10月10日、北海道医療大学を運営する東日本学園と、「北海道ボールパーク Fビレッジ」を運営する「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)」、北広島市の3者が、北海道医療大学の移転統合について基本合意した。北海道医療大学の新たなキャンパス予定地は、「エスコンフィールド HOKKAIDO」と北海道ボールパーク駅(仮称)の間に位置する。2025年から工事を開始し、2028年春の駅開業と同時に移転する予定だという。

  • 北海道医療大学の新キャンパス予定地(地理院地図を加工)

本誌は9月30日付の記事「JR北海道、再検討後の“BP新駅”工事費・工期を圧縮 - なぜ可能に?」で、「北海道ボールパーク駅(仮称)」が当初案より北広島側へ200m移動するおもな理由として、建設費の節約であると紹介した。また、「エスコンフィールド HOKKAIDO」にも直行でき、入口に近くなるためでもある。これはJR北海道の報道発表資料をもとにした。

北海道ボールパーク駅(仮称)はスポーツイベント等の集客に依存する駅であり、イベント開催時は折返し臨時列車の増発が必要になる。しかし新駅案は折返し機能を持たず、隣の北広島駅を改良して折返し列車の運用増に対応する。新駅から北広島駅までは回送あるいは乗客が少ないため、駅建設コストは下がっても列車運行コストは増える。これが筆者の見立てだった。しかし、じつはもうひとつ、北海道医療大学新キャンパスの最寄り駅という理由も隠れていた。

■JR北海道に利点は多い

大学が設置されると話は変わってくる。北海道ボールパーク駅(仮称)はイベントに依存しない駅となり、平日は大学関連、休日はイベント関連で集客できる。北広島駅折返し列車は定期列車も増えるだろう。大学生や教員等の大学関係者が北広島駅周辺に住む可能性もある。なるほど、新駅に折返し設備は不要、北広島駅発着のほうがいい。ひょっとしたら、駅の正式名称は「北海道ボールパーク」で、副駅名は「北海道医療大学前」になるかもしれない。

北広島市にとって、新駅案の位置は当初案付近の福祉施設や工業団地より遠くなったが、大学キャンパスに近いほうがずっといい。大学関係者の移住も見込める。蛇足ながら、キャンパス予定地は現在、広大な駐車場になっている。ここを潰すわけだから、スポーツ観戦者の来場も車から列車に移ると予想される。JR北海道にとってもいいことずくめだろう。

地元紙や地元テレビ局の報道によると、「大学移転の検討は数年前から始まっていた」とのこと。2017年頃とみられる。北海道日本ハムファイターズが本拠地の新設を検討した時期は2016年。北広島市の動きは速く、早々に「きたひろしま総合運動公園」の敷地提供と「開閉式屋根付きボールパーク」「商業施設の併設」を提案した。これは米国にみられる「試合がなくても買い物や食事、レジャーを楽しめる」ショッピングモール併設型ボールパークであり、日本にはない「米国式ボールパーク」として話題となった。

北広島市のボールパーク周辺のインフラ整備費の負担、球場と公園施設に対する固定資産税と都市計画税の10年間免除という破格の条件に合意し、2018年に北海道日本ハムファイターズは本拠地を北広島市に移転すると決定する。

おそらく東日本学園もこの時期に提案を受けたと思われる。北海道医療大学は本部の当別キャンパス、札幌あいの里キャンパス、札幌サテライトキャンパス(大学病院含む)の3カ所に分散しており、これを新キャンパスに移転統合する。面積は1万7,000平方メートルの借地、建物の延床面積は約6万5,000平方メートルで、現在の3キャンパス合計の3分の2ほどになるという。

  • 現在3カ所のキャンパス・病院をFビレッジに移転する(地理院地図を加工)

現在、北海道医療大学の学生数は約3,500人、教員数は380人、事務職員は150人、医療職員は107人、その他職員なども含めると、大学関係者は約3,900人になる。このうちの多くが北海道ボールパーク駅(仮称)を利用することになるだろう。

ちなみに、現在の札幌~北海道医療大学間の所要時間は、JR札沼線(学園都市線)で45分前後。運賃は750円。札幌駅から北海道ボールパーク駅(仮称)までの所要時間はJR千歳線の普通列車で20分前後とみられ。運賃は540円。移転後の所要時間は半分以下、運賃は約3割安くなる。

■当別町の困惑と大学の事情

一方で、いま北海道医療大学がある当別町は困惑している。大学の移転方針は9月27日の理事会で決定し、翌28日に当別町へ伝えられた。前出の通り2018年頃から検討が始まっていたはずだが、当別町は9月20日頃に知り、しかも噂だったという。9月22日に北海道新聞が特報記事で報じていた。

当別町は人口約1万5,000人。大学キャンパスに通う学生は約3,300人、つまり人口の5分の1に相当する学生が訪れる。しかも、このうち約900人が当別町に住んでいるという。企業、工場と同じくらいの経済効果を与える存在だろう。学生がいなくなると、アパート経営者は家賃収入がなくなり、飲食店や生活雑貨店などから客がいなくなる。アルバイトの働き手もいなくなる。

ちなみに、筆者が卒業した信州大学には4つのキャンパスがあり、筆者が4年間を過ごした松本キャンパスには約5,000名の学生がいた。この規模になると、学生はその地域の経済にとって重要な存在になる。コンビニの店員も、弁当を買う客も、弁当工場で働く従業員も大学生である。信州大学はバブル経済時に4つのキャンパスを松本市近郊に統合する構想があり、滑走路を備えるというバブリーな内容だった。しかし他の3つのキャンパスが自治体等から反対され、実現しなかった。経済だけでなく、選挙区に1つずつキャンパスがあったことから、政治家の反対もあったという。

これくらい大学の移転は大変なことである。それだけに、転出される当別町にとっては残念な結果となった。当別駅前で計画されていた複合施設の建設も白紙になっている。

北海道医療大学が数年前から移転を検討していたにもかかわらず、当別町への通知は理事会決定の7日前。当別町にとっては「寝耳に水」で、がっかりしたことだろう。しかし大学側としては、移転の方針が早くから決まっていた。当別町に伝えなかった理由は、当別町がもっと良い条件を出そうと身を切るような状況にしたくなかったからだという。開学以来、大学と当別町は長きにわたって協力関係にあった。だからこそ条件比較は当別町に失礼だと大学は考えたはず。札幌市が北海道日本ハムファイターズの移転引止め策を講じ、失敗した例も考慮したかもしれない。

長い付き合いがあったにもかかわらず、北海道医療大学が移転を検討した理由として、18歳人口が減少傾向にあり、学生数獲得が困難になっていることが挙げられる。それは受験者数に現れており、入学志願者は2014年度の6,949人に対し、2023年度は4,082人。約41%減となった。これは全国的な傾向でもあり、全国にある私立大学約600校のうち、半数は入学者が定員割れ、3分の1が赤字になっている。ほとんどの大学で学生獲得競争が始まり、もう地元と長年の付き合いなどと言っていられない状態になった。札幌からもっと便利で通いやすく、ボールパークというレジャー・エンターテイメント施設もある場所は、学生獲得にとって魅力的だろう。

■北海道医療大学駅は改名して存続へ

鉄道ファンとしては、北海道医療大学駅と、札沼線(学園都市線)当別~北海道医療大学間の存続が気になる。JR北海道は2016年に北海道医療大学~新十津川間を「当社単独では維持することが困難な線区」に指定し、2020年5月に廃止した。北海道医療大学があったからこそ、北海道医療大学駅が終点になったといえる。もし北海道医療大学がなければ、当別町の中心である当別駅が終点になったと思われる。

北海道医療大学駅は、その名の通り北海道医療大学と一心同体だった。駅の開設は1981(昭和56)年。当時は「大学前仮乗降場」といって、東日本学園大学関係者のために便宜的に停車していた。翌年、東日本学園大学の請願によって昇格し、「大学前駅」になった。1994(平成6)年に駅とキャンパスを結ぶ通路「スカイウェイ」を設置。1995(平成7)年に「北海道医療大学駅」へと改称され、折返し列車用ホームを増設した。2012(平成24)年にこの駅まで電化された。コロナ禍前までの平均乗車人員は2,300人を超えており、札沼線(学園都市線)は札幌方面の通勤通学利用者と北海道医療大学などの利用者に支えられている。

JR北海道の綿貫社長は10月12日の記者会見で、大学移転時に合わせて北海道医療大学駅を改名すると語った。大学がない駅の駅名に大学名を使用すると混乱を招くという配慮だろう。札沼線(学園都市線)の一部区間廃止などについては、跡地に集客できる施設ができるかどうか見極めたいという考えを示した。ホーム増設、電化など、お金をかけた施設でもある。廃止はもったいない。

北海道医療大学は、移転後も現キャンパスの薬草園とグラウンドなどを残す方針とのこと。それ以外の土地を売却する場合、当別町と協議することなどを当別町に伝えている。大学は転出してしまうが、札幌から40分圏内で駅前の広大な土地を活用できることは魅力的かもしれない。住宅開発やレジャー施設、あるいは企業の研究施設などに有利なはず。鉄道利用者が見込める施設ができれば、JR北海道はこの駅と北海道ボールパーク駅(仮称)という収益源を得られる。

大学移転までの5年間で、跡地利用はどんな形になるだろう。当別町にとってもJR北海道にとっても、じつはチャンス到来かもしれない。