コロナ禍以降にタクシードライバーの数は激減しましたが、一方で景気の回復やインバウンドで乗客が増えたことに比例し、ドライバー一人当たりの収入も増えています。特に東京都では2022年11月に15年ぶりの料金値上げがあり、ドライバーの給料も増えていて年収1,000万円を超える人も珍しくありません。

しかも、仕事は月に12回程度であるため、趣味や勉強に充てられる可処分時間が多い仕事です。長時間労働と思われがちですが、安全第一な職業なので、労働時間は労働基準法でしっかりと守られています。

こんな魅力的な話を聞くと、「タクシードライバーになってひと稼ぎしよう!」と感じる人が増えてきてもおかしくありませんが、どんな職業にも「向き」「不向き」があります。「不向き」な職業に就いて仕事をすることほどつらいことはありません。入社後のミスマッチを防ぐためにも、自分の適性を事前に確認しておくことが重要です。

そこで今回は、タクシードライバーに向いている人の特徴や必要な資格、タクシードライバーの勤務の種類などを解説していきます。

タクシードライバーに向いている人の特徴

  • タクシードライバーに向いている人の特徴

    タクシードライバーは、運転するだけでなく、乗客とのコミュニケーションが大切

ここからは、タクシードライバーに向いている人の特徴を紹介していきます。自分の性格や特徴と照らし合わせて、タクシードライバーとしての適性を見極めましょう。

コミュニケーションが好きな人

タクシードライバーには、コミュニケーション能力が高い人、いわゆる「話し好き」の方が向いています。タクシードライバーは、乗車中に必ず人を乗せるという観点から見れば、「接客業」と言っても過言ではありません。タクシードライバーには飲食店や販売員を経験された方も多く、前職での接客スキルを車内で活かしています。ただ、静かに乗車されたい乗客もいるため、バックミラー越しに乗客の様子を見ながら話すのがよいでしょう。

運転が好きな人

タクシードライバーは車で乗客を目的地まで送り届ける仕事なので、運転が好きであることは必須です。

日常、ドライブで運転を楽しんでいることが多い人ならば、一定水準以上の運転技術を有している可能性も高いと考えられますので、運転好きな人である点は最低条件です。逆に運転が好きでなければ、長時間の運転を仕事とすることは少なからずストレスを感じてしまうでしょう。

気配りができる人

タクシードライバーには、気配りができる人が向いています。

乗客を安全に目的地まで送り届けるためには、交通マナーをしっかりと守り、安全運転を心がける必要があります。それだけではなく、乗客一人ひとりに心地よくタクシーの移動時間を楽しんでいただけるよう、乗客の様子を見極めることも重要なのです。

たとえば、タクシー内での乗客のニーズは「ゆっくり休みたい人」「世間話をしたい人」「観光地や人気の飲食店を知りたい人」など、さまざまです。目的地を聞くタイミングで乗客の様子を見極め、希望に合った対応をすることで、信頼感が深まることでしょう。

独りの時間も好きな人

タクシードライバーは独りの時間が苦痛に感じない人が向いています。

タクシードライバーの仕事は、同じ空間で社員同士が協力して働くシーンは少なく、基本的には出庫したら仕事が終わるまで、乗客が乗車している以外は独りなので、孤独を感じることもあるでしょう。

「独りのほうが気を遣わなくていいから楽」「独りのほうが業務に集中できる」など、独りでいることが苦ではなく、その時間を有効に活用していける人には向いていると言えます。

気分転換が上手な人

気分転換が上手な人は、タクシードライバーに向いています。タクシードライバーは歩合給の割合が大きい会社が多いため、乗客が少なければ当然、稼ぎにはなりません。

少しでも多く乗客を増やすためには「乗客が多い場所、時間帯」「どのような走行の仕方をするのか」など、座学研修だけでなく、OJTとして働きながら覚えていく必要があります。

コツがつかめれば乗客がゼロということはありませんが、「いつもより少ない」と感じる日は必ずあります。そんな日は「こんな日もある。次はたくさん出会えるさ!」と気にせず次の乗務の日を楽しみにできる。こんな気分転換ができる人は向いています。

タクシードライバーの労働時間

ここからはタクシードライバーの労働時間について詳しく見ていきましょう。

隔日勤務

勤務時間は17時間(休憩3時間以上含む)となります。1回の出勤で2日分の勤務時間となり、1カ月の出勤回数は、11回から13回になります。

昼間・夜間勤務

勤務時間は9時間(休憩2時間含む)となり、1カ月の出勤回数は、22回から24回になります。

このように、自身のライフスタイルに合わせて選択することができます。

タクシードライバーの種類

  • タクシードライバーの種類

    タクシードライバーには、一般タクシー乗務員・介護タクシー乗務員・観光タクシーがある

よく見かけるタクシーは、一般タクシーといって、いつでも誰でも乗車できるタクシーです。一般タクシーを運転する人を「一般タクシー乗務員」といいます。ほかにも、「介護タクシー乗務員」「観光タクシー乗務員」と、タクシードライバーにも種類があります。

ここからは、それぞれのタクシードライバーの特徴や仕事の内容など、詳しく見ていきましょう。

一般タクシー乗務員

一般タクシー乗務員は、さまざまな乗客を乗せ、指定された目的地まで安全に送り届ける仕事です。

仕事内容 付け待ち営業・流し営業・配車営業
特徴 日勤・夜勤・隔日勤務
給料 基本給+歩合給
働くためのポイント 年齢制限や経験の有無などの条件は少ない

勤務形態はライフスタイルに合わせて選びやすく、休日日数が多い隔日勤務が一般的です。

給料は基本給と歩合給ですが、歩合給の割合が大きい傾向があります。一般タクシーの利用が多い場所や時間を把握することで、給料が大きく左右されるでしょう。

一般タクシー乗務員になるための条件は少ないので、比較的就職しやすい職業と言えます。

介護タクシー乗務員

介護タクシー乗務員は、介護が必要な人を病院や施設に送迎します。

仕事内容 基本的には送迎のみ。「介護職員初任者研修」を取得することで乗降介助や病院付き添いなどの仕事が可能になる
特徴 平日の日中帯がメインで、規則的な勤務形態
給料 基本給制の会社が多い
働くためのポイント 大きな車の運転が必要になるケースがある

介護タクシー乗務員は、基本的に乗客の乗降などの介助は行いません。乗降の介助は、同乗している家族や病院スタッフが行います。「介護職員初任者研修」の資格を取得すれば、「介護保険タクシー乗務員」として活躍でき、乗降の介助や病院への付き添いなどの仕事も行います。

介護タクシーは病院や施設が開いている時間に合わせて送迎しているため、勤務時間は規則的です。ワークライフバランスを重視する人にとって働きやすい職場でしょう。

観光タクシー乗務員

目的の観光地まで送迎し、観光地を案内しながら巡る仕事です。

仕事内容 観光地までの送迎および観光案内
特徴 観光地や近隣飲食店、穴場スポットなど現地の幅広い知識が必要
給料 基本給+歩合給
働くためのポイント 働く土地の観光タクシードライバー認定試験を受けておくのがおすすめ

観光タクシーは、ただ観光地まで送迎するだけではなく、一緒に観光地を巡り案内をします。そのため、一般タクシー乗務員よりも高いコミュニケーション能力と観光地に対する知識が必要です。タクシードライバーの中には旅行業界出身の人も多く、「1組の乗客の添乗員」として観光のお手伝いをしているドライバーもいます。

現地の知識を得るためには、実際に足を運ぶことが重要です。最新知識を提供することで、乗客の満足度も高まるでしょう。また、外国人の利用者も多いことから、場合によっては語学力も求められます。

タクシードライバーの仕事内容

  • タクシードライバーの仕事内容

    タクシードライバーは、乗客を乗せて快適に目的地まで送り届ける仕事

ここからは、一般タクシードライバーの勤務形態と営業方法、一日の仕事の流れを解説していきます。ぜひ参考にしてください。

勤務形態

タクシードライバーの勤務形態は、「昼日勤務」「夜間勤務」「隔日勤務」に分けられていることがほとんどです。

【昼日勤務】

昼日勤務は一般企業と同じように、朝出勤して夕方退勤するといった、日中の勤務です。規則正しい生活を送れ、心身ともに疲労の負担は少ないでしょう。しかし、タクシードライバーの稼ぎ時は夜勤の時間帯なので、ほかの勤務形態に比べて給料は低めです。給料面よりもワークライフバランスを重要視している人には向いています。

【夜間勤務】

夜間勤務は夕方から早朝までの勤務です。深夜や早朝は稼ぎやすい時間帯であり、深夜料金なども発生するため、どんどん稼ぎたい人は夜勤が向いています。

【隔日勤務】

隔日勤務は 昼勤と夜勤を合わせ、約17時間働きます。勤務時間内には3時間以上の休憩が義務付けられていますが、長時間の勤務となるので、慣れるまでは体力的にも精神的にも負担がかかりやすい勤務です。

営業方法

タクシードライバーの営業方法は、「付け待ち営業」「流し営業」「配車営業」の3種類があります。

  • 付け待ち営業: 駅やタクシー乗り場にタクシーを停めて乗客を待つ方法
  • 流し営業: 道路を走りながら、タクシーに乗りたい乗客がいないか探す方法
  • 配車営業: 電話やアプリなどで要請があった乗客を迎えに行き、目的地まで送る方法

流し営業は乗客を探す方法ですが、付け待ち営業と配車営業は乗客の依頼を待つ方法です。この付け待ち営業と配車営業で乗客を待っている間に、休憩をしたり地図を見て勉強したりするなど、いかに時間を効率的に使えるのかが、稼ぐタクシードライバーになるためのポイントです。

駅やタクシー乗り場には、タクシーを必要とする乗客は多いですが、ライバルとなるタクシーも多いです。駅やタクシー乗り場でも、タクシーがよく利用される場所を把握しておくことで、より効率的に稼げます。

一日の仕事の流れ

一般タクシードライバーの一日の流れの例を紹介します。

出社(点呼と車の点検)

出社したら、まずは健康チェックやアルコールチェックが行われます。安全に運転するための必須作業であり、少しでも引っかかってしまえばその日の業務は行えません。2013年5月からバスやタクシー、トラックのドライバーには、アルコール検知器を使用したアルコールチェックが義務付けられています。

乗車前の車の点検も重要な仕事です。車に不備がないかを入念に確認しておくことで、より安全に走行できます。

営業開始

付け待ち営業や流し営業で、乗客を見つけ送迎します。配車営業の依頼があれば、依頼された場所に向かい送迎します。

休憩

休憩時間は特に決められていないので、好きなタイミングで休憩を取ります。タクシー乗り場で付け待ち営業をしながら休憩するのも一つの手です。ただし、休憩後にまた安全な運転ができるよう、しっかりと体を休ませる必要があります。タクシーから降りて体をのばすなど、軽い体操をすることも効果的です。

営業再開

帰社するまで再び乗客を探し、送迎します。

帰社(営業報告と洗車)

帰社したら、会社によっては勤務中にアルコールを飲んでいないか再びチェックします。その後、次のタクシードライバーがスムーズに出庫できるよう、車内の清掃・洗車を行います。最後に営業報告をして終了です。

タクシードライバーになるために必要な資格

  • タクシードライバーになるために必要なスキル

    タクシードライバーになるためには、普通自動車第二種免許は必須

ここからは、タクシードライバーに必要な2つの資格を紹介していきます。

普通自動車第二種免許の取得

タクシードライバーには、普通自動車第二種免許が必須です。普通自動車第一種免許と普通自動車第二種免許の違いは、事業目的かそうではないかという点のみです。

プライベートで自分の車を運転する場合は第一種免許ですが、タクシードライバーとして働く場合には、第二種免許が必要になります。バスや運転代行なども事業目的で運転するので、第二種免許の取得が必須です。

第二種免許を取得するには条件があり、下記の条件を満たせていなければ試験は受けられないので注意しましょう。

【条件】

  • 満21歳以上
  • 第一種免許を取得してから3年が経過している

地理試験の合格

働く地域によっては「地理試験」の取得が義務付けられています。車線の多い道路や交通ルールが複雑な場所でも安全に送迎するため、営業を行う区域内の地理試験を受けます。試験の内容は、道路・交差点の名称やタクシー運転者の心構えや接遇に関することが出題されます。

48都道府県すべての土地で必要なわけではなく、2023年10月時点では東京都・神奈川県・大阪府の一部エリアで取得する必要がある試験です。

【対象地域】

  • 東京都
    23区、三鷹市、武蔵野市
  • 神奈川県
    横浜市、川崎市、横須賀市、三浦市
  • 大阪府
    大阪市、池田市、箕面市、茨木市、高槻市、摂津市、島本町、豊中市、吹田市、東大阪市、八尾氏、守口市、門真市、堺市、高石市、泉大津市、和泉市、忠岡町

タクシー業界へ就職・転職する前に確認しておきたいこと

  • タクシー業界へ就職・転職する前に確認しておきたいこと

    タクシードライバーを目指す前に、自分の運転を見直そう

ここからは、タクシードライバーになる前に確認しておきたい5つのポイントを紹介していきます。

普段の運転方法

自分の普段の運転方法は、必ず確認しておきたい部分です。

  • ついスピードを出しすぎる
  • 青信号に変わったらすぐに発進する
  • 黄色信号で加速する
  • 停止直前で急ブレーキをかける
  • 車間距離が近すぎる
  • 片手でハンドルを握る
  • 運転中に携帯を触る

これらのような運転は、いつ事故を起こしてもおかしくはない危険な運転です。まずはタクシードライバーとして働く前に、丁寧で落ち着いた運転を心がけ、自分に悪いクセがないか確認してみてください。家族や友達を乗せて運転し、危険なところがないか確認してもらうのもよいでしょう。

事故・違反歴や健康状態

これまでの事故・違反歴や健康状態は、必ず確認されます。タクシードライバーは乗客の命を預かる仕事です。事故や交通違反、急な体調不良などで事故を起こることがないよう、無事故・無違反・健康な人のほうが有利です。

過去の運転記録証明書で事故や違反歴は確認できるため、虚偽申告は絶対にしないでください。

タクシードライバーの勤務形態

上述のように、タクシードライバーには昼勤・夜勤・隔日勤務があります。タクシー会社によっては、昼勤・夜勤のみなど、働き方を自由に選べる会社もあるので、会社選びも慎重に行うことをおすすめします。

福利厚生や給与形態

タクシー会社によって、福利厚生や給料形態はさまざまです。

福利厚生が充実している会社は、自分のライフスタイルに合わせて働きやすいため、長く働ける労働環境が整っていると言えます。タクシー会社を決める際には、しっかりとチェックしておくのがおすすめです。

タクシードライバーの給料形態は、3つの方法に分類されています。

  • A型賃金: 基本給+歩合制、賞与など
  • B型賃金: 完全歩合制
  • AB型賃金: A型とB型の中間形態

A型は基本給がもらえるので収入が安定します。B型は完全歩合制なので頑張れば頑張った分だけもらえますが、月によって収入が変動します。

タクシーランク

タクシーランクとは、法人タクシー事業者の安全・サービスなどに関する評価に基づいて定められているランクのことです。法人タクシー事業者の「接客・サービス」「安全・運行管理」「経営姿勢」の各評価項目に「加点措置」を加えた合計評価点数により、タクシー評価委員会において決定されます。

評価 評価点数
優良 76点以上
B 61点以上、76点未満
C 61点未満

タクシーランクが高いタクシーには優良ステッカーが貼ってあり、優良事業者専用の乗り場を持っていることがあります。信頼度の高いタクシーは利用される確率が高く、売り上げにもつながるので、確認しておくことをおすすめします。

タクシードライバーになるメリット

  • タクシードライバーになるメリット

    タクシードライバーは、未経験でも目指せる

ここからは、タクシードライバーになるメリットを紹介していきます。ぜひ、参考にしてください。

未経験でも目指せる

タクシードライバーは、未経験者を積極的に採用しています。研修制度が整っている会社や第二種免許を取得するための費用を負担してくれる会社も増えてきているため、未経験でも安心して目指せます。

社員同士の人間関係に気を遣う必要がない

タクシードライバーは、一日の多くの時間を1人で過ごします。上司や部下などに気を遣わず、自分のペースで働けるのはメリットといえるでしょう。

土地に詳しくなる

近年はカーナビを設置しているタクシーが大半ですが、何度も同じ目的地まで送迎する中で、カーナビでは知り得なかった場所や道路、最短ルートなどがわかり、その土地に詳しくなれます。

残業がない

次のドライバーへの引き継ぎがあるため、タクシードライバーは定時になったら帰社します。毎日定時で帰れるため、プライベートの予定が立てやすいのもメリットでしょう。

残業できる会社もありますが、タクシードライバーの乗車時間は16時間までと法律で決められています。

成果次第で大きく稼げる

タクシードライバーの給料形態は「基本給+歩合給」か「完全歩合制」を採用しているケースが多いです。歩合がもらえる場合には、乗客を乗せた分だけ報酬が増加します。

頑張っていても乗客が増えない日もありますが、粘り強く続けられる人にはメリットとなるでしょう。

年齢不問で働ける

年齢制限がない点もメリットです。40~50代で転職を考えている人や定年退職した後に再就職を希望している人も、タクシードライバーを目指せます。運転ができれば未経験でも働けるので、健康なうちは何歳まででも活躍できる職種と言えるでしょう。

タクシードライバーに向いているのかを確認し目標を明確にしよう

  • タクシードライバーに向いているのかを確認し目標を明確にしよう

    タクシードライバーには、忍耐力とコミュニケーション能力が大事

今回は、タクシードライバーに向いている人の特徴や一日の仕事の流れ、必要なスキルなどを詳しく解説していきました。

タクシードライバーは、年齢制限がなく未経験でも働けるので、目指しやすい職業です。 安全運転ができることのほか、気配りができる人やコミュニケーション能力が高い人などが向いています。

「普通自動車第二種免許」と地域によっては「地理試験」の取得が必要ですが、研修制度が整っていて試験費用を負担してくれる会社もあるので、入社する前に確認しておくと安心です。

タクシードライバーに求められる適性やスキルを理解し、自分に向いている仕事かどうか確認してみてください。