「クラシック」が生まれる瞬間| リシャール・ミルが紡ぐ冒険とは

「腕に着けるF1マシン」であり、スポーツ時計として最先端の粋を集めたハイテクの塊。リシャール・ミルはなぜ、ヒストリックカーの祭典「ル・マン クラシック」に続いて自らの名を冠したヴィンテージ・ヨットのレースを催すに至ったのか? その感覚を繙く。

【画像】リシャール・ミルがサポートする陸と海のクラシックイベント(写真10点)

効率だけが美学ではないレース

リシャール・ミルの数々のタイムピースが、素材や加工といった基礎研究レベルから最先端の知見や成果を用い、エクストリームなパフォーマンスを可能ならしめる究極の機械式スポーツ時計であることに異論の余地はないだろう。2023年の6月中旬から2週間にわたって、英仏海峡を舞台に1939年以前に建造されたヨットによるレース、第1回「リシャール・ミル カップ」が競われた。そして6月末から7月1週目の週末にかけては、初回からリシャール・ミルが深く関わって来た第11回「ル・マン クラシック」が開催された。余談ながら、後者は、23万5000人という観客動員数の新記録を打ち立てた。

なぜ、かくも先進的な時計であるリシャール・ミルが、陸の上でも海の上でも旧いヴィンテージな乗り物を操り、走らせるイベントをサポートし続けるか? じつはそれは、懐古趣味のみに支えられたスポンサーシップからは、ほど遠いものだ。

今回、新たに始まったリシャール・ミル カップへの参加資格は、喫水線が10m以上というサイズ条件に加え、1939年以前に建造されたヨットか、その造りを忠実に再現したレプリカ艇に認められる。いわばテクノロジー上、第二次大戦以前という時代に対して「コンテンポラリー(同時代的)」であることが必須だ。ル・マン クラシックの出走条件も原則は同じで、数年ごとの年式で輪切りにされた各クラスは、時間的にコンテンポラリーなひとまとまりといえる。また、フランスのヒストリックカー・オークションでは、ル・マン クラシック出場の条件を満たしている車のみ、競売の際にelisible(選ばれうる)という一言が添えられる。それほどまでにヒストリックカーの価値の一部と認められているのだ。

伝統はしばしば、革新の積み重ねであると言われるが、ひとつの時代における最高のアイディアやテクノロジーの粋を尽くした「コンテンポラリー・ベスト」こそが、当然、後々のヴィンテージに繋がっていく。

もちろん時代が進めばテクノロジーも進化し、より最新の技術で昔のものを、より良くより速く、より容易にすることは可能なはずだ。しかしそれこそが、競技者たちに「誠実さの試練」を課すところでもある。安全性に関わるところ以外、例えばヒストリックカーでいえば、ポイント点火をCDI点火に替えるのは認められないし、ヨットでいえば真鍮やウッドのパーツをカーボンに換えたら意味がない、そういう話だ。エントラントには、愛車や愛艇とともにひとつの時代を選んだ以上、その時代特有の文脈や背景、技術的なリミットを想像し、挑むことが問われている。

つまりリシャール・ミルが支え続けているのは、テクニカル的には制限を課しているようで、じつは時間の流れを自由に行き来するための人間的な冒険であり、それこそ積み重ねられた情熱の所産が輝く瞬間でもある。効率を追求するだけが楽しむための目的あるいは美学ならば、ただ直線的に未来へ流れていく時間を生きればいいのであって、ヨットにも車にも、クラシックであることにも、こだわる必要はないのだ。

RM 72-01 Le Mans Classic

第11回開催の記念モデルは、ル・マン クラシックのイメージカラーをユニセックスなツートンに。ムーブメント:自社製キャリバーCRMC1/ケースサイズ:38.40 × 47.34 × 11.68mm/ケース:グリーンクオーツTPT./ケースバック:ホワイトクオーツTPT.、グリーンクオーツTPT./ストラップ:ラバーストラップ/パワーリザーブ:約50時間/防水性:30m/世界限定150本/価格4873万円

リシャールミルジャパン

TEL 03-5511-1555

www.richardmille.com/

文:南陽一浩 写真:Mathieu BONNEVIE D.R.2023

Words:Kazuhiro NANYO Photography:Mathieu BONNEVIE D.R.2023