東京・上野の東京国立博物館で、「カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話」が始まりました。1847年にパリで創業したカルティエが、日本で最初のブティックを原宿にオープンしてから50年となる節目の今年。重要文化財でもある表慶館を舞台に、120点に及ぶ「カルティエコレクション」とプライベートコレクション、50点以上のカルティエ アーカイブ、そして150点以上の現代アーティストによる作品が大集結。カルティエと日本の歴史と深くて長い結びつきを展覧する、超濃密でゴージャスな企画展となっています。

  • 東京国立博物館 表慶館

世界有数のラグジュアリーメゾンであるカルティエは、日本では過去に5回、展覧会を開催してきました。ここ東京国立博物館での開催は2009年の「Story of… カルティエ クリエイション~めぐり逢う美の記憶」展以来、15年ぶり2度目。今回は“左右対称”構造である表慶館の右側の展示室で「カルティエと日本」をテーマにした展示を、左側では「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」たちの作品を展示し、メゾンと日本を結ぶさまざまなストーリーを通して、その2つの絆をひも解くという趣向です。

  • 左右対称の構造をなす表慶館。右側の展示室では「カルティエと日本」、左側では「カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト」の作品を展示する

「カルティエと日本」-日本からのインスピレーション

カルティエが日本初のブティックをオープンさせたのは50年前ですが、日本との結びつきは実はそれよりはるか以前、今から1世紀半近くも前にまでさかのぼります。1898年に創業家3代目のルイ・カルティエが事業経営に携わるようになってから、その創作のなかに日本美術の影響が表れるようになりました。彼は美術愛好家かつコレクターであり、日本のオブジェや書物を熱心に収集。イマジネーションを刺激されたメゾンのデザイナーたちは、そうした日本美術を再解釈し、カルティエのクリエイションの中に反映していったそう。

  • © Cartier

東京国立博物館 館長の藤原誠さんは、カルティエのクリエイションの中に見られる日本文化のエッセンスについて、「ルイ・カルティエは、単に日本美術の表面をひろうのではなく、メゾンで供するクリエイションに活かす際に、彼の“琴線に触れた部分を活かす”というステップを踏んでいるように思います。用途が異なっていても、共通点や結びつきが感じられる。ブローチや時計といった装身具の形と文様に共通するのは、めでたさが込められた“吉祥性”。ルイ・カルティエはその形から、希望、シンボル、表彰といったものを読みとっていたのでしょう」と語っています。

  • 《シングルアスクル ミステリークロック》カルティエ パリ/1921年頃 © Cartier

  • 《ブローチ、ペンダント、ヘアアクセサリーのための石膏型》カルティエ パリ/1907-1914年ほか © Cartier

たとえば、印籠からインスピレーションを受けたヴァニティケース、手鏡の形をモチーフにした置き時計、神社の建築を想わせるミステリークロック、日本風の結び目の形をしたブローチ。ルイ・カルティエの時代から現代に至るまで、そうしたカルティエのクリエイションからは、さまざまな形で日本の美術や建築、意匠からの影響を見ることができます。

  • 《「スネーク」ネックレス》カルティエ パリ、スペシャルオーダー/1968年 © Cartier

  • 《マグネティック テーブルクロック》カルティエ ニューヨーク/1928年 © Cartier

右側の展示室では、1983年に創設されたメゾンのヘリテージコレクション「カルティエ コレクション」の作品やメゾン カルティエを象徴する作品、アーカイブ資料、そして現代アーティストの作品まで、170点以上を展示。なかには2017年にタンクウォッチの100周年を記念して、香取慎吾に制作を依頼した、大胆で鮮やかな色彩の絵画作品も登場します。

カルティエ現代美術財団と日本のアーティスト

  • 左から、横尾忠則《自画像》2018年/《荒木経惟・写真家・日本》2014年/《三宅一生・デザイナー・日本》2018年/《束芋・アーティスト・日本》2014年/《森山大道・写真家・日本》2014年 © Cartier

いっぽう、日本のアートシーンを代表する国内外16名のアーティストの作品が集結しているのが、左側の展示室。1984年の設立以来、カルティエ現代美術財団は長年にわたって、日本人アーティストの発掘や再発見に力を注ぎ、彼らの作品をヨーロッパで紹介してきた実績を持っています。同財団では、所蔵作品や国内外で活躍するアーティストの個展や展覧会もたびたび開催。

  • © Cartier

  • 《犬と網タイツ》森山大道/ビデオインスタレーション/2014-2015年 © Cartier

同展に登場するアーティストは、荒木経惟、石上純也、ウィリアム・エグルストン、川内倫子、北野武、ジャン=ミシェル・アルベロラ、杉本博司、束芋、中川幸夫、宮島達男、松井えり菜、村上隆、三宅一生、森村泰昌、森山大道、横尾忠則。絵画や写真、建築やデザイン、映像、さまざまなジャンルの作品が一堂に会する様は、まさに圧巻。16人のアーティストは、カルティエ財団からの依頼で2014年から横尾忠則によって肖像画に描かれ、今回の展示作品にも登場しています。

  • © Cartier

  • © Cartier

そして、左右ふたつの展示室を“結ぶ”中央の円形の空間で展開するのが、澁谷翔によるインスタレーションです。これは、50周年を記念するためにカルティエから制作を依頼された澁谷が、35日間をかけて日本全国を旅して制作した50点の絵画連作。47都道府県すべての土地で見た空の景色は、地元新聞日刊紙の一面に毎日掲載されました。歌川広重の「東海道五十三次之内」へのオマージュ作品でもあるこの連作「Fifty Sky Views of Japan(日本の空五十景)」は、カルティエと日本のつながりの連続性を象徴するものにもなっています。

  • 澁谷翔《Fifty Sky Views of Japan(日本の空五十景)》2024年 © Cartier

左右対称の構造をなす東京国立博物館 表慶館を舞台に、カルティエと日本の深い結びつきの軌跡をたどりながら、これからの未来をも展望する同展。この貴重な機会をお見逃しなく。

■information
カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』展 ― 美と芸術をめぐる対話
会場:東京国立博物館 表慶館
期間:6月12日~7月28日(毎週月曜休、7/16休、※7/15は開館)
時間:9:30~17:00(金・土は19:00まで)
料金:一般1,500円、大学生1,200円/高校生以下、障がい者とその介護者1名は無料※入館の際に学生証、障がい者手帳等の提示が必要