• まひろが道長に送った手紙

登場人物たちの字はそれぞれ、根本氏と監督たちで話し合って決めていったという。紫式部は本人が書いた字は残っていないが、後世の人が紫式部の字を想像して書いた“伝・紫式部”と言われている古筆があり、仮名に関してはそれも参考に作り上げた。

「それを見た時に、僕のイメージとも監督のイメージとも遠くなかった。とても細かい毛先で書く仮名で、毛先がピンとなっていて流れがいいんですけど、そういう方向に決まりました」

「書は人なり」というように、人柄がにじみ出ると話す根本氏。紫式部の字の細さは、「繊細さ」を表しているという。

加えて、「『源氏物語』をあれだけ書くということは、太い字なわけがないんです。当時、紙はとても貴重なので、たくさん字を書かなきゃいけないということは、絶対に小粒で細い。脳内に浮かぶイメージを早く書かないといけないということを考えても、太くかっこいい字ではなく、小さくて細かい字だと思います」と語った。

演じる吉高らしさも大切にしたそうで、吉高と実際に会った印象を尋ねると、「かわいらしさに尽きると思います」と回答。「紫式部も繊細なところもあるけど、かわいらしさもある。吉高さんと共通する部分があると思います」と言い、紫式部のイメージと吉高のイメージを合わせて、「丸くて曲線が多い、細身の線にしました」と説明した。

また、「仮名文字は手の大きさも大事」とのこと。「小さい手の方は字も小さくなり、大きい字の方は大きな字になるので、吉高さんの手を見て、どのぐらいの文字が書きやすいかというのを決めていきました」と語った。

  • 根本知

漢字は『光る君へ』の題字とリンクするように

紫式部の漢字は、『光る君へ』の題字とリンクさせることも意識したという。

「題字の最終画の『へ』は、ヒュンと最後伸ばしているのですが、僕と紫式部をリンクさせてほしいという監督からのアドバイスがあったんです。書き悩んでいた時に、仮に紫式部が道長に恋文を出す時に、『道長様へ』ではなく『光る君へ』と書いたとしたらどんな題字になるか見てみたいとおっしゃって、そこで僕は世界が開けて、こうだ! というものを書くことができました。まひろが乗り移り、半分僕、半分まひろみたいなものになっていて、このヒュンという細い線があるとタイトルとリンクするので、漢詩を書くシーンではところどころに入れています」

吉高への指導に関しては、単に書道だけを教えるのではなく「彼女に平安時代を好きになってもらうというのが一番最初の僕の仕事でした」と振り返る根本氏。

「彼女は日本文学が好きというわけでも『源氏物語』をすごく詳しいというわけでもないと聞いたので、そこを好きになってもらうためにどうしたらいいか考えました。教鞭をとっていた経験から、教え込むのはダメだとわかっていて、先生が楽しんでいると生徒もついてきてくれるので、吉高さんに対しても、巻物を広げて文字の魅力などを熱く語り、推しのアーティストを友達に紹介するような感じで話していたら大爆笑されたのを覚えています」

きっと根本氏の熱い話を聞いて、吉高も平安時代や書の魅力を感じていったのだろうと思うが、根本氏は「あまりに熱いから、この人が望むものを少しでも叶えてあげようと思ってくれたのかなと思います」と笑っていた。