舞台『刀剣乱舞』陸奥守吉行役や『鬼滅の刃』猗窩座役、『鋼の錬金術師』ロイ・マスタング役など、2.5次元作品を中心に活躍している俳優の蒼木陣。今年デビュー10周年を迎え、それを記念したソロ公演も7月に成功させた蒼木にインタビューし、10周年を振り返るとともに、今後について語ってもらった。

  • 蒼木陣

    蒼木陣 撮影:奥西淳二

■20代後半になってから「オーディションに落ちてもへこまなくなった」

――10周年を迎えた心境からお聞かせください。

「もう10年経ったのか」と思いましたが、10周年記念公演ができたことでより実感しました。先が見えない仕事なので、10年も役者を続けられているのかわからなかったですが、気づいたらいろんな人や仕事と出会えて、知らないところで大きくなれていたんだなと。公演をこれだけ楽しみにしてくださるお客様がいるという、10年前と現在地が違っていることに、喜べたし感謝もできたし、そんな機会でした。

――10年前の駆け出しの頃はどんな日々でしたか?

この何年かでお仕事のお話をいただく機会も増えましたが、最初フリーの期間が半年ぐらいあって、その頃は生活もできてなかったので、よく続けられなと。金銭的に余裕がないって一番苦しいんだなと思いました。家賃が払えず、バイト先の料理長にお金を貸してもらったり。でも、今思うとそういう期間があってよかったなと思います。

――当時の経験がその後に生きたということでしょうか。

きっと苦しい経験をしたから、人に優しくなれたのかなと。同じように苦しい状況の中で頑張っている後輩を見ると、昔の自分と重ねて応援したい気持ちになりますし、すんなり行かなくてよかったです。実は上京してすぐ「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」を受けて2次くらいで落ちましたが、当時勘違いしていて「絶対受かるわ」と思っていたので、すごくショックでした。でも、芸能界の厳しさを知り、そこから地道にやってこられたので、落ちてよかったなと思っています。

――とても大事な挫折に。

そうですね。気づけばずっと挫折していますが、ターニングポイントがたくさんあって、現場現場で厳しい言葉をかけてくれる方たちと出会えたから、変わっていくことができたんだろうなと思います。

――「ずっと挫折している」とのことですが、その後はどんな挫折がありましたか?

挫折というと大げさかもしれませんが、オーディションに落ちるのも苦しさがあります。オーディションのために時間をかけて役について調べ、2.5次元作品だとアニメも漫画も全部見て、それで落ちると、準備した時間がある分、落ち込みます。

――それを毎回乗り越えながら、役をつかんでこられたわけですね。

でも、20代後半になってからはオーディションに落ちてもへこまなくなり、タイミングが違ったんだなと思えるようになったのは大きな変化だなと思っています。昔は絶望していたけど、最近は「今出会うべきタイミングじゃないんだな」と思えるようになりました。その作品の監督さんや演出家さんとは、また違う機会にご一緒できるんだろうなと思えるようになったのは31歳の余裕かなと(笑)

  • 蒼木陣

■『プリンス・オブ・ストライド』『刀剣乱舞』での出会いが大きな転機に

――先ほど「ターニングポイントがたくさんあった」とおっしゃっていましたが、この10年で特に大きかったなと感じているターニングポイントを教えてください。

たくさんありますが、『刀剣乱舞』で演出の末満(健一)さんや陸奥守吉行という役と出会えたこと、そして、「維伝 朧の志士たち」で初めて単独で座長を務めさせてもらった経験が一番の大きなターニングポイントかなと思います。もう少し遡って20代前半だと、演出家の松崎史也さんとの出会いは大きなターニングポイントになりました。

――松崎さんとの出会いでどう変わりましたか?

トリプル主演という形で入らせてもらった『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』で松崎さんが演出してくださったのですが、役者としてのあり方や、お芝居との向き合い方など、あえて厳しい言葉を選んで伝えてくださいました。いろんな価値観を長い期間かけて学ぶことができ、役者として続けていきたいと改めて覚悟が決まった出会いになりました。

――大切にしている松崎さんの言葉がありましたら教えてください。

コップに例えて話してくださったのですが、作品のために一生懸命もがいて、いろんな感情を伝えようと頑張って、それがコップに溜まっていって、背伸びして限界を超えた、コップから少しあふれたところがお客さんに届くところなんだと。だからそれまでは精一杯もがかなきゃダメだと言ってくださったのはとても印象深かったです。現状に満足せず常にもう一歩先に向かいたいと思えるきっかけになった言葉で、今でも大切にしています。

――『刀剣乱舞』はご自身にとってどんな経験に?

『刀剣乱舞』はたくさんの先輩方がずっと戦って引っ張ってこられていて、そんな大きな作品の座長を20代後半の僕が務めるというのはハードルが高かったですが、演出の末満さんがたくさん厳しい言葉をくださって、もがきながら座組のみんなと一緒に駆け抜けた日々は一番の宝物になっています。この間、『刀剣乱舞』七周年感謝祭がありましたが、「維伝」の座組のメンバーと会ったときの安心感、ともに63公演を駆け抜けたからできた絆があるなと感じられた感謝祭で、ずっと忘れられない作品なんだろうなと思っています。

――特別な作品であり続けているんですね。

本当に奇跡のカンパニーだと思っています。脚本、演出、キャスト、スタッフさん方、すべてが面白くてやりがいがあると思える座組はなかなか出会えるものではないと思うので、「維伝」はいつまでも忘れられない作品になると思います。

――末満さんの言葉で一番印象に残っているものを教えてください。

とんでもない数の厳しい言葉を連日かけていただいたのですが、そんな末満さんが、初日の公演が終わったときに「よう頑張ったな」と言ってくださって、ぶわ~っと涙が止まらなかったです。