巨人・阿部監督(右) (C)Kyodo News

 阿部慎之助新監督の下、巨人が大きく生まれ変わろうとしている。

 原辰徳前監督の長期政権は8度のリーグ優勝に、2度の日本一など多くの栄光をもたらしたが、晩年は3年連続でV逸の屈辱も味わっている。そんなどん底から44歳の新監督はスタートを切らなければならない。歴代巨人監督の中で最も厳しい船出と言えるだろう。

「変わる」が来季へ向けた名門球団の合言葉だ。

 新指揮官自らが、就任会見の席で「自分も変わる」と宣言した。

 「打てる捕手」として君臨した現役時代。2132安打に406本の本塁打を記録してチームの屋台骨を支えた。引退後の二軍監督時代は“鬼軍曹”として厳しい指導に明け暮れた。直近の2年間は原監督の腹心として帝王学を学んでいる。

 だが、時としてスパルタの教育法は時代錯誤と言われ、指揮官としての資質に疑問符を持たれる時期もあった。だからこそ新たな大役を前に、自らを変えることを決意したのだろう。

 秋季キャンプから「阿部色」は垣間見える。

 若手投手には「困ったらど真ん中に投げろ」と強気の投球を要求し、野手には「走塁ではなく暴走しろ」とこれまで以上に積極性を求める。

「ミスをするなと言うのと、ミスを恐れず思い切りやれ、と言うのでは全然違う」

 選手が自覚と目的意識をもって練習に取り組めば、おのずとチームは変わる。これが阿部流の意識改革の第一歩である。

◆ 捕手出身監督として手腕を発揮できるか

 山口寿一オーナーが「ペナント奪還こそが至上命題」と語っている。チームの若返りと、さらなる強化に向けて、球団もなりふり構わぬ補強策に奔走している。最大の弱点である投手陣の整備が急務のポイント。

 中でも救援投手の防御率(3.81)はリーグワーストとあってソフトバンクから高橋礼、泉圭輔投手を獲得したのを皮切りに、オリックスから近藤大亮、現役ドラフトでは阪神の馬場皐輔各投手も獲得。さらに今季まで阪神に在籍したカイル・ケラー投手も入団内定までこぎつけている。

 特にケラーは今季途中に家庭の事情で帰国したが、8月までに27試合登板で防御率1.71と抜群の安定感を誇る快速右腕。球団関係者の中には「もし、大勢がクローザーとして復調できなければ十分に代役が務まる」と高い評価をする。今季は右肘痛で満足な成績を残せなかった大勢が守護神に戻ってくれば、7回ケラー、8回中川皓太と強力な「勝利の方程式」が出来上がる。

 新人ドラフトでは、中大から即戦力右腕、西舘勇陽投手を1位指名しただけでなく、2位から5位まですべて社会人選手を獲得。いかに即戦力を欲しているかがわかる戦略だった。

 阿部監督は、野手陣では内野の固定化を明言している。

 長年、遊撃を守ってきた坂本勇人選手を三塁、遊撃には今季ブレークした門脇誠選手を抜擢して、一塁に岡本和真選手が回る。これに吉川尚輝選手が二塁で好守を見せれば、阪神と互角以上の内野陣が出来上がる。中でも近年は腰痛などで苦しむ坂本が本格コンバートでフルシーズンを働けるか、巨人復活の鍵を握りそうだ。

 かつて、名将・野村克也は「捕手はグラウンド上の監督」と語っている。扇の要と言われるポジションを守った経験は後の監督業にも生かされるケースは多い。野村だけでなく、森祇晶(西武)、上田利治(元阪急)らの名監督が捕手出身。他にも梨田昌孝(近鉄など)伊東勤(西武など)古田敦也(ヤクルト)谷繁元信(中日)ら、捕手出身監督は多士済々だ。

 どんな配球が打者を苦しませるか? どんな戦法を相手は嫌がるのか? 捕手出身ならではの視点を阿部監督も持っている。それを選手たちに教え込み、意識を変えていけばチームも生まれ変わる。

「本年はアレで盛り上がっていますが、来年はアレではなくアベで行きたい」就任会見の席で阿部監督はこう語った。意識する岡田阪神とは来年の開幕戦でいきなり激突する。

 新装開店の阿部巨人。再建は若き指揮官の手腕に託された。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)