将来の妊娠に備え、卵巣から採取した卵子を凍結保存する「卵子凍結」。サイバーエージェントでは、卵子凍結を行うための費用補助を、会社の福利厚生制度として取り入れているといいます。
特に女性からの関心度が高い卵子凍結ですが、この制度はどのようにして導入されたのでしょうか。制度導入を働きかけた社内の女性活躍推進組織「CAramel(カラメル)」の活動内容とともに、お話をうかがいました。
<インタビュイーのプロフィール>
・田村有樹子さん
2005年入社、人事本部に所属。育休復帰後は、自身の育児、出産経験を生かし育児制度も担当。2014年女性活躍促進制度「macalon(マカロン)パッケージ」導入、2022年「卵子凍結補助」のリリースに携わる。
・永友絢子さん
2016年入社。マッチングアプリ「タップル(tapple)」のプロダクトマネージャー。2017年の発足時より女性活躍推進組織「CAramel」の運営に携わり、「プレコンセプションケア」の普及を担当する。
■女性活躍推進組織の働きかけで実現
――サイバーエージェントにおける「卵子凍結補助」は、どのような制度なのでしょうか。
田村さん: 弊社で導入している卵子凍結補助の制度は、卵子凍結を希望する女性社員に対して助成を行うというものです。検査から排卵採取、卵子凍結、最初の凍結費用(管理費用)まで含めた初期費用のうち、上限40万円までを会社が支援しています。卵子凍結すると、その後毎月管理費がかかりますが、そこは自身で支払っていいただく制度設計です。
卵子凍結を行うクリニックについては、本人に選んでもらうことを大事にしていますので、特に決まりはありません。また、必要な方には少しでも早く活用してほしいという思いから、例えば「入社から半年たっていないと使えない」といった条件も、特に設けていないです。
――この制度の導入にあたり、社内の女性活躍推進組織「CAramel(カラメル)」の働きかけがあったといいますが、まずはCAramelとはどのような組織なのか教えてください。
永友さん: CAramelが発足した2017年当時は、働く女性の中でも特に20代の割合が多かったです。その人たちが長くサイバーエージェントで働き続けられるようサポートしたいということで、「十人十色の働き方を応援する」というコンセプトのもとCAramelが作られました。
CAramelはもともと、新規事業などを提案する「あした会議」で当時のCAramelの代表が提案し、藤田社長から「じゃあやっていこう」と、始まった組織です。運営メンバーは私含めて有志が多いのですが、有志の集まりとしては珍しく、4〜6年続けている人も多いんですよ。
――ちなみに、どんなメンバーで構成されているのでしょうか?
永友さん: CAramelのメンバーについては、当初から、「自分の事業をしっかり頑張っている人で構成したい」というこだわりがありました。頑張っていて周りから応援される人をCAramelに集め、その人を通じて入ってくる課題をCAramelで解決しよう、という考えです。応援される人なら、その声が現場に届きやすいですしね。
また、CAramelを長く続けるためにも、「まずは自分の事業を頑張り、できる範囲でCAramelの活動をしよう」というスタンスでいます。繫忙期の人はCAramelの稼働を減らすなど、お互いにコミュニケーションを取りながら調整して活動しています。
――では、卵子凍結補助の導入には、どのような背景があったのでしょうか。
永友さん: CAramelでは、主に、女性社員が長く働き続けられるように推進するイベントをやっていましたが、3~4年運営していく中で、結婚、出産と30代前後でのキャリアの築き方に不安を感じて悩む社員を多く目にしました。
例えば、結婚して子どもを産んでもこの会社で働き続けられるだろうか、将来結婚した時に子どもがすぐできるだろうか、などさまざまな悩みがあることを知り、「これまでやってきたイベント以外でCAramelから何かできないか」ということで、卵子凍結を提案しました。
藤田社長と卵子凍結について話してみると、導入にはポジティブな印象でした。「卵子凍結補助を導入することで、女性の不安が少しでも減るなら、導入した方がいいのでは」と、純粋に女性社員の活躍を応援してくれていましたね。社長も「女性に長く生き生きと働いてほしい」という思いがとても強いんだろうな、と感じました。
■制度を"押し付けないこと"を意識
――本制度を導入するにあたって苦労した点や課題はありましたか?
永友さん: 卵子凍結補助を導入するにあたり、「この制度を使わないといけない」「将来、子どもを作らないといけない」というメッセージを伝えたいわけでは全くなかったので、そうならないような言葉使いはすごく考えましたね。
また、社長にも、「卵子凍結を利用したから退職しにくい、と感じてしまう制度にはしたくない」という思いがありました。なので、最初の初期費用だけ負担して、その後かかる管理費は自身で支払ってもらう制度設計にするなど、不愉快に感じる方が出ないよう会社のメッセージとしてとても気を使いました。
――例えば、どのような言葉使いを意識されていましたか。
田村さん: 「卵子凍結は、あくまで選択肢の1つ」ということですね。サイバーエージェントでは、他にも妊活休暇の制度なども整っていますが、それらも含めて「妊娠・出産は推奨ではありません」「自分たちで選んでほしい」という点はしっかり伝えるようにしています。
永友さん: あとは、卵子凍結補助がきちんと使われる制度にするために、「プレコンセプションケア(将来に備えて自分の健康に向き合うこと)イベント」というものを毎年開催していますが、そのイベント名を考える際も「卵子凍結について知ろう」など直接的な表現にしない点にも気を付けました。
卵子凍結を推したいわけではないですし、その一歩手前の段階で「女性の体について理解した上で、自分に合った選択肢を選んでほしい」というメッセージを伝えるようにしました。
――最後に、CAramelとしての今後の展望をお聞かせください。
永友さん: サイバーエージェントには、「挑戦と安心はセット」という言葉があります。サイバーエージェントで挑戦したいと思う女性が安心して挑戦できるよう、CAramelでは、「十人十色の働き方を応援する」を大切にしていきたいです。
こういう女性の組織だと、女性の権利を主張しているように見えることがありますが、CAramelはそうは見えないようにしたい、と設立当初から皆で心掛けています。原点に立ち返り、これからも女性が挑戦するためのサポートを続けたいですね。
■ライフプランの選択肢を広げる制度
卵子凍結補助は社内でも評判がよく、社歴の長い社員からは「こういう制度を後輩に残せて誇らしい」という声もあるのだとか。もちろん、卵子凍結をしても、実際に妊娠を望んだ時の年齢が高齢であれば、妊娠は難しくなる傾向にあります。
そうした点は考えに含める必要があるものの、サイバーエージェントの卵子凍結補助は、社員のライフプラン・キャリア形成の選択肢を広げてくれる、重要な役割を担っているようでした。