ビザ・ワールドワイド・ジャパン代表取締役社長シータン・キトニー氏が今年4月の就任以来、初めてメディアの前に登場し、Visaの現状と日本の戦略について説明した。

キャッシュレス化をさらに推進

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    ビザ・ワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー代表取締役社長

キトニー氏は、「今後5年間の目標として、日本の決済エコシステムを世界で最もスマートでパーソナルなものにしなければならない」との目標を上げる。日本ではキャッシュレス決済ではクレジットカードが主流だが、まだ現金利用も多く、キャッシュレス化をさらに推進することを目指す。

直近では、今年3月に日本でVisaのタッチ決済対応カードの発行が1億枚を突破し、4年間で10倍に成長した。実店舗におけるVisa利用において25%がタッチ決済になった。2017年から2020年までは「基本的なインフラを構築してきた」(キトニー氏)時期だったこともあって0~1%程度だったが、その後は急速に拡大した。

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    日本におけるさまざまな実績

タッチ決済はコンビニなど日常利用も拡大

2021年9月と23年9月を比較すると、コンビニエンスストアは4.4倍、飲食店は9.4倍、ドラッグストアは7.0倍、スーパーは4.3倍といった具合に、日常利用でのタッチ決済が拡大しているが、さらに「非日常加盟店」と呼ばれる、百貨店などの比較的高額の購買にもタッチ決済が利用されるようになった。

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    日常店舗での利用が拡大するタッチ決済。さらに、非日常店舗の利用も3倍に伸びた

タッチ決済の公共交通機関導入が拡大

公共交通機関におけるタッチ決済の導入も拡大しており、アジア太平洋地域では最大のプロジェクト数になっているという。23年12月現在では、28の都道府県で55プロジェクトが稼働。

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    急激に拡大するクレジットカードのタッチ決済による公共交通機関の乗車

もともとFeliCaを使ったタッチによる乗車が普及していた日本で、クレジットカードのタッチ決済による公共交通機関の乗車は普及が難しいとも考えられたが、世界的に標準化された仕組みでコスト効率も高いことで採用が進んだとキトニー氏は分析。

世界初導入の「フレキシブルペイ」

三井住友銀行が発行するフレキシブルペイは、Visaの開発したサービスが世界で初めて導入された事例。スマートフォン自体を決済端末として利用するTap to PhoneはSquareやフライトソリューションズなどが提供しており、利用が進む。

こうした状況に加え、日本ではキャッシュレス決済比率が増加傾向にある。2022年には36%まで達し、25年までに40%と言う政府目標に向けて進展している。コロナ禍を経てEC決済サービス市場も急拡大。2018年の14兆円規模から21年には23兆円規模になり、26年度には39兆円規模まで拡大することが予測されている。

モバイル決済市場も21年には1兆円規模だったが、25年までに3兆円を突破するとの予測で、「指数関数的に拡大する」とキトニー氏。

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    日本のキャッシュレス決済市場は拡大の一途。モバイル決済市場も伸び続けている

法人市場も拡大、課題は?

こうした市場の拡大はコンシューマ向けだけでなく法人市場でも増加する。法人クレジットカードは2014年の639万枚から2023年3月までに1201万枚と倍増。業界特化型のソリューションや組込型金融、FinTechなど、法人市場でもシームレスで使いやすいユーザー体験を実現することで拡大を狙う。

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    法人市場も拡大しているが、まだまだ物足りない部分

課題の1つとしてキトニー氏は「トークン導入が不十分」と指摘する。カード番号を別の番号に変換して安全に利用することができるトークナイゼーションに関して、2019年第3四半期と20年第3四半期の比較では世界平均で不正取引金額を28%減少させた。22年1~3月には、トークナイゼーションをした世界のEC取引の承認件数は3%増加したという。

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    インフラ面に課題がある、とキトニー氏は指摘。その1つがトークン化

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    そうした課題に対してVisaが提供するソリューション

こうしたデータから、トークナイゼーションは安全性を高めると同時に、加盟店の売り上げが伸びることにも繋がっている、とキトニー氏は指摘する。「トップラインでもボトムラインでも、トークナイゼーションは市場を拡大するツール」とキトニー氏。

日本では、ECにおける決済アプリケーションの改ざんによって、消費者が入力したクレジットカード番号が漏洩する事例が多くある(参考記事「クレジットカードの手入力も命がけ」)。これを防ぐにはトークナイゼーションが有効とされており、海外ではClick To Payと呼ばれる国際ブランド共通の取り組みも始まっている(参考記事「クレジットカードの生データは危険」)。

キトニー氏自身は具体的なソリューションには言及しなかったものの、トークナイゼーションが「必要なインフラになる」と指摘。今後、サービスを強化していく方針だ。

クレジットカードのUXの課題としては、カード番号が変わったときに登録したサイトなどに逐一変更をしなければならないという問題があった。これは「Visa Account Updater」によって、カード番号変更が加盟店側に通知され、変更が行われる。

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    カード番号変更時に自動的に通知を行うVisa Account Updater

Visaのサービスメニューには、分割払いを柔軟に、快適なUXで実現する「Visa Installment Solutions」も存在。消費者には決済オプションを提供し、加盟店やイシュアには利用拡大が期待できる。

Visaが保有する膨大なデータを活用した「Visa Loyalty Solutions」は、カード会員向けにダイレクトにリーチし、特典などのロイヤリティプログラムを提供できるとしている。

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    共通ポイントプログラムが主流の日本に対するVisa Loyalty Solutionsがどの程度の実力を発揮できるか興味深いところ

Visaでは、過去5年間にグローバルで100億ドルの投資を行って安全性を高める取り組みを実施。クレジットカードの利用における脅威への対策に積極的に取り組んでいる点をキトニー氏は強調する。

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    Visaが投資してきた安全性に関する取り組み

日本の法人決済市場は「約1000兆円の規模で、クレジットカードは2%に過ぎない」とキトニー氏。こうした現状に対して、法人利用のさらなる拡大に関しては、Central Travel AccountやVisa Payable Automationなどのサービスによって、利便性を高めて利用促進を目指す。

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    法人市場向けの数々のソリューション

キトニー氏は、日本市場は大きな可能性を秘めている市場だと指摘し、今後5年間の成長をさらに目指し、コンシューマ市場、法人市場の両面で積極的にサービスを強化していく考えを示している。