JR東日本が2024年3月16日に実施するダイヤ改正について、千葉市と千葉県がざわついている。京葉線において、日中以外の時間帯に運転される通勤快速と快速を各駅停車に格下げするという。JR東日本としては、多くの利用者のために配慮したはず。一方で、一部の通勤利用者が困る気持ちもわかる。鉄道は多くの人の生活や人生に関わっているのだと改めて思う。

  • 京葉線のE233系。外房線や内房線などにも乗り入れる

京葉線のダイヤ改正について、千葉市長、千葉県知事ともに「容認できない」「極端すぎる」と発言。千葉市長のX(Twitter)での投稿にも多くのコメントが寄せられている。自民党市議団も「沿線市民の生活を前提から揺るがす極端な“改悪”で、今後の都市発展を阻害する要因になりかねない」とし、千葉市長へ要望書を手渡した。地元の政治家にとっても、「市民のために働く」ことをアピールするチャンスと考えているようだ。

しかし、ダイヤ改正で便利になる千葉市民、千葉県民もたくさんいると思われる。政治家の皆さんは、今回行われるダイヤ改正の中身を精査しているだろうか。声の大きい人だけを見てはいないだろうか。そこが気になる。ダイヤ改正に限らず、ほとんどの事象で「満足している人は声を上げない」。政治家ならご存じのはずだが。

最大の争点は朝の上り通勤快速

JR東日本千葉支社は、京葉線のダイヤ改正について「日中帯(10~15時台)を除き、東京~蘇我駅間はすべての通勤快速および快速を各駅停車に変更します」と発表している。争点としては、「朝の上り通勤快速2本が各駅停車になる」「朝の通勤時間帯に上り1本減便」「朝9時台の快速3往復が各駅停車になる」「夕方以降の下り通勤快速2本が各駅停車になる」「16時台以降の下り快速17本、上り快速7本が各駅停車になる」「20時台の下り1本を減便」の6点だろう。

報道の中には、見出しに「通勤快速・快速廃止」を掲げたものもあった。これは大幅な減便をイメージさせる。記事本文を見たら「通勤快速と快速を各駅停車に」とあるが、ネットニュースの読者は見出しだけで意見を拡散させる傾向がある。これでは情報が正しく伝わらず、炎上しやすい。

最も関心の高い争点は、「朝の上り通勤快速2本が各駅停車になる」だと思われる。上り通勤快速の1本は勝浦駅6時25分発(外房線経由)・成東駅6時51分発(東金線経由)で、誉田駅から併結運転を行い、蘇我駅7時44分発、新木場駅8時16分発、八丁堀駅8時24分発、東京駅8時26分着。もう1本は上総湊駅6時56分発(内房線経由)で、蘇我駅7時58分発、新木場駅8時30分発、八丁堀駅8時37分発、東京駅8時39分着。ともに蘇我駅を発車すると、新木場駅まで京葉線内をノンストップで走るという俊足ぶりである。土日は停車駅が増えて快速になる。

ダイヤ改正後、外房線経由の1本は現行の勝浦発から上総一ノ宮発に変更され、運転区間を短縮。蘇我駅7時44分発は変わらず。新木場駅到着は8時28分で、現行の時刻より12分繰り下がっている。内房線経由のもう1本は上総湊駅を現行通り6時56分に発車し、木更津駅で3分、蘇我駅で2分繰り上がるものの、新木場駅は8時43分着となり、現行の時刻より14分繰り下がっている。通勤通学利用者にとって、朝の12~14分は貴重だろう。

9時台の快速については、到着時刻が始業時間帯ではないから、個別の事情はともかく、大きな問題ではないと思われる。官公庁の執務時間は8時半から17時まで。これは大正時代の法律で定められ、現在も慣習的にこの時間になっている。窓口を8時半に開けるために、7時台に出勤することもあるだろう。10時出勤は民間企業でもかなり特殊で遅めといえる。

夕方以降の下り通勤快速については、蘇我駅の到着時刻を基準とした比較で示されている。外房線直通の通勤快速(勝浦行・成東行)は現在、東京駅を18時14分に発車し、蘇我駅到着は18時51分。ダイヤ改正後は各駅停車になるため、蘇我駅18時51分着の列車は東京駅を17時53分に発車することになり、発車時刻が21分繰り上がる。内房線直通の通勤快速(君津行)は現在、東京駅を19時18分に発車し、蘇我駅到着は19時55分。ダイヤ改正後の各駅停車は東京駅を18時54分に発車し、蘇我駅到着は19時48分となるため、所要時間が17分延びる。

一部報道で、所要時間を比較して「最大21分差」としていたが、これは夕方以降に運転される下り通勤快速の各駅停車化によるものだった。間違ってはいないが、同じ21分でも朝と夕方以降では価値が異なるのではないか(深夜であれば門限を気にする人もいるかもしれないが)。朝に最大21分遅くなるような印象を与える報道もあり、さすがに煽りすぎだと思った。

各駅停車化で便利になる人・不便になる人を比較してみた

朝の通勤快速が各駅停車化され、所要時間が12~14分延びる。ただし、その本数はわずか2本である。それが千葉市長、千葉県知事の言う「容認できない」「極端すぎる」に該当するだろうか。

ちなみに、通勤快速で使われる車両はE233系(10両編成)で定員1,582名。外房線・東金線経由の列車は2編成(4両編成・6両編成)を併結するため、運転席が増える分、定員がやや少ない。国土交通省の資料によると、2022(令和4)年度の京葉線の混雑率は102%。これらの数値を加味すると、通勤快速に乗れなくなる人は定員と同じ1,582名で考えて良さそうだ。列車2本なら合計で3,164名になる。7時台の快速2本も入れると合計6,328名だから、かなりの人数になる。

京葉線のダイヤ改正では、「朝の通勤時間帯に上り1本減便」するものの、「朝の上り通勤快速2本が各駅停車になる」ため、これまで通勤快速が通過していた駅での乗車機会が1本増える。通勤快速の通過待ちがなくなることにより、各駅停車の所要時間が2~4分短縮されるという。各駅停車のみ停車する駅の定期利用者には恩恵がある。

そこで、通勤快速が通過する京葉線の駅を対象に、2022(令和4)年度の各駅の定期利用者を合計した。その結果、当時未開業だった幕張豊砂駅を除いても15万9,451名になった。すべての人が東京駅をめざすはずもないので、少なめに見積もって約半分として7万9,725名。これだけの人々が、ダイヤ改正後に乗車機会が増え、所要時間も短縮されるなどの恩恵を受けることになる。

  • 京葉線の乗車人員(出典 : JR東日本「各駅の乗車人員 2022年度」)

7万9,725名を便利にすると、6,323名が不便になってしまう。これがダイヤ改正の辛いところかもしれない。京葉線内において、千葉市内の通勤快速通過駅の利用者数は5万8,591名。千葉県の駅すべて合わせると14万943名になった。通勤快速の各駅停車化で便利になる人が不便になる人の約10倍になる可能性があるのに、一部の政治家は「沿線市民の生活を前提から揺るがす極端な“改悪”で、今後の都市発展を阻害する要因になりかねない」と言う。千葉市長はSNSで「影響を精査する」と表明したが、どうなったのか。

JR東日本の快速列車設定の考え方は

報道では、不便になる人の例として、「帰宅時に子どもを保育所や学童保育に迎えに行けない」との声があるほか、「通勤快速を前提に住宅を購入した」「引っ越さなくてはいけない」「転職を検討する」などの声が紹介されていた。通勤快速がなくなることで、朝は12~14分の所要時間増加、帰宅時は最大21分の所要時間増加となるが、それだけで住宅の買い換えや転職を検討する必要があるだろうか。不便な人だけを取り上げる報道は不公平に思える。

快速列車を停車させる駅は、シンプルに「リアルタイムに乗客数が増える駅」だ。増え続ける乗客を拾っていかないと、ホームからあふれてしまう。それは危ない。「乗換駅だから」とか「駅付近に集客施設があるから」と思うかもしれないが、乗換駅であっても近くに集客施設があっても、その駅の乗客が増えなければ通過する。この考え方は大手私鉄もJR各社もおおむね同じだろう。

ただし、大手私鉄の場合、住宅等の関連企業が展開する駅を加味する傾向が強い。JR東日本も住宅開発を手がけているものの、国鉄時代は鉄道関連以外の事業を制限されていた。線路を敷いても、価値の上がりそうな土地を入手できなかった。それもあって、ダイヤ改正は不動産事情より乗客数を重視する傾向がある。

「東京まで通勤快速で○○分」という不動産広告に注目して住居を選んだ人は、たしかに気の毒ではある。生活だけでなく、不動産の価値も変わるだろう。ひとまず冷静になってほしいが、本当に転居を検討するなら、「住宅事業を積極的に展開する大手私鉄沿線を選びなさい」とアドバイスしたい。

総武快速線も便利、「座れる通勤特急」新設

ちなみに、東京~蘇我間では総武快速線から内房線・外房線へ直通する快速も走っており、所要時間は約50分。京葉線の通勤快速は約42分なので、京葉線のほうが8分早い。しかし、京葉線の東京駅地下ホームはかなり深く遠いから、乗換えを考えると大差はない。総武快速線からの列車も内房線・外房線から直通できて便利だし、グリーン車もある。

京葉線経由で走る通勤快速の利点といえば、新木場駅で地下鉄有楽町線やりんかい線、八丁堀駅で地下鉄日比谷線に乗り換えられることだ。ひょっとしたら、JR東日本としては東京都心までJR線だけを利用してほしいのかもしれない。それが本当なら、ちょっとセコいなと思う。

  • 京葉線(東京~蘇我間)6~9時台の上りダイヤ。来年3月のダイヤ改正で青の線(通勤快速)と緑の線(快速)が消え、各駅停車の待避がなくなり、直線化される。なお、現行の通勤快速2本のうち1本のダイヤで上り「わかしお4号」が新設される予定(「OuDiaSecond」で作成)

セコいといえば、朝の上り通勤快速のうち、現行の蘇我駅7時44分発・東京駅8時26分着の列車とほぼ同じ時間帯で、特急列車の上り「わかしお4号」(勝浦駅6時44分発・東京駅8時25分着、土休日運休)がダイヤ改正後に設定される。「京葉線に乗りたければ有料で座ってどうぞ」というわけだ。通勤快速の利用者は、「早く行きたければ追加利用金を払えというのか」と怒りそうだ。しかし、座れる通勤列車を期待する人も多いから、サービス向上といえるかもしれない。列車単位の収入で考えると、立客も多い通勤快速と座席定員の少ない特急列車で比較すれば通勤快速のほうが収益は上がるから、「儲けよう」というより「座っていただこう」の要素が大きい。

筆者は沿線外の住民だから、京葉線の通勤事情を把握しきれない。幕張メッセで開催されるイベントの帰り、快速列車に旅客が集中している様子が気になるくらいだ。そこは朝夕の快速廃止によって混雑が平準化されるから良いと思う。客観的に言えば、どんなダイヤ改正だって利用者の不満はある。だから大きな不満を解消しても、小さな不満は残ってしまう。誰にとっても100点満点のダイヤ改正はない。

本誌の読者には承前だと思うが、小さな不満を報道が際立たせ、政治家が恣意的に利用して大きく見せていることに気をつけたい。千葉県知事、千葉市長、議員の皆さんは冷静になってほしい。不便になる県民市民より、便利になる県民市民のほうが多いのだ。政治家として県民市民のためにJR東日本に求めることがあるとしたら、りんかい線との直通要望ではないか。あるいは、千葉県民が「東京へ痛勤」しないで済むように、千葉市内または千葉県内で通勤通学が完結する社会をつくる政策を考えてほしい。