それはちょっとわからない

先手番と後手番の勝率の開きについての話です。将棋は先手番がやや有利とされているゲームですが、藤井先生の先手番の勝率は群を抜いています。

以下のやり取りをご覧ください。

――藤井先生は勝率が先後で1割違います。そのことについて、ご自身ではどのように考えていますか?

藤井「(表を見て)本当にぴったり1割なんですね(笑)。私自身の成績としてはおそらく、2021年以降に先手番と後手番の勝率の差が大きくなっていると思います。それまではそれほど差がついてなかったはずなんですけど、それは棋界全体として定跡が進化することで、先手番の有利さが可視化される展開が多くなってきたということなのかと思っています」

先手の勝率が後手より高いのは藤井先生だけではなく、将棋界全体のトレンドでもあると。

――これから先は、どんどん差が開いていくのでしょうか。

藤井「いや、それはちょっと、わからないです」

この答えには若干意表を突かれました。自然な会話の流れに逆らっているように感じたので、ここには藤井先生の意図がありそうです。
なぜ藤井先生はこのような回答をされたのか?いろいろ考えてたどり着いた私の結論は

「藤井先生は先後ともに勝率10割を目指しているから」です。

皆さんご存じの通り、現在藤井先生は先手番でほぼ負けなしの状態です。
そして常々「後手番での戦い方が自分の課題」だと言っています。

先後の勝率が離れていく、ということは先手番の勝率が10割に近づく、という意味もありますが、後手番の勝率が下がるということでもあります。いくら将棋界全体のトレンドだからといって、藤井先生がそれをよしとするはずがありません。

課題を克服して後手番の勝率が上がっていけば、最終的に勝率は先後ともに10割となり、差はなくなります。
藤井先生は「後手番だから負けてもしょうがない」みたいなことはこれっぽっちも思ってない。
目指すは全戦全勝、しかもいい内容での全戦全勝です。

「いや、それはちょっと、わからないです」という控えめな回答に、藤井先生の意志が宿っている気がしました。

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  • 藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ります

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