東京の玄関口、東京駅。以前はオフィス街でしたが、近年は数多くの商業施設が誕生して観光スポットとして定着。連日、国内の観光客からインバウンドの訪日外国人で終日賑わっています。

そんな東京駅に直結した美術館があるのを知っていますか。1988年から東京駅丸の内駅舎内で活動する「東京ステーションギャラリー」がそれです。

  • 東京駅に直結した美術館

2月23日~4月14日、展覧会「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」が開催され、その事前内覧会をのぞいてきました。

安井仲治の20年ぶりの回顧展

愛知県美術館と兵庫県立美術館からの巡回展となる本展示は、1903年に大阪で生まれ育ち、京阪神を拠点に活動した写真家、安井仲治(やすい・なかじ)の200点以上の作品を通してその業績を回顧する内容。回顧展としては20年ぶりだそうです。

38歳で病没し、大正期から太平洋戦争勃発までの約20年という短い写真家としての経歴にもかかわらず。同時代だけでなく、土門拳や森山大道など名だたる今の写真家たちからも評価されている安井。

その20年ぶりの展示ということもあるのか、2フロアを使った展示会場は内覧会にしては異例とも言えそうな数多くの関係者でごった返していました。

安井仲治の感性に同期する

戦災を免れたヴィンテージプリント約140点、ネガやコンタクトプリントの調査に基づいて制作されたモダンプリント約60点のほか、さまざまな資料が安井の活動した年代順に展示され、全体では5つの章で構成されています。

活躍した時系列での作品で順路は示されていますが、担当学芸員の若山満大さんは鑑賞について次のように話します。

「作品の見方というのは人それぞれで、有名な代表作を見るというのも良いです。でも、個々の作品をじっくり眺めると、自分の感覚が安井さんの作品に合わせてだんだんチューニングされ、作品に流れる1つのトーンというものが体感されます。安井さんが世の中に純粋に驚いたり、感激したりしたか。あるいは、そこにある本当に小さなもの、さほど見栄えのしないものについても慈しみを持って見ていたか。作品の鑑賞を重ねるごとに、安井さんのそうした感性に自分の感覚が同期する、そんな体感を得ると思います」

この展示会場ならではの体験ができるので、ぜひ試してほしいと若山さんはお勧めしていました。

勉強不足もあり写真家・安井仲治の存在は初めて知った筆者。

その感覚に同期できるほどは鑑賞できませんでしたが、それでも安井仲治が写真に対して真摯に向き合い、さまざまな表現方法を試行錯誤して探したことは分かりました。

美術館自体も歴史的建造物

最後に展示内容以外のことも。

この美術館がある東京駅丸の内駅舎が「日本近代建築の父」と呼ばれる辰野金吾の設計で創建されたのは1914(大正3)年。その東京駅の「歴史を体現する煉瓦壁」が展示室にも使われています。

  • 駅舎の構造を露わにしたレンガ壁の展示室

駅舎の構造を露わにしたレンガ壁の展示室はあまり聞かないでしょう。

こんな趣のある場所ですから、作品はもちろん、それ以外にも楽しめる場所ではないでしょうか。今回の展示もですが、東京駅の意外な一面を知れたのもよかったです。

●Information
生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真
会期:2月23日~4月14日
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1