クーラ・シェイカー来日公演を総括 間違いなく新たな黄金期を迎えている4人の圧倒的快演

クーラ・シェイカー(Kula Shaker)が最新アルバム『Natural Magick』を携えて大阪・東京で来日ツアーを実施。荒野政寿(シンコーミュージック)による、2月15日(木)に六本木EXシアターで開催された東京公演の本誌独自ライブレポートをお届けする。

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クリスピアン・ミルズはニュー・アルバム『Natural Magick』についてのインタビューで、オリジナル・メンバーであるキーボード奏者、ジェイ・ダーリントンが復帰したことによってバンドがルーツに立ち戻り、「過去・現在・未来がひとつになった奇妙なコンビネーションの作品」が生まれた、と語ってくれた。今回の来日公演もクーラ・シェイカーというバンドの来し方行く末を見渡し、現役バンドとしての矜持を示す、堂々たる内容になっていたと思う。

しかも今回のジャパン・ツアーは『Natural Magick』ツアーの出発点。クリスピアンはMCでもそれを強調していたが、どんな時期でも変わらず支持し続けてきた日本のファンとの再会を喜びつつ、ジェイが戻ってきてから持続している興奮状態も楽しんでいる様子がダイレクトに伝わってきた。歌っている途中でケラケラ笑ったり、吹き出したりする場面がやけに多かったのも、あれはプロ意識の欠如というより、心のリミッターを解除して心底エンジョイしているがゆえ。50代に突入してもなお天真爛漫、茶目っ気のあるフロントマンがバンドを引っ張っている。

Photo by MITCH IKEDA

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イントロに続いて、切っ先鋭いリフの「Gaslighting」からショウが開幕。リズム隊+オルガン+ギター1本というシンプルな編成なので、入り組んだリフを弾きこなしながらリード・ボーカルも務めるクリスピアンの猛烈な勢いに序盤から息を飲む。ヒートアップしたクリスピアンは早速ジェイのオルガンの前にひざまずいて熱演、客席から悲鳴にも似た歓声を浴びていた。

「トーキョー、戻ってきたよ!」と挨拶してから、「この曲は君たちのために」と告げて2曲目の「Waves」へ。ドアーズの「Peace Frog」からイントロを拝借した、アルバム・バージョンよりグルーヴの輪郭を強調したアレンジで、ジェイのオルガンもぐいぐい煽ってくる。さらに「Natural Magick」「Indian Record Player」と新作からの曲をたたみかけて行くが、クリスピアンの声はかすれ気味。日本ツアー最終日なのでセーブしないことに決めたのだろう、のどの調子が心配になるほど強気で歌い切ろうとする姿勢に気迫を感じた。

『K2.0』に収められていた名曲、「Infinite Sun」をジェイのオルガン入りで聴けるのも新鮮だった。クリスピアンは途中にデヴィッド・ボウイ「Changes」の”Ch-ch-ch-ch changes”をさりげなく織り込んでトリビュートしてみせる。ライブでは99年のツアー以来25年間プレイしていなかったという『Peasants, Pigs & Astronauts』収録曲、「S.O.S.」を演ってくれるという嬉しいサプライズも。アルバム・バージョンとは比較にならないグルーヴの大波をジェイが中心となって巻き起こしていく。

過去のレパートリーにも新たな命を吹き込む

そしてここからは「Start All Over」「Greatful When You're Dead」「Jerry Was There」と、デビュー作『K』収録曲を続けざまに。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが亡くなったのは「Jerry Was There」が発表される前年、95年だったことを思い出す。あのように彼らが60sサイケデリック・カルチャーの継承者であることを真正面から宣言した点も、90年代後半の音楽シーンにおいてはかなり異色だった。曲が終わると、クリスピアンは「ジェリーはここにいたかい? 僕はそう感じたよ」と客席へ穏やかに語りかける。

出たばかりのニュー・アルバムをプロモーションするツアーなのに、未発表の新曲「Rational Man」を披露したことにも驚かされた。扇情的なリフを持つロックンロールなのに、歌詞では「僕は理性的な男」と歌うねじれ具合が絶品。久しぶりに「S.O.S.」を演奏したこともそうだが、ガレージ・パンク方面に気持ちが戻っている時期なのかも、と思わされる強力な1曲だった。

続いて、再び『Peasants, Pigs & Astronauts』から「Sound Of Drums」と「Shower Your Love」を。以前クリスピアンにこのアルバムについて訊いたとき、プロデューサーのボブ・エズリンと今ひとつ相性が合わず、完成まで苦労したとこぼしていた。当時背負っていた”2枚目のジンクス”から解放され、伸び伸びと演奏されるこれらの曲は、それぞれ年輪を重ねてきた4人の持ち味が存分に発揮されており、長年のファンとしては何とも感慨深かった。

思索的な歌詞が熱い佳曲「2Styx」を経て、新作から「Idon'twannapaymytaxes」「F-Bombs」と、時事的にも今の気分にフィットする曲が続く。後者では”ファック・ウォー”のコール&レスポンスを繰り広げ、気骨を見せた。インタビューで「僕たちは政治的なバンドじゃないし、そうなれるほど偉ぶってはいない」と控えめに言っていたクリスピアンだが、このように”今言うべきこと”をビシッと正面切って言える人なのだ。

Photo by MITCH IKEDA

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オルガンの反復するイントロがザ・フーを彷彿させる「Song Of Love / Narayana」辺りまで来るとクリスピアンの声はかなり枯れていたが、気合いで振り絞って一歩も後退しないからさすが。新作からのバラード「Stay With Me Tonight」を切々と歌ってから、ジェイのオルガンが一際耳に残るミドルチューン「Happy Birthday」へとなだれ込んでいく。

終盤は初期の人気曲を立て続けに。クリスピアンの痛快なワウ・ギターが先導する「303」の後には当初「Tattva」が予定されていたが、これを飛ばして「Hush」に突入。4人が一丸となり、豪快なグルーヴ・マシーンと化して本編を終えた。

熱烈な拍手に応えて、アンコールは『K』から3曲演奏。「Tattva」「Hey Dude」で踊らせてから、クリスピアンは「Namami Nanda-Nandana」の瞑想するようなメロディを弾き始めた。このアドリブパートで一旦マックスまで持って行ってから、「Govinda」につなぐ劇的な展開はこの日のハイライト。オリジナル・メンバーで自信作を作り上げた勢いを保ったまま、過去のレパートリーにも新たな命を吹き込んでいる現在のクーラ・シェイカーは、間違いなく新たな黄金期を迎えている……そう確信させてくれる、圧倒的なエンディングだった。

【参考記事】クーラ・シェイカーが語る爆発的なバンド・マジックと過去・現在・未来、日本への特別な想い

〈セットリスト〉

1. Gaslighting

2. Waves

3. Natural Magick

4. Indian Record Player

5. Infinite Sun

6. S.O.S.

7. Start All Over

8. Grateful When You're Dead

9. Jerry Was There

10. Rational Man

11. Sound of Drums

12. Shower Your Love

13. 2STYX

14. Idon'twannapaymytaxes

15. F-Bombs

16. Song of Love / Narayana

17. Stay With Me Tonight

18. Happy Birthday

19. 303

20. Hush

〈アンコール〉

21. Tattva

22. Hey Dude

23. Govinda

東京公演セトリ・プレイリスト:

https://smji.lnk.to/KulaShakerTOKYO2024SetlistRS

クーラ・シェイカー

『Natural Magick | ナチュラル・マジック』

2024年2月2日(金)発売

①日本独自企画完全生産限定盤

●特製レンチキュラー・マウスパッド付属:4,400円(税抜価格¥4,000)

②通常盤:2,750円(税抜価格¥2,500)

[両形態共通特典]

・日本盤のみのボーナス・トラック「朝に会おう(ボブ・ディラン・カバー曲)」収録

・クリスピアン(vo,g)による各曲解説付

・高品質Blue-spec CD2仕様

再生・購入:https://smji.lnk.to/KulaShakerNaturalMagickRS