軽自動車販売で人気No.1を独走するホンダ「N-BOX」がモデルチェンジして3代目となった。標準タイプは自然吸気エンジンのみで、カスタムはターボエンジンも選べる。2代目で少し不安があった走行安定性は進化しているのか。両タイプに試乗した正直な感想をお伝えしたい。
カスタムのターボは明確に進化
新型N-BOXは2代目をベースとしながら熟成の度合いを深め、総合性能を向上させたところが特徴だ。乗り心地と操縦安定性を改善し、静粛性を高めた。運転支援などを通じて走行安全性を高める「ホンダセンシング」は全車種で標準装備となっている。
試乗したのは標準車とターボエンジン搭載のカスタムだ。
ターボエンジン車の試乗では、その進化の度合いに驚いた。明らかに走行中の静粛性が高まっている。2代目では街角を曲がっただけでややふらついていた操縦性は改善されていて、車高が1.8m近いスーパーハイトワゴンでありながら走りに安定感がある。やや硬めの乗り心地が安定性に寄与していると思うが、それでいて乗り心地は快適だ。路面の凹凸を乗り越える場面では衝撃を手際よく吸収し、乗員の体に不快な振動を伝えてこない。その様子は見事というしかない。
車体の基本骨格となるプラットフォーム(車台)を2代目から継承しているからこそ、基本性能のよさを追求できていると感じた。何事も修練によって進化するのだ。
ガソリンターボエンジンは動力性能が高いので、余計にエンジン回転を上げることなく目指す速度まで加速することができる。高速道路での本線合流も滑らかだ。エンジンを余計に回さずに済むので、走行中の静粛性も高い水準が保たれる。
ホンダ車のエコモードである「ECON」(イーコン)に設定にすると発進からの出足で少しもたつく印象はあったが、いったん走り出してしまえば、あとはターボチャージャーの過給効果で順調に走れた。無駄なアクセル操作をせず上手に運転できる人なら、ECONに設定しない方が快適に運転できるかもしれない。
標準タイプは静粛性に難あり?
次に自然吸気エンジンの標準車種に試乗した。
エンジンの動力性能が落ちるので、よりエンジン回転を高める走りとなり、ターボエンジン搭載のN-BOXカスタムで実感した静粛性は、標準車種ではあまり印象に残らない。もちろん2代目より改善しているのだろうか、快適といえるまでには至っていなかった。
N-BOXカスタムでは充実していた天井への防音対策が、N-BOXではやや省かれているという。その分、騒音が室内に入りやすくなる。その説明を受けて失望した。エンジン回転数が高くなりがちな標準車種だからこそ、静粛性確保のための装備が必要なのではないか。
ホンダではN-BOXの標準タイプを廉価車種と位置付けており、低価格の実現を重点項目としているという。標準タイプでターボエンジンを選べないのも、価格優先の措置であるようだ。
しかし、標準車とはいえ、N-BOXとN-BOXカスタムでは外観が異なり、上下という価値とは別に、N-BOXの顔つきが好みだという人もいるだろう。安いのだから仕方がないといわれれば、返す言葉もない。しかし、新車購入の大きな動機のひとつとして、外観の好みや外装色の好みがあるのは間違いない。
乗り心地と操縦安定性においても、N-BOXとN-BOXカスタムでは印象が違った。タイヤ寸法の違いによる部分もあるだろう。N-BOXの走りは車体の揺れを意識させ、タイヤの接地感覚も弱まって、安定さに欠ける印象がなくもない。これでは、2代目から乗り換える意味を感じにくいかもしれない。
福祉車両は工夫がたっぷり!
同時発売となった新型N-BOXの福祉車両では、単に後席の位置に車椅子で乗れるという以上の開発がなされている。
ひとつは、車椅子で乗車すると、やや後ろが下がった姿勢となる点だ。背中で体を支えられるので、下肢が不自由な人にとって走行中の疲れが緩和されるという期待がある。
また、車椅子で乗り込む際、スロープとややずれた位置に車椅子がある場合でも、ウインチで引っ張る際に進路を修正してくれるので、安心して乗車できる。ウインチの左右の速さを調節することで、直進するよう調節できるのだという。
実際に車椅子に座ってウインチでの引っ張りを体験してみたが、動き出しはかなり滑らかだった。これなら、車椅子で乗車する人の不安も軽くなるはずだ。降車する際の動き出しや速さも自然でよかった。
ほかにも、重い荷物を車輪の付いた荷箱で乗せるためにウインチを利用し、手軽に車載できる工夫が盛り込まれていた。ウインチを遠隔操作するスイッチを付け替えることで、重い荷物を積み込みやすくしてある。
福祉車両の普通のクルマ化が、福祉車両の普及を促すといわれて久しい。新型N-BOXでの取り組みが、その一助になることを期待したい。
テレスコピック、今回も採用なし!
最後に、新型N-BOXに限らず軽自動車全般にいえることだが、今回もハンドルの前後位置調整機能(テレスコピック)は採用されなかった。
各社が軽自動車や登録車のコンパクト車にテレスコピックを装備しない理由は、衝突安全性確保のための手間(開発時間や原価)がかかったり、企画された商品性を満たせなかったりするためということであるらしい。
しかし、小さなクルマの場合、ペダルとハンドルの位置関係に制約があるので、身長の高い人にとってはペダルが近すぎ、ペダルの踏み損ないや踏み間違いを犯す懸念が高まる。また高齢者も、足の筋肉が衰えたり、足の向きを変える関節の動きが制約を受けたりすることによって、ペダルの踏み損ないや踏み間違いを起こしてしまう懸念がある。
ホンダに限らず、軽自動車を販売する国内自動車メーカーはいずれも、そうした危険性を放置したまま時を無駄に過ごしている。小さなクルマは安いのだからしょうがないと考えているのだろうか? いまや軽自動車は新車販売の約3割を占める存在となっている。その消費者の命の危険や、日々の運転への不安を放置していいのだろうか。軽自動車販売No.1を何年も続けるホンダこそ、軽自動車界のリーダーとして規範を示すべきではないのか。
世のため人のためという志で起業した創業者の本田宗一郎が今そこに居たら、「あす朝までに改善策を考えてくるように」と叱咤激励したのではないか。そうしたクルマづくりの姿勢が、ホンダのブランド力を向上させてきた本質的な価値だったのだと思うのだが……。