2024年グラミー賞総括:歴史を塗り替えたテイラー・スウィフトと女性たちの大勝利

日本時間2月5日に米ロサンゼルスのクリプト・ドット・コム・アリーナで開催された第66回グラミー賞授賞式。史上初となる4度目の年間最優秀アルバム賞を獲得したテイラー・スウィフト、存在感を発揮したマイリー・サイラスとSZA、最多4冠に輝いたフィービー・ブリジャーズ、ジョニ・ミッチェルやトレイシー・チャップマンといった大御所によるパフォーマンスなど、女性アーティストの活躍が目立った当日の模様をプレイバック。

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テイラーは『Midnights』によって頂点に立ち、年間最優秀アルバム賞を4度受賞した初のアーティストとなった。彼女は2010年に『Fearless』、2016年に『1989』で、2021年に『Folklore』で同賞を受賞している(ミキシング&マスタリング・エンジニアのトム・コイン、セルバン・ゲネア、ジョン・ヘインズも4度受賞しているが、アーティストとしてはテイラーが初)。

感極まったテイラーは「人生で最高の瞬間と言いたいところですけど、曲を完成させたとき、大好きなブリッジのコードを解読したとき、ミュージックビデオを撮影しているとき、ダンサーやバンドとリハーサルをしているとき、東京でショーをする準備をしているときにも、こんなふうにハッピーな気分になるんです」と受賞スピーチで語った。

このような歴史的な快挙を成し遂げた自分を凌駕することができるのは、間違いなくテイラー本人しかいない。『Midnights』が最優秀ポップ・ボーカル・アルバムを受賞したあと、彼女は4月19日に新作アルバム『Tortured Poets Department』をリリースすることを発表した。

テイラー・スウィフト(Photo by Getty Images)

一方、マイリー・サイラスは「Flowers」で年間最優秀レコード賞と最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を獲得。自身初となるグラミー受賞で、彼女自身の歴史に名を刻んだ。最多9部門にノミネートされていた SZAは 『SOS』で最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞、「Snooze」で最優秀R&Bソング賞、フィービー・ブリジャーズとのコラボ曲「Ghost in the Machine」で最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞という3冠を達成した。

マイリー・サイラス(Photo by Getty Images)

SZA(Photo by Getty Images)

(少なくとも統計的には)誰よりも大きな夜を静かに過ごしたのはフィービー・ブリジャーズだった。このシンガー・ソングライターはSZAとの共演で1部門、ボーイジーニアスでの3部門、計4つのグラミー賞を受賞した。

レコード・アカデミーはビリー・アイリッシュとフィネアスに再び惚れ込み、『バービー』のサウンドトラックでヒットした「What Was I Made For?」で最優秀楽曲賞を授与した。 また、ヴィクトリア・モネが『Jaguar II』で最優秀R&Bアルバム賞を受賞したのに続き、切望されていた最優秀新人賞を獲得した。

ビリー・アイリッシュ、フィネアス(Photo by Getty Images)

ヴィクトリア・モネ(Photo by Getty Images)

女性たちの躍進、予期せぬトラブル

主要3部門にノミネートされた8組のうち7組が女性であった時点から自明の通り、2024年のグラミー賞は女性たちのためにあった。テイラー、SZA、フィービー、ヴィクトリア・モネらの活躍に加え、カロルG(『Mañana Será Bonito』で最優秀ムジカ・アーバナ・アルバム)、レイニー・ウィルソン(『Bell Bottom Country』で最優秀カントリー・アルバム賞)、ココ・ジョーンズ(『ICU』で最優秀R&Bパフォーマンス賞)が初受賞している。

ロック部門とオルタナティブ部門では、ボーイジーニアスとパラモアが大躍進。前者は「Not Strong Enough」で最優秀ロック・パフォーマンス賞と最優秀楽曲賞、「The Record」で最優秀オルタナティブ・アルバム賞を受賞。後者は「This is Why」で最優秀ロック・アルバム賞、同アルバムのタイトル曲で最優秀オルタナティブ・ミュージック・パフォーマンス賞を受賞した。カイリー・ミノーグは「Padam Padam」で最優秀ポップ・ダンス・レコーディング賞を獲得。20年ぶりのグラミー受賞を果たした。

しかし、その喜びの全てに覆いかぶさるように(予期せぬロサンゼルスの暴風雨という文字通りの形でも)開演前の雲行きが怪しくなった。クリプト・ドット・コム・アリーナの外では、パレスチナへの支援を呼びかけるデモ隊が集まり、会場内ではキラー・マイクがグラミー賞3部門(最優秀ラップ・アルバム賞、最優秀ラップ・ソング賞、最優秀ラップ・パフォーマンス賞)を受賞した数時間後に拘束された。

グラミー賞中継が始まる数分前、キラー・マイクが手錠をかけられて連行される映像がネット上に飛び交った。彼はアリーナ内で第三者と「肉体的な口論」をしたとされ、手錠をかけられて拘束された。ロサンゼルス市警によると、彼はそのあと軽犯罪法違反で逮捕された。

授賞式ではコメディアンのトレバー・ノアが4年連続で司会を務めた。コメディアンであり、元『ザ・デイリー・ショー』の司会者でもある彼は、真のファンのような切実な語り口と、軽く歌いながらもめったに焦らさないジョークに満ちたモノローグで、彼が音楽界でもっとも頼れる「夜の案内人」となった理由を示した。彼は、メリル・ストリープが自分の席に遅れて慌てふためいたとき、自分のモノローグが偶然にもクラッシュしてしまったことに心から大喜びしているように見えたし、オリヴィア・ロドリゴに対しては、彼女が全国放送で「Vampire」を披露するとき「blood sucker」にどんな言葉で韻を踏むつもりなのかと訝しんだ(訳註:原曲では放送禁止用語の「famef*cker」と続くことをネタにしたジョーク)。

アンドレア・ボチェッリが歌う「My Neck, My Back」のAI生成バージョンについての一幕や(「美しかったが、間違っていた」)、ユニバーサル・ミュージックとTikTokとの間に芽生えつつある確執に対する巧妙な皮肉(「これらのアーティスト全員から金をむしり取るなんて恥を知れ! それはSpotifyの仕事だ」)。ノアはテイラーを笑わせるNFLジョークまで披露し、テイラーが言及されるたびにカメラが観客のフットボール選手に切り替わるようにすると約束した(幸いなことに、会場にはラインバッカーから俳優に転身したテリー・クルーズがいた)。

グラミー賞ならではの豪華パフォーマンス

恒例となったように、2024年のグラミー賞授賞式もパフォーマンスがメインで、備忘録のように数少ないアワードが添えられた。新曲「Training Season」を初披露したデュア・リパはダンスフロアを熱狂させた(そして足場をよじ登った)。 SZAによる「Snooze」と「Kill Bill」のダブルショット、21サヴェージとブランディを迎えて「On Form」「City Boys」「Sittin' On Top of the World」のメドレーを熱唱したバーナ・ボーイもハイライトとなったし、マイリーが「Flowers」を熱唱したときはオプラ・ウィンフリー(トーク番組の司会者)も一緒に口ずさんでいた。

デュア・リパ(Photo by Getty Images)

トレイシー・チャップマンはルーク・コムズと「Fast Car」で共演し、9年ぶりに生放送への華麗なる復帰を果たした。ジョニ・ミッチェルは、ブランディ・カーライル、アリソン・ラッセル、SistaStrings、ルシアス、ジェイコブ・コリアー、ブレイク・ミルズと共に名曲「Both Sides Now」を披露し、念願のグラミー賞パフォーマンス・デビューを果たした(ジョニはライブ・アルバム『Joni Mitchell at Newport』で最優秀フォーク・アルバムを受賞)。 また、スティーヴィー・ワンダーがトニー・ベネットを称え、アニー・レノックスはシニード・オコナーに敬意を表し(そしてガザの停戦を呼びかけた)、ファンタジア・バリーノがティナ・ターナーを祝福し、会場を沸かせた。

ショーの最後を飾ったのは、22年ぶりにグラミー賞に帰ってきたビリー・ジョエルだった。 16年ぶりとなる最新シングル「Turn the Lights Back On」をライブ初披露した彼は、式の最後に1980年の名曲「You May Be Right」を披露した。

スティーヴィー・ワンダー(Photo by Getty Images)

アニー・レノックス(SONJA FLEMMING/CBS)

ビリー・ジョエル(Photo by Getty Images)

中継前の部門では、ダブル受賞を果たしたジェイソン・イズベル(最優秀アメリカン・ルーツ・ソング賞&最優秀アメリカーナ・アルバム賞)、クリス・ステイプルトン(最優秀カントリー・ソング賞&最優秀ソロ・パフォーマンス賞)、フレッド・アゲイン(最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞&最優秀ダンス/エレクトロニック・レコーディング賞)の躍進ぶりも特筆すべきだろう。

また、ザック・ブライアン、リル・ダーク、ペソ・プルマ、タイラがグラミー賞を初受賞。ジャック・アントノフは3年連続で最優秀プロデューサー賞(ノン・クラシック部門)を受賞した。ザ・ビートルズも1966年の『Revolver』に収録された「I'm Only Sleeping」で最優秀ミュージック・ビデオを受賞した。

ジェイ・Zは黒人音楽クリエイターに贈られるグローバル・インパクト賞を受賞するために会場へと駆けつけ、グラミー賞の問題点を炙り出すという昔からの伝統に触れる機会を得た。スピーチのなかでジェイ・Zは、ヒップホップや黒人アーティストとレコーディング・アカデミーの(控えめに言っても)長く複雑な関係ーービヨンセの件に加えて、キラー・マイクの拘束、2015年以来初めて授賞式の中継でラップ賞が授与されなかったことでも強調されたテーマについて掘り下げ、「私はただ、みなさんにしっかりやってほしいと言ってるんです」と語った。

WOWOWでは本日2月5日午後10時より「第66回グラミー賞授賞式」字幕版をお届けする。

From Rolling Stone US.

「第66回グラミー賞授賞式」※字幕版 

2024年2月5日(月)午後10:00~[WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]

※生中継終了後~90日間WOWOWオンデマンドにてアーカイブ配信

WOWOWグラミー賞特設サイト:https://www.wowow.co.jp/music/grammy/