フジテレビが十八番の『大奥』、テレビ朝日が“らしい”医療ミステリー『グレイトギフト』、日本テレビが水曜ドラマ定番の女性お仕事モノ『となりのナースエイド』、TBSが宮藤官九郎ワールド全開の『不適切にもほどがある!』。民放主要4局が得意の作風を前面に押し出すなど、力作ぞろいの2024年冬ドラマが出そろった。
主要作がそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の前編では「2024年冬ドラマ主要23作の傾向とおすすめ5作」、次回の後編では「目安の採点付き全作レビュー」を挙げていく。
2024年冬ドラマの主な傾向は、【[1]“かぶる”マーケティングの現実とリスク [2]ベテラン・中堅脚本家が渾身のオリジナル】の2つ。
傾向[1]“かぶる”マーケティングの現実とリスク
今冬も40作近い連ドラが放送される中、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率と配信再生数の獲得を狙って「各局のマーケティングがかぶりまくる」という傾向が見られた。
まずファンタジーは、『君が心をくれたから』(フジ)、『Eye Love You』(TBS)、『正直不動産2』(NHK総合)、『婚活1000本ノック』(フジ)、『めぐる未来』(読売テレビ制作・日テレ)、『不適切にもほどがある!』(TBS)の計6作を放送。ファンタジーの設定はタイムリープ、幽霊、テレパスなどさまざまだが、入り口のわかりやすさと気軽さがあり、6作すべて平日夜の作品として選ばれている。
次に続編は、『正直不動産2』、『おっさんずラブ -リターンズ-』(テレ朝)、『新空港占拠』(日テレ)、『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』(テレビ東京)、『#居酒屋新幹線2』(MBS制作・TBS)の計5作を放送。事実上の続編と言える『大奥』も合わせると計6作と言っていいかもしれない。これは「前作が一定以上の評価を得た」というベースに基づく手堅い戦略に他ならない。
さらに医療現場が舞台の物語は、『となりのナースエイド』、『グレイトギフト』、『院内警察』(フジ)、『ナースが婚活』(テレ東)、『お別れホスピタル』(NHK総合、2月3日スタート)の計5作。医療ドラマは定番ジャンルのため今冬は、看護助手、ミステリー、院内交番、婚活、療養病棟と各作品で切り口の工夫が見られる。
やはりここまでかぶってしまうと、よほど突き抜けた脚本・演出でなければ目立つことは難しい。実際ここで挙げた作品は苦戦気味のスタートとなったが、唯一、爆発力を感じさせられるのが、ファンタジーの『不適切にもほどがある!』。タイムスリップという設定こそ凡庸だが、それを忘れさせる笑いとあるあるで、ネット上の反響は独走態勢に入りそうなムードが漂っている。
一方、長年冬ドラマの定番だった刑事モノの新作は、『院内警察』(医療×刑事)のみの事実上0.5作。こちらも「コア層の個人視聴率と配信再生数を獲得しづらい」というマーケティングの一致によるものではないか。
傾向[2]ベテラン・中堅脚本家が渾身のオリジナル
今冬は実績十分、第一線のベテラン・中堅脚本家が手がけるオリジナルがそろった。
福田靖のホームドラマ『春になったら』(関西テレビ制作・フジ)、宮藤官九郎のタイムスリップコメディ『不適切にもほどがある!』、遊川和彦の恋愛群像劇『アイのない恋人たち』(ABC制作・テレ朝)、黒岩勉の医療ミステリー『グレイトギフト』、武藤将吾の青春クーデターサスペンス『マルス-ゼロの革命-』(テレ朝)、徳尾浩司のピュアなラブストーリー『おっさんずラブ -リターンズ-』、大島里美の音楽ヒューマン作『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS)。
これだけ作品ジャンルが分かれていることが、オリジナルの力作という証だろう。プロデューサーとともに書き上げた渾身の物語であり、ネタバレがないためクライマックスに向けて盛り上がっていくのではないか。
ゴールデン・プライム帯ではこれら以外でも、純愛小説に定評がある宇山佳佑がひさびさにドラマ脚本を手がける『君が心をくれたから』。さらに『Eye Love You』、『ジャンヌの裁き』(テレ東)、『新空港占拠』、『厨房のありす』(日テレ)などもオリジナルであり、意欲のほどがうかがえる。
奇しくも、実写化をめぐる原作者、脚本家、プロデューサーの関係性に注目が集まっているが、今冬のようにオリジナルが増えるほど、そのリスクは低くなっていく。民放各局にとって、配信、映画、グッズなどの収益化は重要課題の1つだけに、それらを得るためにも今後は「オリジナルに挑む」というムードは続いていくだろう。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『春になったら』『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』『不適切にもほどがある!』の3作。
『春になったら』は、今どき珍しい王道のホームドラマ。生と死を父と娘の穏やかな目線から描くことで、にじみ出るような切なさを感じさせ、涙を誘われてしまう。余命と結婚……「冬クールに合わせた春に向かう3か月間の物語」という設定も巧みで、福田靖の脚本が冴えている。
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』は、公私ともに時代錯誤な価値観のおっさんが不器用ながらもアップデートに励む姿がほほえましい。ジェンダーや不登校などの社会的な問題を扱うことも含め、制作陣の真摯な姿勢がうかがえる。
『不適切にもほどがある!』は、盤石のスタッフ陣に、昭和VS令和のトレンドを織り交ぜた勝ち戦。タイムリープから、あるあるなどの小ネタ、ミュージカルまで、いい意味でやりたい放題の脚本・演出・プロデュースが貫かれている。
その他、『正直不動産2』は、前シリーズと変わらぬ安定感たっぷり。不動産業界の嘘とホントをユーモアたっぷりに描くエンタメ性の高さは健在で、安心して見ていられる。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。
2024年 冬ドラマおすすめ5作
- No.1 春になったら (関西テレビ・フジ 月曜22時)
- No.2 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか! (東海テレビ・フジ 土曜23時40分)
- No.3 不適切にもほどがある! (TBS 金曜22時)
- No.4 正直不動産2 (NHK総合 火曜22時)
- No.5 君が心をくれたから (フジ 月曜21時)