「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」(主催 : 一般社団法人日本自動車工業会)が10月28日から11月5日まで一般公開される。2019年まで「東京モーターショー」として開催されていたが、今回から自動車業界だけでなく、モビリティの枠を超えて他産業やスタートアップも取り込み、日本の未来を創っていくショーとしてリニューアル。「みんなで一緒に未来を考える場」というコンセプトの下、過去最多の475社が出展した。

  • 「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」にJR東日本も出展。水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」を展示した

東京ビッグサイトを会場として開催され、東展示棟は自動車メーカーを中心に出展。一方、西展示棟1・2ホールで展開される「Tokyo Future Tour」では、自動車業界の枠を超えたオールインダストリーで177社が出展した。鉄道会社であるJR東日本も「LIFE&MOBILITY」エリアに初出展し、水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI(ひばり)」を展示している。

■JR東日本とJMS事務局の思惑が一致、初の鉄道車両展示に

FV-E991系「HYBARI」は、水素を燃料とする燃料電池と、蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両。水素が優れた環境特性を有していることを生かし、脱炭素社会の実現をめざす次世代車両として開発された。

本来は2両編成だが、今回は2号車「FV-E990-1」のみ展示されている。車両は総合車両製作所「sustina」ブランドのステンレス製。エクステリアデザインは、燃料電池の化学反応で水が生み出されることにちなんで青色をベースとしつつ、デジタルをイメージしたデザインを取り入れ、スピード感・未来感を表現している。近くで見ると、白色・水色の細かなドットが散りばめられている。

  • 「HYBARI」外観。2号車「FV-E990-1」のみ展示されている

試験車両でありながら一般営業用車両に近い要素もあり、片側3ドアで、乗降扉の横にドアボタンが設置されている。号車表記に加え、バリアフリーや優先席を表すステッカーも掲出されている。所属表記に横浜支社・鎌倉車両センター中原支所を意味する「横ナハ」が見られるものの、その下に定員数の表記がないところに、試験車両らしさが垣間見える。

試験車両ということで、カーテンが外側からも見えており、客室窓も一般車両とほぼ同じように割り振られている。一般の利用者を乗せることはないが、車内には一般車両と同じようにロングシートが並ぶ。事業用車両であれば、窓が少なくてもおかしくないと思われるが、「HYBARI」の外観はむしろ一般車両に近い。過去の試験車両は車内に大型の機器を設置する必要があったとのことだが、「HYBARI」に関しては各機器類がコンパクトになったため、一般車両に近い車内空間が実現した。

  • 客室窓にはカーテンが備え付けられている

  • 一般営業はしないが、優先席ステッカーも掲出されている

  • 乗降扉とその周囲の様子

  • 「FV-E990-1」の妻面

今回は1両のみ展示されたため、車両の妻面も見ることができる。妻面はブルー系統ではなく、ステンレスの地色がそのまま出ており、左右に銘板や各種表記が掲出されている。なお、貫通扉は塞がれた状態で展示された。

色や用途こそ違うが、車体そのものは宇都宮~烏山間(東北本線・烏山線)で運行しているEV-E301系「ACCUM(アキュム)」によく似ている。JR東日本のブース担当者によれば、当初、「『HYBARI』はバッテリー車両の延長線上にあり、その知見を生かせるのでは」との考えがあったことから、「ACCUM」ベースの車体になったという。

  • 前面・側面ともに「ACCUM」がベースだが、細部は大幅に異なり、運転台窓下にロゴマークも

ただし、システム構成や機器配置などは「ACCUM」とまったくの別物になっている。今回展示された2号車「FV-E990-1」は、床下にトヨタ自動車が開発した燃料電池、屋根上に水素貯蔵ユニットを搭載。その関係で、「FV-E990-1」の屋根は低く設計されている。一方、今回展示されなかった1号車「FV-E991-1」には、主回路用蓄電池(バッテリー)と電力変換装置(コントロールユニット)が搭載されている。

水素の充填は中原支所、鶴見線営業所と扇町駅で行われ、70Mpa・35MPaの2段階で充填される。70MPa充填は航続距離が約140kmと長く、35MPaはその半分だが短時間で充填できる。

  • 「FV-E990-1」の床下に搭載された燃料電池

  • 専用の架台を用意したことで、台車を取り付けたまま鉄道車両を展示できた

「東京モーターショー」から「JAPAN MOBILITY SHOW」にリニューアルしたとはいえ、鉄道車両の展示は初。担当者によると、モビリティの広がりや、水素に関する取組みについて、JR東日本と「JAPAN MOBILITY SHOW」事務局の思惑が一致したという。JR東日本にとっても、鉄道の技術が「新たなステージに向かっている」ことをアピールすべく、出展に至ったとのこと。「JAPAN MOBILITY SHOW」に限らず、一般向けに「HYBARI」を公開するのも今回が初めてとなる。

展示に際して、実車であることにこだわり、「HYBARI」の台車をそのまま使用するために架台を特注。レールに車輪を載せ、動かないように手歯止めで固定している。今回の展示に向けて、「HYBARI」の実車が東京ビッグサイトへ搬入されたことは、SNS等でも話題になった。なお、カーテンは開いた状態だったが、会期中、車内およびライト等は消灯した状態で展示される。

■出展終了後、12月頃から「HYBARI」の試験走行を再開予定

「Tokyo Future Tour」の「LIFE&MOBILITY」エリアでは、「HYBARI」の手前にトヨタ自動車、ヤマハ発動機、本田技研工業の次世代パーソナルモビリティ等が展示され、近未来感を演出している。展示されたモビリティに演者が乗り、水色のカーペット上を周回するショーも行われ、「HYBARI」もその背景として溶け込んでいた。このショーでは、次世代モビリティによるさまざまな人の移動・生活の様子を疑似体験できる。一般公開の期間中、「LIFE&MOBILITY」エリアのショーは30分おきに開催される。

  • 「HYBARI」の手前に、本田技研工業、ヤマハ発動機、トヨタ自動車のパーソナルモビリティが並ぶ

「HYBARI」は2022年3月下旬から、南武線(川崎~登戸間、浜川崎~尻手間)と鶴見線で実証実験を行っている。「JAPAN MOBILITY SHOW」に出展するまで、日中に鶴見線、夜間に南武線で試験走行を実施していた。これは、川崎市、横浜市、神奈川県の3者が水素の施策に先進的に取り組んでいて理解があることと、臨海部が水素の製造・供給を行いやすいことによる。

現時点では、燃費やハイブリッド技術の機能など、データが着々と取れているとのこと。筆者は一度、南武線の支線に乗車した際、「HYBARI」とすれ違ったことがあったが、それ以降、今回の取材まで一度も見る機会がなかった。その間も試験走行は順調に行われていたと推察する。「JAPAN MOBILITY SHOW」での出展終了後、12月頃から試験走行を再開する予定。引き続き南武線・鶴見線を走行するが、スケジュールは未定とのことだった。

「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」は11月5日まで開催。入場料の当日券は3,000円だが、一般入場開始の10時より前に入れる「アーリーエントリー」(3,500円、1日5,000枚限定)や、日曜日以外の16時以降に入場する「アフター4」(1,500円)など、さまざまな設定がある。当日券と「アフター4」は高校生以下が無料で、小学生以下はすべての入場料が無料(「アーリーエントリー」は保護者同伴必須)となる。入場料とは別にコンテンツチケットが必要なイベントもあるほか、モビリティ試乗の際には、試乗条件を守った上で事前予約を行う必要がある。

西展示棟1階「Tokyo Future Tour」では、JR東日本が出展している「LIFE&MOBILITY」エリア以外にも、「EMERGENCY」「PLAY」「FOOD」の計4種類のエリアでモビリティを展示しており、巨大スクリーンによる映像体験も。期間中にイベント公式アプリ「推しモビ図鑑」を利用すると、各展示の解説を見られる。一部体験コンテンツは「推しモビ図鑑」から事前予約を行う必要もある。その他、詳細は「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」公式サイトで確認してほしい。