料が公開されています。

いまから約450年前、織田信長が勢力を強めていた時代に上林春松本店の歴史は始まりました。お茶を愛した天下人の豊臣秀吉に重用され、茶師を総支配する「御茶頭取」を務める家のひとつとしてお茶文化を支えます。

  • 豊臣秀吉からの書状。秀吉に収めた茶葉の詰め方がぞんざいな事をたしなめつつも「上林の茶葉は優れて良いものなのだから」と、激励の言葉も書かれています

徳川幕府が開かれてからは、幕府に新茶を届ける儀式「御茶壺道中(おちゃつぼどうちゅう)」の総責任者として活躍。徳川家光の時代から慶応3年(1867年)まで続きました。

  • 御茶壺道中で使われた茶壺

しかし明治維新で茶師の主要な顧客の幕府が崩壊、廃業する茶師も多いなか、第十一代上林春松は一般庶民へのお茶の販売を行ったといいます。そのときに販売したお茶の名前が「綾鷹」で、今の「綾鷹」の名前の由来になっているそう。

  • 上林春松本店の店頭では、「綾鷹」の煎茶も取り扱っている


伝統を重んじながら、新しいことに挑戦していく革新の精神は、上林春松本店とコカ・コーラに共通するマインドです。「今の消費者の方々の嗜好に合わせて、自信をもってオススメできる商品に仕上がりました」と、リニューアルした「綾鷹」に対して自信を見せる上林氏。パッケージのロゴマークにもあるように、「急須で淹れた味わい」が特徴の「綾鷹」、新しくなった味わいのこだわりを知ると、さらにおいしく飲むことが出来そうです。