人生に影響を与えたテレビ番組を軸に、出演作品の話題からその人のパーソナルな部分にも迫るインタビュー連載「PERSON~人生を変えたテレビ番組」。今回は『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系、毎週日曜22:00~)で主演を務めている松本まりかさんが登場します。

2000年にNHKドラマ『六番目の小夜子』でデビュー。2018年に放送された『ホリデイラブ』で話題に。その後は、ドラマ『それでも愛を誓いますか?』、5月17日(金)公開の映画『湖の女たち』など、多くの作品に出演しています。

松本さんが本作で演じているのは、悪事で荒稼ぎする男性を手玉にとる結婚詐欺師・朝倉すみれ。そんな彼女が婚活宣言!? しかし、若くして詐欺師となったすみれは恋愛経験がゼロだったのです。ある日、村松宗春(上杉柊平)と出会って……。

今回、松本さんにインタビューを実施。なぜ、我々はこんなにも“俳優・松本まりか”に魅了されるのか? その答えが分かる“熱い”時間となりました。

いろいろな価値観を否定しないドラマ

――松本さんが演じるすみれは、当て書きだそうですね。

私の世間的なイメージとして、悪女の部分が描かれると思っていたのですが、どうやらすみれは悪女ではないんです。読み解いて深堀りすると、ほころびの部分や不器用な部分ばかりで、どうやってもカッコよく演じられない……(笑)。そこは、自分ととても似ているなと思うと同時に、(脚本の)政池洋佑さんから見た私はこんな風に見えているのかとも思いました。

――すみれの魅力的に思う部分はどんなところですか?

嘘をつけないところです。結婚詐欺師ではありますが、彼女自身に悪い心はなくて、どんな人にも真心で接しているんです。悪事をしている彼らからお金は取りますが、“人”としては、どんどんいいところが見えてきてしまう。

信用できない職業をしていても、人間性は非常に信頼できる人。ここで描かれているのは、“結婚詐欺師として生きるしかなかった人”が、自分の運命を背負って生きていたところに、運命の人と出会い、彼女にとって大きな変化が訪れるという物語です。

――そんなすみれは「悪だけど正義感がある」「弱いけど強い」といった相反するものが同居している役です。どのようにバランスを取りながら演じているのでしょうか?

まず、政池さんのストレートに刺さる脚本が素晴らしくて。面白いのは、すみれの台詞は本当に裏腹なんです。(脚本を読んだ印象)そのまま演じるのではなく、逆ぶり・裏腹で演じると、すごく腑に落ちる。違和感を覚えたら、何か別のところに答えがあるはずだと考えながら演じています。

――松本さんは、結婚や恋愛についてどう考えていらっしゃいますか?

私は、いつか結婚したいなとは思っています。でも、それまでに、自立した人になっておきたいと考えるようになった瞬間があったんです。人を好きになると、相手に何かを求めたり、自分が成長する前に人のせいにしたりしてしまいがちだなと思って、恋することを遠ざけていた時期もありました。“好きな人がいなくなってもひとりで生きていける”という覚悟を持てたときに、本当の意味で「ふたりでいること」や「家族といること」がいかに尊いことなのかが分かると思ったんです。

いま、ひとりの時期を経験してきてすごく良かったなと思いますし、「ひとりで生きる」ということがどういうことなのか、自分自身で痛みとともに知る必要がありましたし、それは経験できたなと思います。これから先、素敵な人と出会えたときに、きっと「本当の幸せ」を感じられると信じています。

――脚本を拝見すると、登場人物のやりとりの中に相手を否定しない優しさを感じました。

いろいろな価値観を否定しないドラマになったらいいなと思っています。例えば、「結婚する幸せ」と「結婚しない幸せ」がありますが、この二元論だけではないなと思うんです。そのどちらでもない世界があって、「結婚する・しないだけが幸せではない」と考えるゾーンの人たちも否定しないドラマがいいなって。だから、“誰かを否定することになるかも”と思ったら言い方を変えたり、台詞のニュアンスを話し合ったりするようにしています。

“作品を世に出す”ということの重さと責任を自覚

――ここからは、松本さんとテレビとの関わりを教えていただきたいです。自分を形成した、よく見ていたテレビ番組を教えてください。

『ロングバケーション』です。『ロンバケ』はリアルタイムではなくて、ビデオを借りて見ました。みんながあまりにも『ロンバケ』と言うから、“なんのことだろう”と思って見たらとても面白くて! 木村拓哉さん、山口智子さん、主題歌、ストーリー、すべてにおいて完璧で、私の中でラブストーリーのレジェンドは『ロンバケ』です。

中学生の一番多感な時期は、月9(ドラマ)からの『SMAP×SMAP』の流れに夢中でした。あとは、ドラマだと『ひとつ屋根の下』『1リットルの涙』、音楽バラエティ番組だと『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』や『うたばん』も好きで見ていました。

――松本さんが俳優として活動するにあたって、大切にしている軸を教えてください。

じつは『ミス・ターゲット』から、今までとは役へのアプローチの仕方を変えています。これからも女優として成長し続けることができるように常に模索し続けなければならないと感じています。

もっと役を深掘りできるようになりたいですし、最終的には、その人の核となるところを見出したい……。そこに出会えたら本当に幸せなことだと思いますし、何をやってもその人であれると思うんです。 “いかに嘘をつかずに演技ができるか”、今までもそうありたいと思って演じてきましたが、改めて役に対して誠実でいたいですし、監督よりも、脚本家の方よりも、自分自身がその役を一番分かっていると自信を持つこと、そこまで行きつく責任があると思っています。

自分の人生経験、人間力、物の見方、人の見方の部分を養わないと、役を与えられたときに深く役を理解することはできないですし、理解できなければ演じられないと思うんです。演技のスキルを磨くというよりは、どれだけその役や作品に向き合っているか。深く人物や物事を捉える感性を養うことを日常化すること、学び続けることが、すべてに生きてくるなと思って実践しています。

――役に対する考え方が変わったんですね。

作品を作って発表することは、世の中に良くも悪くも影響も与えてしまうと思いますし、最近、その重さや責任を自覚したんです。なぜ、自分が演技の仕方を変えたいと思ったのかというと、感性だけで演じることは“その責任感が弱まるのではないか”と思ったからなんです。

作品を通して人を感動させる、人の心を動かすといった仕事に携わっているからには、いい影響を与えるものを作らないといけない。だからこそ、自覚と責任を持つことがとても大事だなと思ったんです。

そうすると、役への取り組み方が変わってくるというか。当たり前のことですが、役に対して向き合う姿勢も含めて、自分の持てる全てをかけなくてはいけないと思うんです。

――松本さんのリリースコメントは、毎作品魂が込められていると前から思っていて、今のお話とリンクする部分がありました。

嬉しいです。自分が納得できる言葉を紡ぎたい。そこは譲りたくないんです。だから、SNSのストーリーひとつとっても、とても時間がかかるんです。そんなことをしていたら、もう何を優先していいか分からなくなってしまって!

――(笑)。

それでもなんとかいい表現ができるように、と全てに魂を込めています。そんな風に思うようになったのは、『ホリデイラブ』のときでした。(記事で)「苦節18年」と紹介していただいたのですが、私は苦節だと思っていなかったので、苦労話が美談になって、申し訳ないなと思っていました。

ですが、その記事のアクセス数がすごく多かったようなんです。コメントでも「すごく助けられた」とか「救われた」というのがあって。若い女性にとって、(松本のように)30代半ばから花が開く姿は、これから30代、40代になっていく方の希望になったみたいで。それを知ったときに、演技だけではなく、インタビューひとつとっても、すごく影響力があるんだと気づきました。 皆さんと一緒に作った作品を“いいものだ”と伝えることが、私たちの大義だと思いますし、忘れてはいけないことだとも思うんです。

いまは、『ホリデイラブ』からの環境の変化で学んだことを、ようやく実践するときだと思っています。一つひとつ向き合って演技をしてみたらどうなるのか。まだうまくできないところもありますが、それでもこれを続けていい演技ができれば、それが人の心を動かすもの、人に刺さるものになると信じています。

だから、今からが成長期。これから演技が変わっていくのかな? すぐには変えられないかもしれないですが、『ミス・ターゲット』がそのスタートになるのかなと思います。

取材・文:浜瀬将樹

写真:フジタヒデ

スタイリスト:コギソマナ(io)

ヘアメイク:木部明美(PEACE MONKEY)