――大賞受賞後、仕事面はどう変わりましたか?
岩橋:関西ローカルの仕事が入ったり、オーディションに受からないと出られなかった漫才番組にノーオーディションで出られたり。東京でも感じますが特に関西で感じます。出番が後ろになったり、周りからの見え方が変わったのかなと思います。
兼光:NGK(なんばグランド花月)だと「『上方漫才大賞』大賞」と出るので、それがうれしいです。お客さんの反応も今までと少し違って、ざわついてもらっているなと感じます。
――今後ずっとつけられる称号を手に。
岩橋:そうなんですよ! 関西の師匠方やNGKの支配人から「いずれNGKのトリを取らないとダメな芸人だから頑張れ」と激励していただいていますが、その上で必要な賞だったみたいで、「値打ちあります」と言ってもらえてうれしかったです。
兼光:大阪のいろんな知り合いから「ほんますごいな」と言ってもらい、「すごい賞なんや」と、そこでも感じました。
■岩橋、自分のボケの理想像を兼光に押し付けていたことを反省
――ここにたどり着くまでに、岩橋さんは解散を考えたこともあったそうですね。
岩橋:そうなんです。僕は子供の頃から人を笑かすのが大好きな人間でしたが、ボケとツッコミをどうするかというときに彼が「俺はツッコまれへん」と言ったので、僕がツッコミに。でも、自分のボケの理想像があるから、それを彼に落とし込もうとしてうまくいかず「もう無理やな」と解散を考えた時期がありました。喧嘩もけっこうしていましたし。最近になって、僕を兼光にコピーするのは間違いだと気づき、彼の弱点だと思っていたところが武器だと思えるようになりました。
――兼光さんの武器であるモノマネを生かしたり、兼光さんらしさを大切にするように?
岩橋:そうです。得意のモノマネをどんどんやってもらって、それ以外は別にいいなと。そして、僕がツッコミで笑いを取ってもいいし、型にハマる必要は一切ないと気づき、変えてからよりウケるようになりましたし、大賞もいただけて、間違ってなかったなと思いました。
――そういう風に変わってから兼光さんもやりやすさや楽しさは増しましたか?
兼光:「そのままでいい」と言ってくれたので、気が楽になりましたし、やりやすくなりました。昔に比べたらのびのびと。
岩橋:以前は、単独ライブの直前まで「あそこはこう!」「なんでできへんのや!」とか言っていて、その単独めっちゃスベッたんです。(兼光の)表情もカチコチで、ほわっとした良さを全部殺してしまって。その当時の僕は気づかなくて、反省しています。
■「大賞をもらってなかったら解散していたかもしれない」
――喧嘩も多かったということですが、コンビの関係性もよくなってきたのでは?
岩橋:そうですね。喧嘩も減りましたし、お互いがいなかったら大賞はいただけていないですし、大事なパートナーという感じに変わっていった気がします。しゃべり方も丸くなって、世間話もするようになるし、大賞が落ち着かしてくれました。
兼光:お互いリスペクトし合って、いい方向に向かっているなと思います。でも、大賞をもらってなかったら、ほんまに解散していたかもしれないです。
岩橋:ほんまにそうですね。悪い空気感がそう遠くない昔もあったので。周りはどんどん活躍して自分たちは何の賞ももらえないというのが続いていたら、フラストレーションがさらに溜まって、解散していた可能性はほんまにあります。大賞がつなぎ止めてくれました。大賞をもらう直前に、俺本気で「芸人辞める」って言っていたよね?
兼光:そうだよ。大賞が決まる数日前まで。
岩橋:芸人辞めて大阪に帰って自分の好きなことをして生きていくと決めて、「6月いっぱいで引退する。それ以上はスケジュール入れないでください」というところまで話していました。いろんな人が止めてくれたというのもありますが、信号待ちをしているときに「辞めたらあかん」というのがふわっと感覚として来て、やっぱ続けようと。そうしたら、大賞受賞の電話がかかってきて号泣しました。食い止めようとしてくれていた先輩のテンダラー・浜本(広晃)も涙ぐんでくれて、「漫才の神様がおんねんな」と言ってくれました。
――兼光さんは、辞めると言われたときにどう思いましたか?
兼光:「ほんまに辞めるわ」って本気の感じだったので、何を言っても響かないだろうし、そっとしておこうと。ピンでローンをどうやって返そうかなとか、いろいろ考えました。
――そこから一転、続けると言われたときは?
兼光:「ふざけるな」と思いましたけど(笑)、ほっとしました。よかったです。
岩橋:昔からいろんな人を振り回して申し訳ないなと。でも、そこから大賞をいただくは、グリーン車になるわ、相方にも先輩にも吉本にも、もう感謝しかないです。「テレビに出たい」という思いがずっと強かったですが、漫才で地肩・地盤を固めていく大事さを感じました。もう大丈夫です。
――今後はもう、辞めるという選択肢はなさそうですか?
岩橋:ないですね。こんなおいしい仕事、辞めたらあきまへん! ここまで来られたんだから、辞めたらあかんなと。漫才を中心にずっと続けていきたいと思います。
――兼光さんも安心ですね。
兼光:いや、わかんないです。いきなり「俺辞めるわ」って言いだすかもわからない(笑)
岩橋:いやいや、グリーン車のあの寝心地を味わったらやめられへん(笑)