英語を学んだり使ったりしている人は、最近、CEFR(セファール)という言葉を聞くことがありませんか? これから仕事で英語を使おうという人には、絶対に知っておいたほうが良いのがCEFRです。
CEFRって何?
CEFRは、Common European Framework of Reference for Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠)の略で、20年以上前に多言語社会のヨーロッパで生まれたのですが、今や世界で英語を含む40以上の言語で使われている言語能力の国際的な枠組みです。言語を知っているだけでなく、言語でどんなコミュニケーションができるかという実践的な運用力を重視していて、いわゆる4技能(読む、書く、聞く、話す)それぞれとその総合力を測ることができます。日本でもCEFRは社員の英語力目標や採用のときの語学力要件に使われるようになっています。
仕事に使えるCEFRレベルとは?
日本では、仕事で少しでも英語に触れるなら、CEFRスピーキング力でB1以上、英語で業務を普通に行うならB2が最低限必要です。ここで、あえてスピーキング力をあげるのは理由があります。ビジネスのコミュニケーションでは話す・聞くが最も大切なのにも関わらず、日本人は一般的に話す力が他の3技能より大きく劣っています。ここをチェックしないと本当に仕事で使える英語力があるか判断できないのです。ちなみに海外のグローバル求人サイトなどを見ると、英語力要件はC1, C2がほとんどですが、日本企業で、英語で仕事ができると言えるようになるには、まずB2を目指しましょう。
CEFRの基準を作っている欧州評議会では近年、各レベルをさらに2分、例えばB1ならB1.1、B1.2などのように細分化したので、ステップアップが見えやすくなりました。
CEFRレベルはどうやったら測れるの?
CEFRレベルを測るのにもっとも適しているのはCEFRの枠組みに沿って能力を測るテスト、すなわちCEFR準拠のテストで、結果もCEFRレベル表示されます。それにあたるのは、Linguaskill BusinessやPROGOS®です。一方、他のテストもCEFRの普及に伴って換算表を出すようになり、間接的にCEFRレベルを把握することはできます。
企業ではどんな風にCEFRをつかっているの?
今、英語力基準にCEFRレベルを使う企業がどんどん増えています。採用のときの語学力の要件、社内研修のコース分けや目標設定、異動や配置の参考にするためのデータベース化など、用途は様々で、社員にCEFR準拠のテストの受験機会を提供しています。
■メルカリや観光庁でも
たとえば、メルカリは、採用条件や社内言語力目標にCEFRを用いていますし、観光庁も観光産業人材育成の支援事業で能力要件にCEFRを採用しています。このほかにも、実に多くの業種でCEFRが英語力基準となっていますので、ご紹介しましょう。
■大手精密機器メーカー
全社研修体系をCEFRスピーキングレベルに沿って設計
この企業は、中期経営計画で海外売り上げ比率を高める目標を掲げ、人事制度改革、外国人幹部・社員の積極的採用を進めています。それに合わせ、何千人という日本人社員の英語力育成が不可欠となり、3カ年計画で研修体系を構築しました。CEFRスピーキング力、A1, A2, B1以上という区切りでレベル別研修内容を組み、社員の英語力の向上を図っています。
■総合商社
海外赴任要件として4技能でCEFR B2を推奨
英語ができて当たり前のイメージがあるのが総合商社ですが、この企業では、仕事で使うには総合的な英語力が必要だということで、英語4技能でB2以上を海外赴任の要件にして、入社3年をめどにB2取得を推奨しています。現地で同僚や部下とのコミュニケーション、パートナー企業や顧客企業との商談や折衝など、高い英語実務能力が求められるためです。
■IT企業
多国籍のITエンジニアを採用し、英語公用語化とCEFR導入を推進
SaaSサービスを提供する同社では、海外の優秀なITエンジニアの採用を進め、国籍を問わずに働きやすい職場づくりのために、英語を社内公用語にしました。実は、アジアのエンジニアの英語力はおおむねC1レベルで、国内エンジニアとのギャップが大きいため、底上げが必須となり、そのためのインセンティブを設けています。
■大手IT流通会社
新卒採用の応募時にCEFRに準拠したスピーキングテスト受験を導入
外資IT大手流通会社の日本支社では、毎年多数の新卒を採用していますが、「グローバルにキャリアを広げるための英語力の必要性」という意識を持ってもらうために、応募時にスピーキング力テストを受験することを要件にしています。
■大手製薬会社
グローバル展開のために国内全社員にCEFRスピーキングテストを実施
2030年までにグローバル展開を強化することを掲げた同社では、国内の社員の英語力、とくにスピーキング力を可視化して、タレントマネジメントシステムにデータベース化しています。海外での売り上げを増やすための人材を増やすことが急務となっているという背景があります。
■コンサルティングファーム
英語スピーキング力目標B1High
海外拠点を多くもち、積極的にグローバル事業を展開している企業ですが、コンサルタントが海外拠点の日本のクライアントと一緒に、現地企業を訪問することが増えています。その場合、コンサルタントとして専門的で込み入った話をする力が必要です。そのため指標を、読み書きのレベルを測るTOEIC®L&Rのスコアから、CEFRによるスピーキングレベルに変え、B1Highを最低でもクリアするように設定しました。そのため年1回、社内でスピーキングテストの一斉受験をしています。
■大手エンターテイメント会社
マルチカルチャー人財の要件としてCEFR B2を設定
海外企業の買収や、海外拠点の増加を通して売上高の成長をめざす同社では、こうした事業を牽引する人財を、マルチカルチャー人財と定義してその育成を数値目標として掲げています。定義のなかに英語スピーキング力B2を定め、トップ自らも社員に英語で発信するなどあらゆる側面で、グローバルに目を向けた組織風土を作ろうとしています。
なぜ、今CEFRが注目されているの?
なぜ急にCEFRが企業に注目されるようになったのでしょうか?
マクロ的な理由として、日本の人口減少があります。人口が減っていくと国内需要が頭打ちで成長の場を海外に求めるしかありませんし、コロナが収束した後、一気にグローバル展開を加速させる企業が増えています。さらに人口減少による労働力不足で、外国人の採用が増え、しかもネイティブでなくても英語力の高い人が多いため、英語が通じる環境を国内でも整備しなければいけなくなったということがあります。さらに、円安に伴いインバウンド需要が増え、英語でサービスを提供する場面が増えてきたという事情もあります。とくに富裕層むけのサービスには英語対応力が不可欠です。これらすべてに共通するのは、口頭でのやりとり、つまり、聞く力と話す力が求められることです。
リスニングはこれまでTOEIC®L&Rなどで測れても、スピーキング力を測るテストは高価で手間がかかり、なかなか難しかったのですが、IT活用により手軽で安価にスピーキング力を測る手段が手に入るようになったことが追い風になっています。
企業にとっては、国内外の社員の語学力は、テストごとに異なるスコアやレベルをいちいち調べるより、国際通用性が高いCEFRでみたほうがわかりやすいです。採用担当者も、外国人採用などで海外の求人情報に触れCEFRを目にする機会も増え、認知度が上がっています。
こんな事情があるので、仕事で英語を使いたいと思う人は、自分の力をCEFR基準で、特にスピーキング力をマークしておいたほうがよさそうです。