バント飛球を好捕する中日・小笠原 (C)Kyodo News

◆ 「体が動いちゃいました」

 場内騒然のダイビングキャッチが飛び出した。5月22日の巨人戦(東京ドーム)で中日・小笠原慎之介が飛んだ。

 5回無死一塁。セーフティーバントを試みた吉川尚輝の小飛球を追い掛けた。三塁線付近で右足でグラウンドを蹴り、右手を目いっぱい伸ばしす。飛び込んで白球をグラブに収めた。

「体が動いちゃいました。ケガのリスクは飛んだ後、『あっ、危ないかも』と思いました」。聞いたはいいが、記者は内心、複雑だった。抑えられない勇気に基づくワンプレーである一方、何かあったらたまらない。心のどこかで「やめてくれ」と思った自分もいた。

 左腕の頭にも衝撃のシーンは浮かんでいたという。小笠原の生まれる2年前の1995年だった。巨人・桑田真澄(現・巨人2軍監督)は同様のプレーで、右肘を強打して靱帯(じんたい)断裂に見舞われている。球界で語り草のひとまく幕。過去に目にした映像が脳裏をよぎった。

 ボールをキャッチした小笠原は一走が飛び出していないことを確認すると、うずくまった。何か、起きたか―。「胸を打ちました。呼吸しにくかったです」。投球練習してゲーム再開となった。

◆ 「自分のピッチングをする、そっちの方を大事にしています」

 今季初の東京ドームは、1年前は心を打たれて涙した場所だった。開幕・巨人戦の先発を託されている。チームは勝った。チームメートの奮闘に胸は熱くなった。

「ベンチ入りメンバー全員にそれぞれの役割があります。ボクにできないことだって、ほかの選手はできます。ボクはボクのできることをやるだけです」

 あれから1年と少し。ダイビングキャッチして1点を防ぐ姿勢に野手が応えた。直後の攻撃で細川成也とカリステの連続タイムリーで3点をゲット。チームは勝利した。

 チームの流れを変えるようなビッグプレーの直後での援護。登板時の援護点は44イニングぶりだった。無援護をどうとらえていたか。

「周りは言いますけど、入るときは入りますし、入らないときは入らない。気になりません。それよりも自分のピッチングをする、そっちの方を大事にしています」

 自らの役割を全うすする。他者は操作できない。

 チームが逆転した直後の6回を3人で抑えたのは役割を理解しているから。この回で降板。94球で被安打7、失点2。シーズン初登板から全8戦でクオリティースタート(QS、先発で6イニング以上を投げて自責点3以下)を達成。藤嶋健人、松山晋也、マルティネスの継投で4月9日DeNA戦(横浜)以来、1陰半ぶり2勝利目(3敗)を手にした。

 実はこの試合、記者の靴の裏底がはがれた。時間差で、両足ともに、だった。ゲーム後、小笠原に「えっ。どういうこと?」と聞かれた。思えば前日にはパソコンが、その1週間前には携帯電話が壊れている。

「あなたの肘の身代わりになったと、そう思ってる」と伝えた。

 いくら何でも肘の代わりに他人のものが壊れるのは違う気がしたと同時に、一方では身代わりになったような気もしてきたのだとか。「不思議ですけど、代わりになってくれたんですね。そんな気もします」と言っていた。

 好事魔多し。オフのメジャー移籍への障壁はどこからどのタイミングでやってくるか分からない。順調なシーズン運び、投球を願っている。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)