建築家にスポットを当てるBSフジの新たな特番『矢作兼のキズキの建築』が、きょう30日(21:00~)に放送される。企画したのは意外にも、『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ)や『ザ・ベストワン』(TBS)など、ゴリゴリのお笑い番組を立ち上げてきた藪木健太郎氏(Sunny Pictures)氏だ。

建築家の考え方や哲学から“気づき”を得るというこの番組を、なぜ発案したのか。20年以上の付き合いになるMC・矢作兼(おぎやはぎ)の「どんな人とも合わせられる」という魅力なども含め、話を聞いた――。

  • (左から)矢作兼、谷尻誠氏、西田司氏

    (左から)矢作兼、谷尻誠氏、西田司氏

“建築家版・料理の鉄人”から12年越しのリベンジ

早稲田大学理工学部建築学科を卒業した藪木氏。フジテレビに入社して照明スタッフ、バラエティ制作とキャリアを重ねる中で、いつか建築にまつわる番組を作りたいと考えており、2012年に『戦う建築家! FIGHTING ARCHITECTURE』という番組を制作した。クライアントゲストが考える理想の家を、2人の建築家がプランニングして対決するという、いわば“建築家版・料理の鉄人”だ。

制作を進める中で、「建築家の脳みその中が見られるのが面白かったんです。物事の捉え方や、生活するということの拡大解釈といった考え方が、建築家個人によって理論的なところがすごくあって、“思考のドキュメンタリー”みたいな感覚でした」と手応えが。一方で、「3週間かけてプランニングするのですが、深夜番組で予算もないので、50分の1サイズの模型にしかできなかったんです。家ってやっぱり完成像を見ないと響かないんですよね」という反省点もあった。

『ENGEIグランドスラム』で、なんばグランド花月の舞台をできる限り再現するなど、バラエティの制作現場で建築とも共通点のあるスタジオセットに日々こだわって接しながら、その後も自身のPCの企画書フォルダーに“建築番組”を常に用意していた藪木氏。今回、個性的で違和感のある家を訪れ、設計した建築家自身に考え方や哲学を聞いて、“気づき”を得るという番組が成立した。

登場するのは、谷尻誠氏の「いすみの家」と、西田司氏の「丘の上の住宅」。「いすみの家」は、必要ないものをできる限り排除し、自然、野生との融合を目指したもので、谷尻氏の考える、人の居場所、目線の高さ、景色の見え方、くつろぎの方法に注目だ。

「丘の上の住宅」では360°の見晴らしを最大限に生かした「丘」の考え方に、矢作も興味津々。西田氏の考える建主の動き、生活、思考を想像し尽くした先にあるクリエイティブな発想が明らかにある。

建築物を見て解説する番組と言えば、『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日)や、『すこぶるアガるビル』(NHK)、『となりのスゴイ家』(BSテレ東)などが知られるが、『キズキの建築』では家主がほぼ登場せず、あくまで“建築家”にスポットを当てる番組として差別化が図られている。

「成し遂げられないことは、建築で解決すればいい」

実は、12年前の『戦う建築家!』にも参加した谷尻氏と西田氏。彼らの“脳みその中”の面白さが強く印象に残っており、今回の番組で再び依頼した。

矢作とともにMCの役割も担う谷尻氏の印象は、「常識や当たり前を疑う人です。例えば、“傾斜地は建てにくいと言われるけど、本当にそうなの?”とか、“南向きって絶対必要なの?”とか。コップの写真を出して、“ここに金魚を入れたら金魚鉢になるし、花を挿したら花瓶になるから、名前を外すことによって見えてくるものがいっぱいある”と言うんですよ」といい、「“住みやすい家よりも住みたい家のほうがいい”というアプローチが面白くて、建築業界でもちょっと異端な存在だと思います」と説明する。

藪木氏が今回の番組を通して得た“気づき”を聞くと、「谷尻さんに“建築において難しいことはなんですか?”と聞いたら、“難しいってことは新しいってことですよね”と答えたんです。困難で成し遂げられないことは新しいことだから、建築で解決すればいいと思って、ワクワクしながら作ると言うんですよ。また、“アイデアには価値がない”とも。アイデアだけで終わらせるのではなく、動かして実現しないと意味がない。もう金言ですよね」と感銘を受けたという。

このように、建築家の脳みそを覗いてみると図らずも、建築以外の世界にも通じる“気づき”が得られる番組に仕上がったのだ。

「普通のお宅拝見番組なら、家を建てようとしている人が“この家具いいよね”、“この材質いいよね”と参考にしますが、実際は土地の狭さ広さや予算も人それぞれ違うので、この番組では“考え方”を参考にしてほしいと思っていたんです。でも、一流の人たちが考えている脳みその中を覗き見ることで、一見狭いところを指してるけど、ジャンルを横に広げられる形になったと思います」