NTT東日本 神奈川事業部は、各種災害対策機器を駆使した早期復旧技術の習得とスキルの継承、平準化を図ることを目的とした「通信復旧訓練」を11月2日、神奈川県平塚市のNTT中里ビル敷地内にて実施した。

  • 「通信復旧訓練」は平塚市のNTT中里ビル敷地内で実施された

今回の「通信復旧訓練」は、NTT東日本、NTTME、NTTアノードエナジー、ドコモCSなどNTTグループ各社と連携するほか、新たな取り組みとして、平塚市災害対策本部と連携。NTT東日本のリエゾン隊員が自治体対応動向・要望をヒアリングして、避難所に通信手段を設置する訓練も実施された。

リエゾン隊員とは、災害発生時に各自治体との連絡要員として派遣されるNTT東日本の社員。神奈川県では33自治体に対して、各自治体ごとに約2人、全体でおよそ60人のリエゾン隊員がアサインされており、今回の訓練にも、実際に平塚市を含む西湘地区を担当するリエゾン隊員が参加。また、藤沢市、茅ヶ崎市、二宮町も視察に訪れ、リエゾン訓練の動向を見守っていた。

  • 平塚市災害対策本部にてNTT東日本のリエゾン隊員が動向・要望を把握する「リエゾン隊連絡復旧訓練」の様子

今回の訓練では、バイク隊による「現地映像伝送訓練」や衛生回線を有した災害対策車両で通信エリアを確立する「移動基地局車設置訓練」など様々な訓練が実施された。

■バイク隊
大規模災害時において、四輪車両では交通渋滞により迅速な対応が図れないため、オフロードバイクの活用により、現地調査や物品搬送、社員の安否確認などが行われる。「現地映像伝送訓練」として、バイクに取り付けられたカメラの映像は対策本部のモニターで確認された。

■ドローン
橋梁点検や立ち入り困難箇所での迅速かつ安価な設備点検が可能な「ドローン」による訓練も実施。被災状況を俯瞰的・ピンポイントで確認できるのが大きな特徴となっている。

被災地においては特に通信手段の確保が重要となるため、応急復旧のための通信機器を使用した様々訓練が行われた。

■11P-150M可搬型デジタル無線方式
11GHz帯の無線周波数を使用し、災害時に新同期デジタルインターフェース(STM)またはNGNネットワークの災害時救済を行う。15~20km程度の距離間をカバーできる。

■UMC1000J
自然災害などにより通信ケーブルが切断され、通信が確保できない地域において、伝送手段(無線/光/メタル)に関わらず、多様なサービスを応急復旧できる装置。

■災害用IP系無線装置(SINELINK)
災害により通信の途絶した地域に、ONU~無線ルーター間を無線により伝搬し、光環境の設備から避難所などへブロードバンド環境の提供を行う。無線局免許および無線従事者免許が不要であることから素早い運用が可能。

■TZ-403D形加入者系デジタル無線装置
被災時に、NTT局舎にある無線基地局から数十km離れた複数の無線端末局と通信可能。見通しの取りにくい山間部エリアへの緊急通信への活用や最大1.5Mbpsの通信速度で、音声(アナログ電話)およびIP系サービス(NGN)を提供する。

■ポータブル衛星通信システム(PUE)
自然災害などで通信が途絶した地域に、通信衛星(JCSAT-5A)により通信を確保し、被災地に臨時公衆電話を提供する。1装置あたり、インターネット回線(Web171)1回線、音声通話回線8回線の提供が可能。

■移動基地局車設置訓練
衛星回線を有した災害対策車両で通信エリアを確立。ドコモの災害対策車両には、衛星回線の利用が主力となるが、衛星を利用せず、電波を中継・ブーストする車両もあり、コロナ禍におけるダイヤモンド・プリンセス号のエリア化などに利用された。

■移動電源車
非常用発電機(ENG)設置ビルで停電が発生した場合、蓄電池から電源を供給し、約40秒で自動的にENG給電に切り替わる。ENGが故障した場合やENGのないビルで停電が発生した場合は、移動電源車を出動させ電源供給を行う。

■炊き出し訓練
災害発生時に備えた「炊き出し訓練」も実施された。

■「リエゾン訓練」でお互いの顔がわかる関係性を構築

「指定公共機関として、予期せぬ大規模な災害に備えて、通信ネットワークの信頼性向上、重要通信の確保、サービスの早期復旧を災害対策の基本方針としています」というNTT東日本 神奈川ブロック統括本部 サービス運営部門 災害対策室 室長の馬越学氏。

また、「災害発生時にサービスを早期復旧するため、平時には使用しない災害対策機器を、実際に動かすことによって、人材育成とスキルの平準化などを目的として実施しています」と今回の訓練について紹介する。

  • NTT東日本 神奈川ブロック統括本部 サービス運営部門 災害対策室 室長の馬越学氏

そして、災害発生時において、通信関連だけでなく、それ以外の諸問題についても協力していきたいとの意向から、NTT東日本ではリエゾンを強化。今回の「通信復旧訓練」が平塚市にあるNTT中里ビルで開催されたこともあって、「ぜひ一緒にやりましょう」と平塚市に声を掛けたという。

一方、「災害対策においては顔と顔が見える関係性づくりが非常に重要」という平塚市 災害対策課の杉山正氏。「顔と顔を実際にあわせることで、お互いの強みもわかりますので、このような貴重な機会をいただけたことは非常にありがたい」と感謝の意を伝える。

  • 平塚市 災害対策課の杉山正氏

「リエゾン隊員と自治体が、平時からお互いの顔を見られる関係は大事」と馬越氏も同意。「緊急時に、誰が来るかわからないというのではなく、いつものリエゾン隊員が来てくれたというほうが、その後の復旧作業もスムーズに進むはず」と期待を寄せる。

そして、実際に訓練に参加したことによって、「様々な専門的な訓練を見ることによって、自治体としても大変参考になりましたし、実際に災害が発生した場合、どのようなことがお願いできるのか、どのようなことをやっていただけるのかがわかり、勉強になった」と手応えを感じる杉山氏。「やはり、実際の機器を目の前で見ることができたのが大きい」とあらためて訓練参加の意義を振り返った。

「通信復旧訓練」の今後について、さらに練度を深めていくのはもちろん、「場所の問題もありますが」と前置きしつつ、もっと広い範囲での訓練の必要性を訴える馬越氏。

「NTTの局からもっと離れた場所や、異なる自治体をまたぐなど、現実に近い環境での訓練をしていきたい」とし、リエゾン隊員についても、各自治体とより緊密な関係性を築く必要性から、「この訓練以外にも、各自治体の方との個別の訓練を検討していきたい」との展望を示した。

そして、「今回はNTT東日本さんの訓練の場に、平塚市災害対策本部を設置していただく形で参加させていただきましたが、今度は、平塚市が実施する防災訓練に、リエゾンとして参加していただく形で訓練ができれば」とうなずく杉山氏。「相互の訓練を通して、さらなる防災力の向上ができれば」と、さらに密な関係性が築けることを希望する。

「今や通信はなくてはならないものになっている」という馬越氏。災害対策機器は実際に使用する機会がないことが最善であることを前提としつつ、「私達は指定公共機関として、災害発生時、速やかにサービスを復旧できるよう、これからも訓練を重ねて努力していきたい」と締めくくった。