ミュージカル『WITHOUT YOU』来日公演が3日に東京・IMM THEATERにて初日を迎え、主演のアンソニー・ラップが取材に応じた。
同作はブロードウェイミュージカル「RENT」(1996年初演)の主演マーク役オリジナルキャストを務めたアンソニー・ラップの同名自伝を舞台化したワンマンミュージカル。『RENT』の作者ジョナサン・ラーソンとの出会いから、『RENT』が大成功を収めるまでの道のり、また大切な家族との別れと愛を描いた感動の物語を「Seasons of Love」をはじめとする『RENT』の名曲の数々と、オリジナルの楽曲にのせてノンストップで届けていく。
これまでアメリカ各地、ロンドン、カナダ、韓国で公演を重ね、2023年1月25日に物語誕生の地であるオフ・ブロードウェイで開幕。4月30日までの期間限定公演でスタートした後、6月11日までの延長が発表された話題作が、日本に初上陸した。
■ミュージカル『WITHOUT YOU』のために来日したアンソニー・ラップ
アンソニーはパートナー、3カ月、15カ月の子供2人と一緒に、一昨日来日したばかりだというが「子供たちの方が時差ボケになっていると思います。幸いパートナーが夜中に子供たちの面倒をみてくれたので、僕はしっかりと眠りました」と明かす。劇場のある東京ドームシティは子供たちの楽しめるスポットも多く「3カ月のキオニーはまだミルクしか飲まないんですが、15カ月のライは近所のレストランに行きまして、いろいろ和食も食べていました」と満喫している様子。「“ライ”には日本語でも実は“雷”という意味もあると聞いています」と日本語にも通じているようだった。
2006年に初演を迎えた同作だが、途中アンソニーがイディナ・メンゼルの『If/Then』に関わったり、ディスカバリーチャンネル『スタートレック』の撮影もあったりと空白期間が生まれたという。新たに2023年から上演された今回のバージョンでは「上演脚本を見直し、原作をより忠実に再現するために細かい要素を加えました。映像をより鮮明にしたり、演出面でも進化しています。またジョナサン・ラーソンが亡くなってから、自分の人生はもう半分以上経過し、振り返ると考え方も物事の見方も変わってきました。今回、感情の部分でもまた新たに表現できるのではないかと思います。新曲も1曲入っています」と変更点もあることを説明する。
初演の際には「親友であり『RENT』のオリジナル演出家マイケル・グライフ、劇中に登場するサイ・オニール、オリジナルキャストのミミ役ダフニ・ルービン=ヴェガ、ジョアンナ役のフレディ・ウォーカー、エンジェル役のウィルソン・ジャーメイン・ヘレディア、ロジャー役のアダム・パスカル、モーリーン役のイディナ・メンゼルなど来てくれました」とさまざまな友人たちが同作を観劇。「僕は母を亡くしたことをうちに秘めて、ほとんど人に言わなかったんです。イディナはこの作品を通して僕の性格や状況を知り、とても感動したと言ってくれました。舞台の仲間として、距離感、絆がより深まりましたね」と語った。
昨今の日本ではチケットの高騰が問題ともなっている。ブロードウェイでの状況を聞くとアンソニーは「まったく同じです」と苦笑。「ブロードウェイでも常にチケットは高騰化していますし、いろんな作品のプロデューサーの方々が、より皆様が買えるチケットや方法、イベントを試行錯誤しています。チケットが購入できるディスカウントの会社もあります」と事情を語る。
『RENT』でも劇場の最前列を“エンジェルシート”として安値で提供しており「最初は先着だったので、だんだん前日や前々日から劇場の外で寝て並んでいるという状況が生じてしまい、そこから抽選に変えました」と当時の話も。そういった試みは「『RENT』が最初でした」と明かし、「実際にジョナサンがプロデューサー陣と話したかどうかは定かではないんですが、プロデューサーたちも、ジョナサンだったらショーに出ているような(キャラクターの)人たちが買えるチケットがあるのか気にかけるのではないかと考えたと思う。高いチケットが買えない方々も観に来れるようにしました」と振り返った。
改めて「『RENT』という作品はどんな存在か」と問われると、「自分の人生を良い方向へと変えてくれた作品です。物語の中にもあるように、『RENT』の仲間たちには困った時や大変な時に人が集まりお互いに支え合い、面倒を見るコミュニティがあります。コミュニティの中の一人が亡くなってもその人を尊重し愛する、そんな強い絆があります」とアンソニー。
今回の『WITHOUT YOU』というタイトルは『RENT』のナンバーの一つからとられているが、その意味を聞かれ「母の葬式の時にはまだ本を書いている最中でタイトルも決めていませんでした。その時にコリンズ役のジェシー・L・マーティンが『WITHOUT YOU』にしたら?と提案してくれたんです。“YOU”って奇妙かな? とも思いましたが、気持ちは伝わると思いました。僕にとってYOUとは母とジョナサン・ラーソンのこと。誰かが亡くなっても人生は止まらない。時は進み続け、残念ながらそのうち僕も死ぬ。生きて時間が進むことも、死があることもどちらも真実です。太陽はのぼり、いろいろとひどいこともあるけど、人生は続く。誰か身近な人を亡くした人にもこの作品が伝わるようにと、僕はパフォーマンスしています」と説明した。
東京公演はIMM THEATER にて3月3日〜10日、大阪公演は梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて3月16日〜17日。