俳優の渡辺謙が1日、2024年度テレビ東京グループ入社式にサプライズゲストとして登場し、妻夫木聡もビデオメッセージを送った。

  • 渡辺謙、角谷暁子アナウンサー、テレビ東京グループ2024年度入社新入社員

「テレビ東京開局60周年特別企画ドラマスペシャル『生きとし生けるもの』(5月6日20:00〜)主演の渡辺がサプライズでお祝いに。入社式の式典を終えた会場では、この日進行を務めた入社8年目・角谷暁子アナウンサーから「2024年度、開局60周年の入社式にふさわしいスペシャルゲストにお越しいただきました!」とのアナウンスと共に俳優・渡辺謙が登場すると、新入社員から「うぁぁぁー!」「落ち着け落ち着け!」など驚きの声と大きな拍手が沸き起こった。

渡辺は「おめでとうございます……ですよね? ひとつ最初に聞きたいんだけど、第1志望で入って来た人は?(手を挙げた人はいたものの)……1人いましたね(笑)。まぁまぁ冗談です」と一言。角谷アナも「なかなかテレビ東京第1志望という方は少ないと思いますけども(笑)、今回の登壇は渡辺謙さんから新入社員とぜひ話してみたいとの希望があって実現したと伺っています」と明かし、渡辺は「ほぼ社長と同じぐらいの年であんまり上から物を言っても皆さんと一緒に過ごす時間としては勿体ないなと思ったので、できるだけフラットに、楽しい話をみんなとしたいなと思っています」とスタートした。

同ドラマで渡辺と共に主演を務める妻夫木からのメッセージが流れると、こちらにも歓声が。ゲストを交えた集合写真の撮影を行い、豪華俳優陣から温かなエールが送られるなど、終始和やかな雰囲気に包まれた式となった。

■妻夫木聡からのメッセージ

テレビ東京グループ新入社員の皆さん、この度は入社おめでとうございます!僕のテレビ東京のイメージは、本当にこれはいい意味なんですけど、クセの強いテレビ局というイメージがあります(笑)。そのクセの強い会社だからこそ、皆さんの才能が十分に発揮できるんじゃないかなと僕は信じています。ぜひとも皆さん、自由な発想で自由なアイデアで、いろんな番組を作っていってもらえたら、僕たち視聴者もすごく楽しみです。
皆さんのこれからの活躍を心より願っております。そしていつか一緒に仕事ができる日が来たら嬉しいなと思っています。

■新入社員と渡辺謙が質疑応答

実は新入社員は“内定者研修”という名目で、放送に先駆け『生きとし生けるもの』を視聴済み。ドラマを見た新入社員のさまざまな質問に渡辺が答えていくことになった。

渡辺:面白いとかつまらないとか、そういうお話は視聴者の立場だと思うんですね。これから皆さんはそれを発信する側に一歩足を踏み出していくんだと思うんです。なかなか今の段階で深い話は難しいかもしれないですけど、これからそういう会社の中で仕事していくんだっていう思いの中で、このドラマをどう感じたかという感想でも厳しいご意見でも……何かある人。これ入社試験じゃないから。査定に傷がつくかそういうことはないので(笑)。好きに言ってください。

新入社員からの質問:ドラマを拝見させていただいて、渡辺謙さんがすごくコミカルに演じられていて。例えば初恋の相手役である原田知世さんとのラブシーンもすごくコミカルだったと思うんですけど、あのシーンをコミカルにされたのはどうしてなんでしょうか?

渡辺:妻夫木と俺と脚本家の北川(悦吏子)さんと本読みをやったんですよ。僕らもちょっと手探りだったんで、わりと脚本の雰囲気のまま読み合わせをしたんです。そしたら北川さんが「もうちょっとライトにいけないですかね」という話が…。脚本の中でも非常に着地しそうでフワっと逃げていく瞬間が行間にたくさんあったのね。重い題材でもあるしシリアスなシーンがたくさんあるんだけど、わりと北川さんが書かれているライトなセンスと共演者と絡みの中で、あのラブシーンをやったつもりです。

新入社員からの質問:普遍的なテーマなので、演技と演技の間に入る映像でも夕陽とか朝陽とか何億年前から変わってないものの描写が気になっているんですけど、例えば謙さんが過ごしていた20代と今の20代は大きく違うと思うんです。改めてこの作品を振り返って、自分の中で考えが変わったことがあったら、自分の参考にしたいので教えていただきたいです。

渡辺:これは最近だけじゃなくてここ10年、15年ぐらいずっと考え続けてるんです。例えばさっきのラブシーンも、愛情表現を「僕はこういうふうに感じる」「こう思っている」を表現したけど、20代30代ぐらいの人に同じように伝わっているのかどうかすごいドキドキするわけ。ちゃんと受け止めてもらえてるかどうかというのはいつも悩みながらやってるんですよ。それこそ歌の歌詞がどんどん変わっているように…昔の歌詞は壮大な失恋や恋愛を歌ったりしてるんだけど、最近は身近な携帯だったり、LINEだったり、メールだったりっていう中でのコミュニケーション。そういう中での人との距離感とか詞が多かったりするじゃない?ドラマで演じるときには果たしてどういう距離感で作っていったらちゃんと届くんだろう…リアリティを持って今の時代、もっと先でも常に「これってちゃんと伝わるのかな」っていうのはいつも思ってる。だけど普遍的な精神性みたいなものは、僕はあんまり変わらないような気がする。例えばスマホを持ってる、PCでいろんな情報を仕入れられる世代にも、綺麗な景色を見せたら「綺麗だな」と思ってもらえるんじゃないか。こよなく愛したとか燃えるような思いがあるっていうのは、言葉ではなくてそれに近いものを表現したら、温度感は伝わるんじゃないかなという気持ちはあります。上滑りしちゃうと「何こんな叫んだり泣いたりしてるんだろう」ってなっちゃうので、うまくせめぎ合いながら表現をしないと、いろんなジェネレーションに伝わらないっていうのは常に思いますね。

新入社員の返答:私もそういう映像とかコンテンツを届けられるように頑張ります。ありがとうございました。

渡辺:いいね。何か入社式っぽくなってきたね(笑)。 例えば時代劇なんかだと全て取っ払われるじゃない。情報伝達も手紙を書くぐらいしかないわけで。すれ違ったり誤解があったり今よりもっともっとある。その分だけ人焦がれる気持ちや人を憎む気持ちだったりは、時代劇はもっと描きやすい気がするんだよね。でも結局それも、もっと下の世代にも、いい意味で疑問符をつけて、作品や役に対してアプローチしてもらえるようなフックをかけていかないとなと。常にその辺のことを探り合いながらやっているつもりです。実はこのドラマ、最初「これちょっとやばいんじゃない」って思ったんだよ。死生観に対してかなりえぐってるドラマなんで「テレ東大丈夫か?」みたいな気がしてた。役を受けるにあたっても僕があんまり病気ものが好きじゃないので。本当の病気の人やその家族の気持ちなんてドラマで描けるの? って。そしたら北川さんが…あの方もすごく難病を抱えてて、僕はその思いを受け止めなきゃいけないなと思ってこの仕事を受けたんです。だけど他の大きなネットワークを持ってる局だと企画が通らない気がする。でも通したんだな、なぜか(笑)。(ドラマPも)ずっとドラマがやりたくてテレ東に入ったんだけど……。

祖父江里奈プロデューサー:10年間バラエティやりましたね。

渡辺:結構バラエティもやり手だったんだけどずっとドラマがやりたくて、ずっと異動を希望出して、やっと願いが叶ってドラマに来て。ドラマは何本目?

祖父江P:特番で通したのは初めてです。

渡辺:そうかそうか。だからこういう大きい周年の企画を、しかも大胆な企画で通したわけ。これってこの局の生きる方法論みたいな気がするんだよね。だから他はなかなか通らない企画でもうまい方法論を使うとやれるかもしれないないし、今まであまり見たことがないドラマを作ることが、もしかしたらできるんじゃないかという気がしています。

新入社員からの質問:痛みの演技がすごく多かったと思ったんですけど、痛みの演技はすごく難しそうだなと。感情の揺れ動きだとストーリー展開の中で共感できるかなと思うんですけど、痛みはどれくらいか想像しづらい、すごく難しい演技だなというふうに拝見していました。でもこっちまでそのつらさが伝わってくる演技で本当にすごいなと思ったんですが、痛みを演じるときに意識されてたことなどをお聞きしたいです。

渡辺:まず医療指導の方に脚本に沿った病状のスケジュールみたいなものを書いてもらって。痛み止め打って何時間ぐらいだからこの時は鈍痛であるとか、ここは痛み止めは切れてるからかなり来てますとかグラフみたいなものを作って、なおかつそのシークエンスの中でそれでも我慢してるとか。シークエンスと体の中身のバランスを取りながら、それをどれぐらい見せたらいいのか、どれぐらいを見せないようにしてるとか、その辺は自分の中でもシークエンスの中のバイオリズムを作りながら、いろんな形でアプローチをしました。

新入社員からの質問:祖父が終末医療で生きることと死ぬことを家族が選ぶ局面が何度かありました。今回拝見してどうしても一緒に看取った母や母の妹に見てほしいとは思いつつ、あまりにも距離感を保って見られなかった自分がいて。どう薦めたらいいでしょうか?

渡辺:見せたらいいんじゃない?例えば2011年に大きな震災があって、忘れたい人もいるし、覚えとかなきゃっていう人もいるし。答えないんだよね。例えばガン告知をするか否かの議論もひと昔前にはあったけど、僕が20代で白血病をした時、カナダで発症したのでドクターが辞書を引いて「これ」って教えてくれたのよ。「えーー」ってなりながら、明確な目標ができたりとかもしたので。自分じゃないから選択が正しかったかどうかはおそらくずっと思うんだよね。ずっと思うのは、僕は人生だと思ってるから。もしかするとこういう作品を見たときに「こうだったのかもしれない」とか、ドラマが自分の中に一つ一つ腑に落ちる材料みたいなものを見つけるお役にちょっとでも立てるなら、僕はとてもこの作品があってよかったなと思う。おそらく今度入った会社のドラマだから見てねと言って、後ろから様子を伺ってたら、僕はいいと思うんだよね。僕のおばあちゃんが末期がんでモルヒネをしながら朦朧としてたときにお見舞いに行ったことがあったんです。その時にずっと幻覚を見てて、夜になると「隣のビルってマネキンが踊り出すんだ」とかいう話をしてたのよ。僕は84歳のおばあちゃんがこんなイマジネーションを持ってるってことに感動したんです。これは俳優的なアングルで感じてるのかもしれないんだけど、でも人間の可能性ってそういうとこですごく見えるような気が僕はするんだよね。だから「それって一体どういうことなんだろう」とちょっと違う視点で見たりすると、そういう事象もまた別の事柄として受け止められるんじゃないかという気はしてる。とにかく見て頂いたらいいんじゃないかなと思います。

新入社員の返答:ありがとうございます。後ろからそっと見てみます!

新入社員からの質問:出身が石川県の能登で、元日に人生で初めて死ぬなと思って、自分も死ぬ前に後悔をなくしたいと、最近会ってない人とか好きだけど告白できなかった人とかに会ったんです。その行動をしてからこのドラマを見せていただいたので、本当に後悔したら駄目だなと、すごく共感しました。後悔をなくす旅をした話の中で「いろんなものに期待しすぎるから後悔が生まれるんだな」と自分なりに思ったんですが、後悔が残ってもいいから希望を抱きつつ目標とか夢とかを持って生きるのがいいか、ある程度流されて気まぐれとなりゆきで後悔を残さないように生きるのがいいか迷っています。謙さんのお考えをお聞きしたいです。

渡辺:一番悩むのが、仕事の話をいただいたときに、これやるべきかどうなのかということ。けっこうグズグズ悩みます。最初にその話を聞いたとき、ほぼノーなの。「ラストサムライ」でもブロードウェイの『王様と私』も「ないないないない」って思ってた。なんで受けたかというのは、グズグズグズグズ悩んで、「でも今これやらないとちょっともったいないかな」「やらないとな」と。よしやろうと決めたら一直線。悩まない。その作品のためだけに集中してやるっていうのがいつものスタイルなんだけど、例えば僕は100本近い作品をやってるんだけど、ヒットしたのは2割…いや3割ぐらいかな。それ以外の作品でも、僕はやり方を変えてないわけ。ヒットしなかったのはただたまたまタイミングが合わなかったり編集がうまくいっていなかったり。でもほぼ後悔はしていない。自分がやろうと思って一生懸命情熱を捧げたものに関して、まったく後悔がない。もちろん反省はするんだけど、全然それは後悔じゃない。これからやろうとする仕事しか視野に入ってこないからあまりくよくよしないんだな。さっきの二者択一は僕は後者。かなり行き当たりばったり。高い目標もなくいきなり「これやって」みたいなことを受けてやってみたら、えらいやらなきゃいけないことがいっぱいあって大変だった(笑)。っていうのが、大体僕の今までのやり方なので、目標を持つなとは言わないんだけど、今とりあえず目の前にあることを必死でやると、また次におもしろいことが勝手に出てくるから。いまテレビ局って過渡期で、映画も大ヒットは年間1~2本とか。配信事業もすごく多くて、もっと言うとこの作品もすぐ配信する。でも僕たちの立場としてはできるだけたくさんの人に見てほしい。そうじゃないとその先の良さも何も伝わらないので…。テレビ局が今これから何をするというのも、僕はすごくいい機会がいっぱい転がってるような気がする。過渡期ってすごくいい時期だと僕は思ってるから、これたぶん通らないよなとかじゃなくて、どんどん自分たちの思いを会社にぶつけたりして僕はいいと思います。

新入社員からの質問:私も昨年祖父を亡くしまして、ドラマで描かれた部分と重なると感じることがあったんですが、謙さんご自身、娘さん世代やお孫さん世代に今、伝えたいことがあればお聞きしたいです。

渡辺:個人的には結構伝えてる。この間も一番ちっちゃい男の子が、自分のパジャマをハサミで切ったんだよね。娘が「それは自分じゃないって言い張ってるから何か言ってあげて」って。電話で「なんかやったんだって?」って15分ぐらい言ったんだけど、一応言うだけのことを言って「あとはお母さんと話しな」と。そういう日常の中のちょっとした点にもならないような事柄っていうは結構大事なんだなと、このドラマで改めて気づきました。結局そういう時間の積み重ねが俺の人生でもあるし、孫の人生でも接点でもある。僕は病休したときに「なんで世の中って健康か病気か二つに分けちゃうんだろう」ってすごく不満だったのね。病気しててもコントロールできてて元気に生きてる人もいるわけで。それって線引きする必要ないんじゃないかっていう気はするんだよね。娘と話すときも孫と話すときもほぼこんな口調です。そこには僕は常にイーブンで、同じ目線で同じ土俵で喋ったり話を聞いてあげたりはしたいなって思ってます。

角谷アナ:最後に新入社員に向けて改めてエールを頂けないでしょうか。

渡辺:さっきも言ったけど、いろんな意味で過渡期だと思う。いろんな可能性もあるし、いろんな壁もたくさんあると思う。でも僕はやっぱりいろんなことを面白がってやってほしいなと。もちろん仕事だからやらなきゃいけないワークはあるけど、全部面白がってやってもいいんじゃないかなという気はするんだよ。だから本意じゃないなとか、自分はこういうのをやりたいんだけどとか…もちろんそうやってずっと異動願いを出し続ける10年もいいと思うんだけど、そういう中でも培われるものっていっぱいあると思うので、頑張ってほしい。もっと言うとすぐ給料が発生するわけだから、俺はテレビ東京の社員でもなんでもないけど(笑)、戦力として力になってほしいと思う。この会社こそ若い力がすごく大事にされる会社だと俺は思ってるんで。そういうプロデューサーと仕事ができたっていうのは俺の中の今回の仕事の大きな財産になってるんだよね。だからとにかく明日と言わず、今日から自分がもうテレ東の社員だっていうことを胸張って、面白がってやって欲しいなと思います。

  • 『生きとし生けるもの』北川悦吏子/文春文庫

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