女性活躍を推進する企業が増えつつある一方で、未だに女性管理職の割合などはおしなべて低く、まだまだ改善の余地があるとされている。

そんな中、電通デジタルでは史上最年少の女性マネージャーが誕生するなど、着実にダイバーシティの歩みを進めつつあるようだ。今回は入社6年目で最年少女性マネージャーに昇進した保科早希さんのもとを訪問し、その経緯や背景について話を伺った。

  • 電通デジタルで女性最年少マネージャーとして働く保科早希さん

▼きっかけは入社2年目、クライアントの容赦ないダメ出し

ーーまず、電通デジタルに入社したきっかけについて教えてください。

私は2018年に新卒入社しました。実は2018年はちょうど電通デジタルが初めて新入社員を募集し始めた年で、新卒1期生として携われる点に惹かれました。加えて、デジタル業界が伸び始めていたタイミングでさらに伸びしろがあると感じていたこと、ターゲットに合わせてより細分化したアプローチができるデジタル広告に魅力を感じたことなどから、電通デジタルへの入社を決めました。

ーー入社後の経歴も簡単に教えていただけますか?

1年目のときはメンバーが10人ほどの部署に配属されて、そこで知見共有会のようなものを運営しながら競合ピッチの手伝いなどをしていました。2年目からはアカウントプランニング部門でフロントオフィスを担当する部署に異動し、企業担当として3年くらい働きました。

5年目で一度ストラテジックプランナーの部署に異動し、6年目で再びアカウントプランニング部門に戻る形でマネージャー職に就任、コンペの仕事やコンペ人材の育成をしていますが、自分の中でのターニングポイントは入社2年目でしたね。

ーー入社2年目に何かあったんですか?

当時、私としては初めてのフロント業務で仕事に慣れない部分も正直あったのですが、お客様は当然プロとして私を見てくるわけです。そんな中、初めて一人でメイン担当をしたクライアントのところへ最終報告にうかがったことがあったんですが、そこで私が提出した資料の内容について思いっきりダメ出しをされました。帰りのタクシーではボロ泣きしましたが、指摘された内容はすべて正しかったなとも思ったんです。

ーーなるほど……。

それから3ヶ月後、同じクライアントのもとへ別の案件の最終方向へうかがう機会があったのですが、前回の反省を活かして念入りに準備して100ページ程にまとめた報告書を提出したところ、「今まで色んな人から資料を受け取ってきたけど、その中でも一番いい資料だ」って褒めてもらえて……。

それがすごく自信になりましたし、プロとしてお客さんとどう向き合うべきかということも含めて、本当に意識が変わったのを覚えています。社会人になってからこんなにちゃんと怒られたのは最初で最後で、この出来事が今も仕事をするなかで私自身の根幹にあると思っています。

▼飛び級で最年少女性マネージャーに抜擢された経緯

ーーマネージャー職に就任した経緯についてお聞かせください。

マネージャー職は入社6年目で抜擢されました。そのきっかけになったのかなと自分自身で思うのは、入社5年目のときに社内外で4つのアワードを受賞したことです。通常の業務の実績が多く作れたことが評価されましたし、イベントに登壇して電通の社員やクライアントの前で話したことをきっかけに社内で名前が広まりました。

それまでは、一番早い人でもマネージャーに就任したのは入社7年目のときで、私の場合もグレード的な部分ではもう2年のキャリアを積む必要があったのですが、飛び級するかたちでマネージャーに就任させていただくことになりました。

ーープレッシャーはありませんでしたか?

もともと私の上長たちが「とりあえずなんでもやりなさい」というタイプの人たちで、私がマネージャーになるときも、「マネージャーになったからといって自分のやりたいことができなくなるのではなく、これまで以上にやりたいことできるようになると思うよ」と勇気づけてくれました。周りにそういう人たちがたくさんいたので、自分もやってみたいなって思えました。

ーーマネージャーになるにあたって、会社のサポート体制はいかがだったんですか?

電通デジタルのマネージャー研修は手厚くて、どういうチーム、どういうビジョンを作るかといった研修もありましたし、1on1のための研修に至っては半年くらいかけてじっくり学ばせてもらいました。

ーー1on1の研修というのはどんな内容なんですか?

月1回くらいのペースで、ロールプレイングみたいなものをオンラインで実施するんです。同時期にマネージャーに昇進した社員同士が生徒役・上司役に分かれて悩み相談を実施する、という感じですね。オブザーバーとして人事部の有資格者もいて、部下の悩みの引き出し方や、部下へのアドバイスの仕方などについても丁寧に教えてくれるんです。

ーー研修での経験は実践でも役立っていますか?

活かせていると思います。マネージャー研修は「傾聴力」を鍛える目的が根幹にあるのですが、普通に働いているだけだと、なかなか傾聴する力は鍛えられないんですよね。

相手の悩みを聞くと、ついアドバイスしたくなっちゃいますが、悩みを聞いてほしい場合は、なるべく聞き役に徹することが大事だったりもするんです。もちろん、アドバイスが求められるようであれば応えていいのですが、そのバランスが結構難しかったりしますね。

▼求められるのは個人の成果ではなく、チームの成果

ーー管理職へのイメージと、実際の仕事内容にギャップはありましたか?

人の動かし方については戸惑うことも多かったですね。それまでは自分が手を動かす側だったのであまり考えたこともなかったのですが、プロジェクトをマネジメントするのと人をマネジメントするのとでは、全然要領が違います。それまでは個人でどれだけ成果を上げられるか考えていたのですが、今はチームをどう育てるか、チームでどう成果を上げるかという方向に意識が変わりました。

ーーマネージャーになったことで、何か思わぬメリットなどはありましたか?

実は私、ちょうど今年結婚したばかりで、まさに今後の子育てやその先のキャリアについても考えなければならないタイミングなんです。今までは現場でがむしゃらに働いて結婚や子育てとの両立についてリアルに考えてこなかったのですが、実際にこの状況になってみて、自分の力を部下たちに伝授すれば同じ成果をチームとして上げられると感じますし、キャリアを重ねるほどプライベートのライフプランも立てやすくなると考えるようになりました。そういうことも、実際にマネージャーになるまでは気づきませんでした。これは他の女性社員にもぜひ知ってほしいことですね。

ーーマネージャーとして、何か印象に残っているコミュニケーションなどはありますか?

先日、あるメンバーと1on1をしているときに、「今までの1on1は目先の業務内容や仕事の効率化についての話題が中心で、その先の未来が見えづらいと感じていた。でも、保科さんと話して未来のヴィジョンが考えられるようになった」と言ってもらえて、とても嬉しかったのを覚えています。

ーー年齢が若いので、いいロールモデルになっているのかもしれませんね。

部下のみんなとは、「部活のキャプテンとメンバー」みたいな距離感なんだと思います(笑)。コンペの準備も文化祭の前夜祭のような感じでやっているので、みんなで頑張ろうって思えますし、仕事していて楽しいですね。年次が近い人も多いので、手が届きやすいロールモデルになれているのかもしれません。

▼子育てをしながら若手女性社員たちのさらなるロールモデルへ

ーー女性管理職の割合が増えることのメリットはどのような部分にあると思われますか?

やはり女性の活躍の可能性が広がるということではないでしょうか。ロールモデルとしてのお手本ができるので、女性社員のみなさんがキャリアイメージを持てるようになると思います。会社としても、女性の視点が入ったほうがいい案件……例えば化粧品や下着などの女性商材などもありますし、事業の幅も、女性管理職が増えることで広がっていくはずです。

ーー管理職に向いている人はどんなタイプだと感じていますか?

一番は人のために仕事ができる人、そして人の成果を一緒に喜べる人だと思います。マネージャーになると、自分個人の成果が問われるのではなく、チームとしての成果が問われるようになります。私自身も裏方仕事が増えてきましたが、縁の下の力持ちを楽しめる人は向いているのかもしれません。

ーー最後に、今後の働き方やライフプランに関する展望についてお聞かせください。

今後は、もし子どもを授かれれば子育てしながら管理職をこなしていきたいと思っていますし、最年少女性マネージャーの次は最年少事業部長というステップになりますが、これも実現したいと考えています。私がチャレンジをすることで後輩の女性社員たちにもそういった道を目指してほしいですし、できるだけ多くのメンバーにこの会社でより長いライフプランを考えてもらいたいとも思っています。


入社2年目で本格的にスイッチが入り、そのまま史上最年少女性マネージャーの位置まで走り抜けた保科さん。管理職に就任したとはいえ、社会人としてのキャリアはまだスタートしたばかり。今後のさらなる飛躍に期待は膨らむばかりだ。