“語りたくなるドラマ”を支えるツールとして、SNSの存在は大きい。X(Twitter)を早くから使っていた村瀬氏は「語りたくなるようなことをいっぱい入れ込んで、スマホを持ちながらSNSで語ってもらう前提でドラマを作っている気持ちです。昔は、オンエア中にテレビから目を離してスマホを見られることは“俺のドラマをちゃんと見ろ!”と思って嫌だったんですけど(笑)」と話す。

飯田氏は「元々SNSは敵だと思っていたんですけど、『VIVANT』をやってみるとリアルタイムの視聴があって、その後に配信があって、その他にSNSがあって、全体が補完関係にあると思って、こんな使い方ができるともっともっとテレビにも呼び込めるんじゃないかと感じました。ドラマで、欲を言えばリアルタイムで全部が視聴者に伝わるっていうのが一番ではあるとは思いながら、伝わりきれてないものとかをSNSでどんどんフォローしていったんです。それが“じゃあ見てみようか”という視聴者の動きにつながっていったのが、本当に今回大発見で、そういった使い方を今後できてくると面白いんじゃないかなと思いましたね」と可能性を感じたそうだ。

村瀬氏は、『silent』でのSNSにまつわる印象的なエピソードを紹介。「僕は本当にエゴサの鬼で、Xの感想を全て読んでるんですけど、ある人が“『silent』は木曜日の10時から11時に1時間ドラマを見たら、11時から12時までSNSでみんなの感想を見て、みんなこう思ったんだぁと思う。この2時間が『silent』なんです”と書いてあったのを見て、ものすごくうれしくて。だからSNSは味方のイメージですね」といい、“視聴者と一緒にドラマを作っている”感覚になれるのだという。

その話を受け、司会の枡田絵理奈アナが「SNSの反応を見て、ドラマの内容を変えるというのはさすがにないですか?」と聞くと、村瀬氏は「『silent』で言うと、もともと湊斗(鈴鹿央士)は生方美久さん(脚本)と三角関係の当て馬じゃなくてちゃんと人間を描こうと決めていたんですけど、後半はもっと湊斗(の存在)が薄くなるかもしれなかったんです。でも、予想以上にみんな湊斗が好きになって、薄くしたら暴動が起こると思って(笑)、毎回ちゃんと描いていったところがありました」と告白。

飯田氏も「『ドラゴン桜』で坊主2人(岩井と小橋)が実は1話で完落ちして終わるはずだったのがすごく人気が出て、2話以降は阿部(寛)さんの手下みたいに使えるくらいかなと思ってたんですけど、予想以上の人気になったので、最後は東大クラスに入ったんです。これは今思い返すと、SNSを利用して味方につけてたんだなって思いましたね」と打ち明けた。

それは、放送期間中に撮影を進めるという連ドラだからこそ成せる技でもあり、「空気感を感じながら作れますよね」(飯田氏)、「物語を作って世の中に送り出すもので、映画は作ってから翌年公開だったりするし、演劇は最大のリアルタイムだけどその劇場に行けなければいけない。その中でテレビは、今日起こったことが今日放送できるメディアの中で物語を作れるんですよね」(村瀬氏)と、改めてその特性を認識した。

  • 司会の枡田絵理奈アナ

視聴者のレベル向上を実感…『半沢直樹』で銀行用語の説明なし

この地上波テレビが持つ力について、飯田氏は「よく福澤(克雄)監督と話すんですけど、やっぱり“『鬼滅の刃』興収400億円超え”とか言われると憧れはありつつも、より多くの人に波及できるのはテレビを置いて他にないんじゃないかと思うんです」と捉える。

それを受け、村瀬氏は「“テレビってヤバいんじゃね?”って言う人はいっぱいるけど、僕自身は1ミリも不安がないです。昔、定食屋のテレビに『聖者の行進』が流れたら、ずっとしゃべってた近くの席のおばちゃんたちの会話がピタッと止まって、テレビを見てボロボロ泣き出したんですよ。このときに、テレビがある種の“暴力性”を持ってると思って、いい意味でも悪い意味でも、誰かの心に無条件に、(スポンサーのおかげで)1円もお金を受け取らず、それを届けられる力があるのは僕らだけだと思うんです。『VIVANT』はその最たるものだと思って、あんなにお金のかかったものを0円で見られるんだってみんな感じたと思うんです」と熱弁した。

メディア環境の変化とともに、視聴者の変化も感じているという2人。飯田氏は「海外のものを簡単に見られる時代になって、視聴者さんの見る力というのが格段に上がっていると思っています」と分析した上で、「昔は、テレビというのは子どもにも分かりやすく作るというものだったと思うんですけど、2013年の『半沢直樹』なんて銀行の用語を一切説明しなくても見てもらえたように、ある程度レベルを上げた作り方になってきている。だから(視聴者を)バカにしちゃいけないというのは、いつも口酸っぱく言ってます」と話す。

村瀬氏も「『silent』も『いちばんすきな花』も、全部の言葉が視聴者の方に分からなくてもいいみたいな感覚があって、何となく正解が分からないことをテーマにしているから、分かりやすく善悪とか、何が正しいかということを教えてあげる気持ちは1ミリもないんです。お客さんの心を信じて、テーマをポーンと置いて考えてもらうというイメージをしています」と語ると、飯田氏は「『VIVANT』も一切説明してないですから(笑)。皆さんを信じると返してくれるというのがある」と実感を述べた。