昨年10月放送の『最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~』に続き、山本Dが安楽死をテーマにしたドキュメンタリーを制作するのは2作品目。今回の番組制作を通して新たに感じたことは何か。

「マユミさん一家は家族で闘病のことも含めてちゃんと話し合えていたし、何よりマユミさんが家族への思いやりを持って最期を選ばれたからこそ、家族が新しい形での生活をスタートできているというのをすごく感じるんです。一般的に、家族が突然亡くなってしまうことはあるし、自分の命がいつまでなのか分からないと思うのですが、マユミさんはそこに向けて準備をし、家族はその思いを何とか理解しようと努力してその日に向かっていきました。

 マユミさんのお別れの会であった印象的な会話で、ママ友の方が娘さんたちに“何でも困ったことがあったら言ってね”と話していたんです。それによって、家族の中だけで悩み続けなくて良くなったし、お母さんの選択を周囲に隠す必要がない関係も築けているんですね。以前取材をした方々は、本当に孤独に闘っていて、思い詰めている感じがあったのですが、今回のご家族にはそれを感じなかったので、改めて最期のことについて“話し合う”ことがいかに大事なのかを考えさせられました」

また、家族で安楽死に向き合うという姿を通して、「マユミさん一家の中にいろんな立場や性格の方がいるので、自分だったらどう受け止めるだろうと思いを巡らせながら見てもらえるといいですし、これを機にどんなことでもいいので、家族で大事なことについて話してもらえたらうれしいです」と呼びかけた。

安楽死というテーマを伝え続ける使命感

安楽死を扱うドキュメンタリー制作について、「中途半端にやめられるテーマではないので、番組になるか否かは別にして、自分自身として今後も向き合っていきたいと思います」という山本D。「今までタブー視されてきたテーマである分、取り上げるのが難しいのは間違いないです。今回の番組を放送するにあたっても、たくさんの課題がありましたが、我々メディアや政治が目を向けていくべきテーマだと考えています」と気を引き締める。

近年、SNS上で「#国は安楽死を認めてください」というハッシュタグがトレンドに浮上することもあるが、「その中には極端な考えの方もいて、“安楽死を認めたら誰でも死ねる”と思ってしまう人すらいるんです」とした上で、「だからこそ、本当に悩み抜きながら安楽死を切望する人はどのような方たちなのかということは知ったほうがいいと思うんです」と、このテーマを伝え続ける使命感を語った。

今回の『ザ・ノンフィクション』は、1つの家族の事例を取り上げているが、BSフジでは安楽死をめぐる多くの事象を取材した2時間版の番組が、6月23日(12:00~)に放送予定となっている。

  • 山本将寛ディレクター

●山本将寛
1993年生まれ、埼玉県出身。上智大学卒業後、2017年フジテレビジョンに入社し、ディレクターとして『直撃LIVE グッディ!』『バイキング』『めざましテレビ』『Mr.サンデー』を担当。「FNSドキュメンタリー大賞」で『禍のなかのエール~先生たちの緊急事態宣言~』(20年)、『最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~』(23年)』を制作し、『最期を選ぶ』では、「FNSドキュメンタリー大賞」で優秀賞、フランス・パリで開催された日本ドキュメンタリー映像祭「Un petit air du Japon2024」でエクランドール賞(最優秀賞)、国際メディアコンクール「ニューヨーク・フェスティバル2024」でドキュメンタリー・Human Rights(人権)部門の銅賞を受賞した。また、『エモろん ~この論文、エモくない!?~』『オケカゼ~桶屋が儲かったのはその風が吹いたからだ~』といったバラエティ番組も手がける。

悩んでいる方の相談窓口があります。下記の公式サイトをご覧ください。
電話:よりそいホットライン
SNS:生きづらびっと
いのちと暮らしの相談ナビ(相談窓口検索サイト)