鉄道博物館は、「大機関車展 ~日本の鉄道を引っぱった勇者たち~」を10月14日から開催。国鉄の電気機関車(EL)・ディーゼル機関車(DL)を中心に、貴重な写真と資料で活躍を振り返る企画展となる。開催前日の10月13日、報道関係者向けの内覧会が行われた。

  • 鉄道博物館の企画展「大機関車展」は2024年1月29日まで開催。会場の出入口に寝台特急「北斗星」のヘッドマーク(実物)とEF81形81号機の実物大パネルを設置

「大機関車展」は鉄道博物館の本館2階「スペシャルギャラリー1」を会場に開催。出入口には、寝台特急「北斗星」のヘッドマーク(実物)を掲出したEF81形81号機の実物大パネルが設置されている。同機は1985(昭和60)年の「つくば科学万博」開催時にお召し列車を牽引した実績があり、現在も「カシオペア紀行」の牽引で使用されることがある。もちろんパネルの前で記念撮影もできる。

鉄道博物館では、昨年10月末からEF58形61号機「ロイヤルエンジン」の常設展示を開始。以来、機関車に関心を持つ人が多いという。そこで、展示開始から約1年が経過するこのタイミングで、機関車が鉄道の主役を担っていた時代を振り返るべく、企画展を開催するに至ったとのこと。今回は蒸気機関車よりも、国鉄・JRの電気機関車とディーゼル機関車に比重を置いた展示となる。

学芸員の解説を参考に、少しずつ展示内容を紹介しよう。ギャラリーに入って最初の展示は、第1章「機関車から電車・気動車へ」。1872(明治5)年の鉄道開業以降、日本では機関車を使用して客車を牽引する「動力集中方式」での鉄道運行が行われていた。1960年代後半から現在に至るまで、電車・気動車のように、動力を複数の車両に分散させ、重量を平均化する「動力分散方式」の鉄道が主体となっている。

第1章では、このような鉄道の運転方式の変遷に加え、蒸気機関車、電気機関車、ディーゼル機関車のエネルギー効率や運用面の特徴などを紹介している。なぜ「動力分散方式」が主体となったのか、蒸気機関車から電気機関車およびディーゼル機関車に置き換えられることで、運用面やエネルギー効率などにどのような変化があったのか。詳細に解説されている。

  • 機関車から電車・気動車への移り変わりと、さまざまな機関車を資料とともに紹介

続いて第2章「国鉄の機関車」。蒸気機関車に関しては、鉄道創業期に輸入された1号機関車から、日本の蒸気機関車の到達点となったC62形まで、さまざまな形式を紹介している。

電気機関車の実用化は明治末期に行われ、大正期以降に本格化する。当初は海外からサンプルを輸入し、国産化に最適な条件を比較。それをもとに電気機関車の国産化が始まった。最初は東京周辺や関西地区で直流電化が進められたが、戦時中は陸軍の反対があったため、本格的な電化は戦後になった。戦後は交流電化も実用化され、その技術が新幹線にも発展していく。戦前から戦後まで、直流電気機関車・交流電気機関車ともにさまざまな車両を写真と解説で紹介している。

  • 資料やヘッドマークなども展示

  • ED75形の教習用運転台

  • よく見ると灰皿が設置されている

パネルでの解説以外にも、当時の貴重な資料や実物の展示も行われる。電気機関車のコーナーでは、一ノ関運輸区で保管されていたED75形の教習用運転台も展示。教習用とはいえ、実物と同じ部品で同じように作られており、よく見ると灰皿も備え付けられている。禁煙が当たり前となっている昨今、当時をしのばせる貴重な要素かもしれない。

今回初めて公開される資料のひとつに、EF55形の「電気機関車履歴簿」がある。形式ごとにそれぞれのデータや状況を細かくまとめた履歴簿の中でも、今回展示されるEF55形の履歴簿には、1945(昭和20)年の沼津機関区留置中に受けた銃撃の被害状況も記録されているという。実車は本館1階「車両ステーション」に展示されており、運転室内の天井に残る銃撃痕が、見づらいながらも車外から確認出来る。あわせて見てみると良いだろう。

  • 電気機関車に関連するさまざまな資料

  • EF55形は本館1階「車両ステーション」に展示されている

  • 写真の奥、白い矢印の先を見てみると…

電気機関車の次にディーゼル機関車についても紹介している。電化は地上設備に費用を要するため、国鉄は地方路線やローカル線にディーゼル機関車を導入するようになった。当初は外国製のエンジンを使用した電気式ディーゼル機関車が開発されたものの、最終的にはDD51形のような国産エンジン・変速機のディーゼル機関車が実用化され、蒸気機関車を置き換えていった。さまざまなディーゼル機関車の写真と資料がこのコーナーで展示されている。

とくにDD51形が登場した当時、日本ではSLブームが起こっていたために、それを淘汰していく立場にあった同機関車は多くの人々から悪者扱いされたという。しかし、現在はそのDD51形も大幅に数を減らし、見られる機会が少なくなっている。同機に関する写真も多数展示されているので、会場でぜひ確かめてみてほしい。ちなみに筆者は、この取材の数日前、個人的に湖西線・北陸本線を旅行した際、偶然にも芦原温泉駅付近でDD51形を目撃した。

  • 順路を進むとディーゼル機関車のコーナーがある

  • DD53形の前面貫通扉

  • 図面やナンバープレートなども

第3章は「機関車黄金時代」。各地の旅客列車と貨物列車の先頭に機関車が立っていた時代について、写真を中心に振り返る。蒸気機関車、電気機関車、ディーゼル機関車がそれぞれ並ぶ姿や、長編成の客車・貨車を牽引または後押しする様子、山越えに挑む雄姿などが多数紹介されている。

続く第4章は、「今を生きる機関車」として、JR各社に現存する機関車の姿を紹介する。このコーナーでは、昨年末から今年6月まで、「SLばんえつ物語」で先頭に立つ蒸気機関車C57形を大宮総合車両センターで全般検査した様子も動画で上映している。上映時間は20分程度。蒸気機関車が当たり前に存在した時代と比べて、数年に一度しか行われないことに加え、部品が一点物になるため、時間を要するという。しかし、折々に撮影を行ったため、珍しい映像が撮れているとのこと。

  • 機関車の全盛期から、現代に残る車両を特集。EF58形61号機専門のコーナーも

第5章は、1階に常設展示されているEF58形61号機専門でコーナーを組み、パネルで解説と写真展示を行う。EF58形61号機の解説とあわせ、過去に同機とともにお召し列車の牽引を行っていたEF58形60号機のナンバープレートもこのコーナーで展示される。

側面のナンバープレートはもともと鉄道博物館で保管していたが、前面のナンバーは大宮工場(当時)での解体時に切り取られ、大宮総合車両センターに保存されていたという。今回、この展示のために前面ナンバーが貸し出された。ナンバーのみとはいえ、60号機・61号機がそろうのは40年ぶりとのこと。

  • EF58形61号機に掲出された「サロンエクスプレス東京」ヘッドマーク

  • 同じくお召し列車牽引機だったEF58形60号機のナンバープレートも

  • EF58形61号機は本館1階で常設展示されている

最後は第6章「ナンバープレート・模型大全」。鉄道博物館が所有する15分の1模型とナンバープレートをこのコーナーにまとめた。たとえば、関門トンネル専用機であるEF10形24号機や、プレートの文字と縁にステンレスを使用したEF58形51号機など、珍しいナンバープレートが多数展示されている。一部のナンバープレートは大宮総合車両センターから貸し出されたもので、今回が初展示となるナンバーもあるという。

15分の1模型は交通博物館時代に製作され、細部まで作り込まれている。一部の模型は車内がわかるように作られているところもポイントだ。

当記事で紹介した内容はほんの少しだが、さまざまな種類の電気機関車とディーゼル機関車、それらに関する歴史的背景、各々の活躍の様子など、実物・資料・写真を交えて詳細に特集されている。展示の全貌はぜひ会場で確かめてほしい。

  • 最後にナンバープレートと模型を見学。一部車両は車内がわかるように製作されている

「大機関車展」は2024年1月29日まで開催。鉄道博物館自体の入館料のみで見学できる。この企画展開催に合わせ、10月28日と12月9日の各日13時から14時30分まで、担当学芸員によるガイドツアーも開催予定。11月5日の14時~15時には、本館2階「スペシャルギャラリー」前にて、約50年ぶりに製作した大型機関車模型が公開され、その後は企画展の会場に展示される。

常設展示のEF58形61号機も、自身にゆかりのあるヘッドマークが掲出される予定。10月30日まで「つばめ」ヘッドマークを掲出している。11月1~20日、11月22日から12月11日まで、12月13~28日のヘッドマーク掲出については、鉄道博物館の公式サイトおよびSNS等で順次発表予定。12月24・25日の12時からEF58形61号機の汽笛吹鳴を実施(予定)するほか、年明けの1月2日から3月31日までお召し飾りも掲出予定となっている。