■父が亡くなった80歳まであと10年「毎日考えますよ」

若いといえば、小日向もいつもハツラツと若々しい印象。この1月に70歳を迎えたが、俳優は定年のない職業だ。しかし小日向本人は、「正直、ちょっと面倒くさくなっちゃって」とこぼす。

「家にいるのが楽しくて、現場に行きたくなくなっちゃうんです。おじいちゃんって、家にいて、甘いものを食べながらお茶飲んでるようなイメージがありません? なんかね、本当にあんな感じなんですよ。甘い物食べながら、のんびり家にいるのが好きになっちゃって。こういう取材もホントは面倒くさい。だって頭使うでしょう」

  • 小日向文世

身もふたもない言葉が返ってきたが、いまは人生100年時代とも。それを思えば70歳はまだまだ若い。

「僕の父が80歳で亡くなったんです。それを考えるとあと10年しかないでしょ。10年なんてあっという間です。毎日のように考えますよ。あっという間に終わるんだから、“あれを早めに処分しなきゃ”って、部屋の整理をしたりしてね。時間がないなら、うちの女房といる時間を、ただぼーっと見ててももったいない。“一緒にいろんなところに旅行に行ったりしなきゃ!”とかね。そしたら仕事してる場合じゃないですから」

  • 小日向文世

■“年を取ってからの代表作”と言われる作品に出会えたら

部屋の片づけが、自分の仕事の歴史を振り返ることにもつながった。

「忙しいときの月間スケジュールが残っていてね。僕ね、結構、作品を撮ってたんですよ。もうね、見ると吐きそうになりますよ。“よくこんなに仕事してたな”って。本当によくやったと思う。自分でも。だからもういいやって、正直思うところもあるんです」とは、俳優・小日向の作品を楽しみに受け取っている側としては、寂しい言葉だが、カメラの外の生活を充実させることも重要だとジレンマを感じながら聞いていると、最後に次のように本音を明かしてくれた。

「ただね、記念すべき作品というのかな。これからあと、10年ちょっとか、せいぜい20年ちょっとかもしれない一生で、自分のなかで“これはいい作品に巡り合えたな”と思える作品にね、欲張って巡り合いたいなとも思ってるんです。“これこそ、小日向さんが年を取ってからの代表作だね!”と言われる作品に、巡り合えたらと。この『Believe』も含めてね」

■小日向文世
1954年1月23日生まれ、北海道出身。1977年串田和美主宰の「オンシアター自由劇場」に入団し、96年の同劇団解散まで、19年間在籍し活躍。解散後は映像にも活動の場を広げ、『銀のエンゼル』(04)で初主演。98年の『愛を乞うひと』で存在感を見せる。木村拓哉主演の月9ドラマ『HERO』にてメインキャストを務め人気を博す。『アウトレイジ ビヨンド』(12)で第86回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞受賞。近年の主な出演作に映画『サバイバルファミリー』、『マスカレード・ホテル』シリーズ、『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『映画 イチケイのカラス』、『湯道』、ドラマ『緊急取調室』シリーズ、大河ドラマ『真田丸』など。