シリーズ累計1,200万部を突破している大人気コミックの、10年後の物語を実写映画化した『からかい上手の高木さん』(公開中)。高木さん(永野芽郁)はパリへ転校した後、東京の大学で美術を学び教育実習生に、彼女に何かとからかわれる男の子・西片(高橋文哉)は地元で体育の先生に。映画では、20代になった2人の恋の行方を描いている。
映画の撮影は、原作の完結(2023年10月)より前に始まっていたという。恋愛映画の旗手として名高い今泉力哉監督は「一種のパラレルな世界」と頭に起きつつ、「キャラクターはズレないように」と気をつけていたと語る。
実写映画の2人は、まだ恋愛の一番手前にいる
――原作から10年後を舞台にした物語が描かれます。高木さんと西片、2人の現在をどう考えていきましたか?
原作にはない時間ですが、原作のスピンオフにあたる『からかい上手の(元)高木さん』という、2人が結婚して子どもがいるコミックがあります。その辺のことも頭に置きつつ、映画では、原作やアニメ版とはまた少し異なる一種のパラレルな世界を考えていきました。というのも、映画の撮影は原作の完結(2023年10月)より前に始まっていたんです。原作では最後、中学生時代に「好き」と伝えますが、映画を作っているときには、そういった展開は知りませんでした。ただキャラクターはズレないようにと、そのことはきちんと気を付けて作っていきました。
――原作にも登場する「花火大会」のモチーフが、映画に組み込まれました。
花火大会は大切なモチーフになると思っていました。プロデューサーや脚本家チームもそこにはこだわっていましたね。でも実写版では映画の物語がはじまる時点で、2人は「好き」と伝え合っていない。同級生たちは付き合っては別れたり、結婚したりしていて、原作にはない映画版のキャラクターである教え子の中学生も、自分の気持ちを伝えている。そういったみんなが、高木さんと西片より先輩として存在している。高木さんと西片は恋愛の状態が1番手前にあって、みんなの恋愛関係に影響を受けるという構成にしました。ただ、受け身ではありつつも「西片が花火に誘う」という能動的な行動は原作でも大切な場面だと思って、取り入れました。
――監督はもともと恋人同士も「片思いが7割だ」とお話されてきました。
初期に言ってましたね。お恥ずかしい。
――高木さんと西片は恋人にもなっていませんし、西片にいたっては「好き」の感情そのものがまだ分かっていない状態のまま10年経っています。監督にとっても新鮮で面白いと感じる関係でしたか?
中学生からの10年後を描くとなったときに、通常だとその間に他の誰かと恋愛しているなど、物語に新たな第三者を置きがちです。でもこの作品では3人目を置くのはやめようという話になりました。原作者(山本崇一朗氏)や出版社サイドも唯一「それはやめてほしい」と言っていましたし、自分でもこの原作で第三者を置くということに興味はなかった。原作ファンも「この2人のどちらかが、他の人を好きになる可能性ってある?」と考えると思ったし。その条件下で、どう2人の気持ちが変わっていくのかを考えていきました。
“第三者を置かない”という、ベタな作劇にならないこの設定を、僕自身が楽しんでできたところはありますね。あと「好きな気持ちや恋愛が分からない」といった人物像については今まで何度も扱ってきたテーマですし、他の人を好きにならずに10年間一途でいるという関係も、この原作と島の空気ならそれほどファンタジーにならない気がして。現実世界にも全然いますからね、そういう純粋で一途な人は。
■今泉力哉監督
1981年2月1日生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。13年『サッドティー』が第26回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品される。19年『愛がなんだ』がロングランヒットとなり一躍人気監督に。新時代の恋愛映画の名手として支持される。近年の主な監督作に『あの頃。』『街の上で』(21年)、『窓辺にて』(22年)、『ちひろさん』『アンダーカレント』(23年)など。人気コミックを実写化した『からかい上手の高木さん』では、原作と同じ中学生時代の物語を監督したドラマ版が放送され、続けて主演・永野芽郁、共演・高橋文哉により10年後の物語が展開する映画版が公開中。
望月ふみ
(C)2024映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 (C)山本崇一朗/小学館