昨今、食料や光熱費といった生活必需品の高騰がたびたび問題となっている。マイナビ世界子ども教育財団(マイナビ財団)では、経済的不安を抱える家庭への食糧支援として「子ども応援! マイナビ財団食料ボックス(食料ボックス)」の配布を2021年より行っているという。
「食料ボックス」には、お菓子やお米、また栄養を考えた商品とメッセージが詰められている。今回、取り組みに参加した家庭と、「食料ボックス」で送られた米を手掛けた石川県・たけもと農場と茨城県・横田農場との交流会が開催された。
オンライン形式で9月15日に実施された今回の交流会には、たけもと農場の竹本彰吾さんと横田農場の横田祥さんが参加。「次世代に繋げる農と食」をテーマに、「食料ボックス」の取り組みや、農業という仕事の魅力についてトークした。
食糧支援活動「食料ボックス」とは?
マイナビでは、2005年より当期純利益の1%を「世界の子供教育基金」として積み立てている。2016年にはその基金をもとに、教育を受けられない国内外の子どもたちへ教育や就労機会の提供を行うための「マイナビ財団」が設立された。
マイナビ財団が国内で行う取り組みのひとつが、食糧支援活動「食料ボックス」だ。高校に進学して児童手当の支給がなくなるタイミングや、夏休み・冬休みなど学校給食がなくなって家計への負担が高まる時期、経済的不安を抱える家庭の中学生・高校生を対象に少しでも寄り添いたいと実施しており、これまで計6回、累計3,023名に届けている。
「食料ボックス」には、過去に受け取った保護者の方からの「お菓子を買ってあげられない」「お菓子を買う余裕がない」という声から、中学生がもらって嬉しいお菓子や季節のデザート、また主食に欠かせないお米などが同封されている。入学の時期にはプチギフト、クリスマス・お正月にはホットケーキミックスや切り餅など、季節を楽しめる食品を選定することも。
そして食料だけでなく、寄り添いの気持ちを伝えたいと、マイナビ財団からの手紙やマイナビ社員、お米農家の方からのメッセージや、今後役立つ可能性のある奨学金や支援窓口の一覧を記載した資料も同封している。
夏休み時期の今年8月上旬には、8都府県約1000名の中学2・3年生に配布を行った。今回は、農業関係者などに向けた情報発信を行うWebメディア「マイナビ農業」の協力のもと、農林水産に関する表彰の中でも誉高い「天皇杯」受賞歴を持つ農家である石川県・たけもと農場と茨城県・横田農場のお米5キロを含む食料が各家庭へと配布された。
今回の交流会には今年8月末に「食料ボックス」が配布された家庭の保護者や中学生らが参加、たけもと農場の竹本彰吾さんと横田農場の横田祥さんとともに、食べ物を作る側、食べる側双方の意見を交わした。
9代目の父が伝えた“将来の仕事選び”の教え
青いTシャツがトレードマークの、たけもと農場 代表取締役の竹本彰吾さん。石川県能美市で江戸時代から続く米農家の10代目で、全国の若手農家で組織される4Hクラブ(農業青年クラブ)会長も歴任した経験も。現在は家族を含む従業員とともに米づくりを行っている。
「たけもと農場は若いメンバーが多いことが特徴で、女性も働いています。農家の出身ではないけど農業をしたいという人は全国にたくさんいて、そうした方々が働いてくれていますね。『農家と消費者の皆さんとの距離がだんだん離れている』と最近よく言われていますが、この『食料ボックス』を通じて、農家やお米づくりについて少しでも知ってもらうことで、その距離が縮まればいいなと思っています」と竹本さん。
「初めて夫の実家の田んぼを訪れたとき、関東平野の一面に広がる田んぼと、そこから眺める朝日や夕日の美しさに心を打たれました」と話すのは、茨城県龍ヶ崎市にある横田農場の横田祥さん。横田農場は800年以上の歴史のあるお米農家で、現在は169ヘクタールの田んぼで米を育てている。「お米が好きすぎる農家」として、米作りの大変さと楽しさを語った。
「やっぱり重いものを持ったり、かがんだりする作業は大変ですし、農業は全てそうだと思いますが、自然に左右されるところもあります。逆に楽しいところは亀やザリガニ、カエル・おたまじゃくし、コウノトリ、カモといった生き物がいっぱいいることですね。初めて田んぼに来た時は驚きました。また空がとても広くて綺麗で。とくに春の水を張った田んぼに空が映ると、ウユニ塩湖みたいに空の中にいるような気持ちになれて最高です」
農家になった経緯について竹本さんは、「僕は米農家の10代目ですが、実際に農家になると決めたのは高3の時です。家でダラダラしていたら親父に仏間へ手招きされて。石川県って仏壇にお金かける地域柄なんですけど、そんな派手な仏壇の前で父が札束を出して、『農家は儲からないイメージを持っとるかもしれんが、もらっとるもんはもらっとるぞ』と、プレゼンを始めたんです」と振り返り、次のように続けた。
「『たけもと農場にはお客さんや地主さん、JAさん、近所の集落の人たち、農家仲間といったいろんな人が関わっていて、その人たちから寄せられる期待や注目に応えることが仕事であり、農業やと俺は思っとる』『将来の仕事を考えるときは、給料や休日に注目しがちやけど、その仕事を通じてどれだけの期待に応えられるかを考えたらいい』と言われ、その場で後を継ぐことを約束しました」
一方、横田さんは「たまたま結婚した人が米農家の長男だった」とのことだが、「今の時代、別に農家に嫁いだからって周りから『農業しなさい』と言われることもないし、違うお仕事されている人も実際たくさんいます。私も別に農業やらなくてもよかったんですが、田んぼの広がる景色はめちゃくちゃ綺麗だし、生き物がいっぱいいて楽しいし。会社でデスクワークするより自分に合っているなと」とも述べていた。
どんな経験や学びも、きっと農業で役立つ
また横田さんは、“AGRI BATON PROJECT(アグリバトンプロジェクト)”を通して農業の楽しさを伝える活動も続けている。このプロジェクトでは、田植え・稲刈り体験、生き物探しといったイベントの実施や、2021年には食育に関する絵本を出版している。
「農家さんって朝早いイメージがあるかもしれないですけど、うちの場合お仕事自体は8時半から。田植えの忙しい時はちょっと8時から出たりしますけど、農家だからといって特別に早起きではないです」と、1日のタイムスケジュールを紹介する。
竹本さんも「うちも会社としてやっていますが、働く時間は融通を利かせています。夏場は暑いので6時ぐらいからお昼まで作業し、そこからお昼休みをとってじっくりお昼寝とかして、夕方からまた働く、みたいな日もありますね」と話す。
交流会では、参加者からの質問も寄せられた。「大切に育ててきた作物が天候や台風の影響でダメになった時に気持ちが折れそうになることは?」という質問に、竹本さんは「少し極端な言い方ですけど、努力で何ともできないことだったらみんなで笑うしかない、という境地でやっています」と答えていた。
また、「農家になるために何を学ぶべきことや必要な資格は?」という質問には、「僕も農業系の高校や大学へ進学したわけではないので、あまりないです。細かいところだと、自動車免許はマニュアルで取っておくと農家になりやすいですね。オートマの軽トラもあるんですけど、やっぱりマニュアルの方が使い勝手がいいので」(竹本さん)、「ご自分が興味あることを一生懸命学ぶことが一番かなと思います。いまの農業っていろいろな仕事があって、パソコンにデータ入力したり、ドローンのプログラミングをしたりすることもあるし、きっと何を学んでも農業で役に立つと思います」(横田さん)と、それぞれアドバイスを送った。
マイナビ財団では、「食料ボックス」の対象家庭の子どもたちなどへ向けて、今後も将来に役立つイベントの企画などを継続的に行なっていくという。